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2014.11.18

TPPと日本のコメ

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2014年11月11日放送原稿)

1.TPP交渉でアメリカが日本へのコメ輸入枠の拡大を要求しているという報道がなされました。

 日本の国内では、TPP交渉参加国が今年末に向けて、交渉をなんとかまとめようと交渉しているときに、このような要求を行うのは問題であるというような報道が一部でなされました。 しかし、日本がコメの関税を維持するよう主張している以上、アメリカの要求は、当初から予定されたものでした。TPP交渉参加国は、ほとんどの品目で関税を撤廃し、関税撤廃の例外を設けるときも、極力例外品目を少なくしようと考えています。これに対して、日本は、コメ、麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉という多くの品目を、関税撤廃の例外とするよう、要求しています。

 通商交渉では、例外を要求すると必ず、見返り、代償を要求されます。コメの関税を撤廃しないという例外を要求するのですから、その代償として、コメの輸入枠の拡大が要求されることは、日本政府としては覚悟していたはずです。


2.これまでの通商交渉では、どうだったのでしょうか?

 日本の農業交渉では、いつもコメが大きな問題となりました。

 私も交渉に参加した、ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉では、日本にとって最大の政治問題は、輸入数量制限などの関税以外の貿易措置を全て関税に移行するという"関税化"でした。当時、日本では、コメだけではなく、麦、乳製品など多数の品目が、これ以上輸入させないという輸入数量制限を行っていました。日本などごく少数の国を除いて、交渉参加国の全てが、この関税化には例外は設けないという考えでした。日本は、交渉の最終段階まで、かなりの品目の例外扱いを要求していましたが、最終的にはコメだけ代償を払って、例外を認めてもらいました。つまり、コメだけ輸入数量制限を続けることにしたのです。

 輸入数量制限を止めて関税化すれば、消費量の5%に相当する輸入枠を設定することになっていました。これをミニマム・アクセスと言います。関税化のやり方は、ウルグァイ・ラウンド交渉を開始した時の内外価格差を関税に置き換えるというものでした。しかし、その当時の内外価格差は大きかったので、関税化の結果できあがる高い関税を払って輸入されることは考えられませんでした。このため、ミニマム・アクセスという低い関税の輸入枠を設定して、一定量の輸入は行われるようにしたのです。

 コメの関税化の例外措置の代償は、関税化すれば消費量の5%ですんだミニマム・アクセスを8%に増加するものでした。つまり、例外を求めたために、より多くの輸入を約束することになったのです。

 しかし、このミニマム・アクセスに耐えられなくなった日本政府は、1999年に関税化に移行し、ミニマム・アクセスの増加を抑えることにしました。しかし、最初から関税化していれば消費量の5%ですんだミニマム・アクセスが消費量の7.2%まで増加してしまいました。関税化した結果のコメのキログラム341円という関税は、今の国産米価200円をはるかに上回っています。輸入価格がタダでも、関税を払えば、輸入米の価格は国産よりも大幅に高くなってしまうのです。つまり、関税だけで十分日本のコメは保護できたのです。コメについて関税化の例外措置を要求する必要はなかったのに、例外を要求したために、大きな代償を払うことになったのです。

 政府は、ミニマム・アクセス米は主食用中心の国内のコメ需給に影響を与えないという閣議了解を行いました。しかし、輸入しても国内で主食用には処分しない、または処分しても、その量を上回る国産米を安く海外への援助や家畜のエサに処分するために、莫大な財政負担が生じました。さらに、輸入しても援助要請がなされるまで長期間保管せざるをえないので、カビが増殖し、2008年汚染米事件が発生しました。

 WTOになってからのドーハラウンド交渉でも、関税の大幅な削減を回避するために、ミニマム・アクセスを増加させても構わないという方針で臨んでいます。つまり、例外を主張すると必ず代償を要求されるということは日本政府も覚悟してきたのです。これはTPP交渉でも例外ではありません。


3.アメリカの要求は、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

 ミニマム・アクセスは現在77万トンあります。ほとんどはあられやせんべいなどの加工用やエサ用、援助用に輸入しているのですが、一部主食用に向けられるコメとして、10万トンの枠がさらに設定されています。この10万トンについては、最近ではアメリカからの輸入がかなりを占めています。この10万トンの枠を拡大して、アメリカからの輸出を増やそうと提案しているようです。しかし、アメリカとしては、77万トンのミニマム・アクセスの別枠として、つまり追加的に、新たなTPP枠のようなものを要求しても良かったと思われるのに、抑えた要求をしていると思います。


4.アメリカの中間選挙が終わりました。今後のTPP交渉の見通しはいかがですか?

 アメリカの上院、下院とも自由貿易推進派の共和党が多数を占めました。共和党は民主党のオバマ政権とは対立姿勢をとっていますが、自由貿易については協力するという立場をとっています。アメリカでは連邦議会が通商交渉の権限を持っていますが、新しい議会は政府に交渉権限を授権する法案を可決すると思います。これを受けて来年交渉は加速すると考えられますが、農産物については、アメリカは関税撤廃を強く要求してくる可能性が高いと思います。安倍政権にとって、大きな政治決断を迫られるときが、来るかもしれません。


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