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2015.01.07

今年の食料・農業政策の課題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2015年1月6日放送原稿)

1.昨年バターが不足するという報道もありました。今年の食料・農業政策の課題としては、どのようなものがあるのでしょうか?

 今年の大きな課題としては、昨年米価が2割ほど低下したことへの対策、今年山場を迎えるTPP交渉への対応、安倍総理が60年ぶりの抜本改革と意気込む農協改革をあげることができると思います。

 そのまえに、バター不足について、お話ししたいと思います。

 牛乳は面白い農産物です。牛乳を加工するとバターと脱脂粉乳ができます。夏場は牛がばてて生乳生産が減少しますが、暑いので牛乳の消費は増えます。その結果、牛乳が足りなくなります。そこで冬場に作って置いたバターと脱脂粉乳に水を加えて、元の牛乳に戻して販売します。これが"加工乳"と表示されているものです。

 バター不足の原因として、酪農家の離農によって生乳生産が減少したという説明が行われています。しかし、酪農家の戸数は1963年の42万戸から2000年には3万にまで大きく減少し、それからは微減で現在2万戸となっています。また、今年だけバター不足を招くほどの離農があったわけでもありません。

 さらに、生乳からバターと脱脂粉乳が同時に生産されてくるので、生乳が不足してバターが足りなくなるのであれば、脱脂粉乳も足りなくなっているはずですが、そのような指摘はありません。バターにあわせて生乳を増産すると、脱脂粉乳が余ってしまいます。そういう心配があったのではないかと思います。

 国内では不足しましたが、ヨーロッパの生産増加とロシアの買い控えで、国際市場では、バターを含めた乳製品は過剰で、価格は大幅に低下しています。その安いバターが、なぜか入ってきません。

 それは、バターについては高関税によって民間の輸入は事実上禁止されており、低い関税の輸入枠も、農林水産省の指示を受ける国の機関(独立行政法人農畜産業振興機構)が独占的に輸入しているからです。農林水産省は、国内の乳製品需給が緩和し、価格が低下することを恐れて、なかなか輸入しようとはしないし、輸入する場合でも最小限の量しか輸入しないため、必要な量が必要な時に国内市場には輸入されません。もし、関税などがなくなることで、酪農家が苦しくなるのであれば、アメリカやEUのように、財政から直接支払いを交付するという方法があります。


2.関税の話が出ましたが、TPP交渉はどうなるのでしょうか?

 アメリカの中間選挙の結果、アメリカの議会は、上院、下院とも自由貿易推進派の共和党が多数を占めました。アメリカでは連邦議会が通商交渉の権限を持っていますが、新しい議会は政府に交渉権限を与える法案を可決すると思います。ただし、これは白紙委任ではなく、共和党は他国の関税を撤廃するよう交渉すべきだという条件を付けることも考えられます。

 一方で、中間選挙で敗北したオバマ大統領としては、何かを業績として歴史に残そうとするはずです。内政では、共和党と対立しているので、業績として残せるようなものは作れません。そうすると、共和党も反対しないTPPを業績として残したいと考えるはずです。

 過去にも、大統領選でクリントン候補に敗北したブッシュ大統領が、ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉をまとめて、大統領としての業績にしようとして、EUとの間で難航していた農業交渉の合意を短期間でまとめたという例があります。これはホワイトハウスの迎賓館の名前をとって、ブレア・ハウス合意と言われました。

 こうした状況の中で、今年交渉は加速すると考えられますが、農産物については、共和党の意向を受けて、アメリカ政府は、関税撤廃を強く要求してくる可能性が高いと思います。安倍政権にとって、大きな政治決断を迫られるときが、来るかもしれません。


3.米価対策や農協改革については、どうでしょうか?

 昨年の米価低下に対して、農業界では、政府が市場に介入して米価を高く維持すべきだという主張が強まっています。しかし、消費税の引上げが貧しい消費者の家計に影響を与えるという理由で、米などの食料品には軽減税率を適用するという方向が固まったのに、米価を上げてよいのでしょうか?米価が下がったことは、貧しい消費者の人たちにはよかったのではないでしょうか?

 米価が下がっても、農家所得に占める農業所得の割合が低い兼業農家の人たちは、影響を受けません。影響を受ける主業農家には、財政から直接支払いを交付するという方法があります。

 農協は協同組合であるという理由で独占禁止法の適用除外を受けてきました。農産物の生産コストである肥料・農薬、機械などの資材価格が高くなるので、農産物・食料品の価格も高くなります。農協の全国組織である全農を株式会社化して、独占禁止法を適用すれば、農産物価格は下がることが期待できます。

 そもそも、農家に4,000億円の減反補助金という納税者負担を行って、米の供給を制限し、米価を上げて6,000億円の消費者負担を強いるなどという、政策が、長年続けられてきています。また、国際価格よりも高い米などの農産物価格は、高い関税で守られてきています。高い関税で食料品の価格を吊り上げることが国益だというのは、変ではないでしょうか?消費税の引き上げが逆進性を高めるというのであれば、これまでの農政は、逆進性の本家のようなものです。

 バター不足や米価への対応でも、TPP交渉での関税対応でも、直接支払いをすれば、農家は困らず、消費者が利益を得ます。農政の目的を食料の安定供給に定めれば、具体的な政策の進路はおのずと定まるはずだと思います。


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