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2014.12.04

世間が納得しない"農協の自己改革案"

WEBRONZA に掲載(2014年11月17日付)

 農協が11月6日に自己改革案をまとめた。これは、5月に規制改革会議が行った提言に端を発し、6月に政府で取りまとめられた農協改革案を受けてのものだ。政府の取りまとめでは、農協の判断を尊重することが強調されていた。

 これまで農協改革には、だれも手を付けられなかった。5月22日政府規制改革会議がまとめた農協改革案は、かつてないほど、大胆なものだった。

 第一に、農協の政治活動の中心だった全中(全国農業協同組合中央会)や都道府県の中央会に関する規定を農協法から削除する。全中は系統農協などから80億円の賦課金を徴収してきた。農協法の後ろ盾がなくなれば、全中は強制的に賦課金を徴収して政治活動を行うことはできなくなる。

 第二に、全農やホクレンなどの株式会社化である。これは、協同組合ではなくすということである。日本の農業には、農協によって作られた高コスト体質がある。肥料・農薬、農業機械の価格は米国の2倍である。全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬、農業機械で6割のシェアをもつ巨大な企業体である。このように大きな企業体であるが、協同組合という理由で、全農には独占禁止法が適用されてこなかったし、一般の法人が25.5%なのに19%という安い法人税、固定資産税の免除など、様々な優遇措置が認められてきた。

 本来、農協は農家が安く資材を購入するために作った組織だったのだが、独占禁止法が適用されないことで、農家に高い資材価格を押し付け、最終的には高い食料品価格を消費者に押し付けてきた。様々な優遇措置がなくなることによって、全農が、一般の企業と同じ条件で競争するようになれば、資材価格や食料品価格が低下する。

 しかし、これは、農協の意向を忖度せざるをえない自民党によって、骨抜きにされた。自民党は、民間の自主的組織なので国が関与するのはおかしいという農協の主張に乗せられてしまった。全中は新たな制度に移行するが、「農協系統組織での検討を踏まえて、結論を得る」。全農の株式会社化も、独占禁止法の適用除外がなくなることによる問題の有無等を精査し、問題がない場合、という条件つきで、「株式会社化を前向きに検討するよう促す」ことになった。全中は勝利宣言した。

 しかし、安倍首相は6月24日、「中央会は再出発し農協法に基づく現行の中央会制度は存続しない。改革が単なる看板の掛け替えに終わることは決してない」と発言し、その後も同様の発言を繰り返している。全中は安倍発言に反発しているが、「農協系統組織での検討を踏まえ」ればよいだけで、これに総理が拘束されなければならないものではない。

 このような中で出された、農協の自己改革案では、「自主自立の協同組合組織であるJA(農協)が、自らの組織改革を自らの手で必ずやり遂げる強い決意」(JA全中会長)を強調し、傘下のJAに対する全中の監査という大きな権限は維持するとともに、全中などの中央会を農協法に措置することが重要だとした(全農やホクレンなどの株式会社化については、検討を先送りした)。これに対して、規制改革会議は、11月12日直ちに、農協法から中央会に関する規定を削除して、経団連のように一般社団法人に早期に移行すべきだという意見を発表した。

 農協改革を判断するのは、農協ではない。銀行も自主的な民間組織だが、銀行法を作ったのは、銀行ではない。食料の安定供給や農業の発展という観点から、どのような農協組織や農協法にするのかは、政府・議会、最終的には国民が判断することである。農協が国民に高い食料品価格を強要したり、農業の発展を阻害しているのであれば、その組織の検討を農協に委ねるのは、国民目線から著しく妥当性を欠く。

 そもそも全中などの中央会制度は、当初から農協法に規定されていたわけではなかった。経営破たんした農協の救済という名分はあったにせよ、戦後の農協設立によって冷や飯を食べさせられていた戦前の農会系統の人たちの帝国農会復活の夢が、現在の農業委員会系統の全国農業会議所として実現する際に、これに好意を持たない農協系統の人たちをなだめるために、戦前の産業組合中央会を農協法のなかに中央会として復活させたのだ。つまり、戦前の団体間の怨念が、農協法のなかの中央会規定となったのであり、遠い過去の遺物である。

 JA全中会長が強調するように、農協が自主自立の組織なら、地域農協が必要と感じた場合には、一般社団法人となった全中に、自主的に監査を依頼すればよいだけであって、農協法に規定する必要はない。また、公認会計士と全中のどちらに監査を依頼するかは、自主自立の組織である農協が判断すべきことではないだろうか。さらに、農協の自己改革案のどこを読んでも、全中などの中央会を農協法に措置しなければならない必要性は見当たらない。というより、自主自立の組織なのに、農協法に措置しなければ、全中の監査を受けられないのかという矛盾すら感じるのである。

 これでは、安倍首相だけではなく、国民も納得しないのではないだろうか。

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