本文へスキップ

2014.08.18

秋に米価は暴落する

WEBRONZA に掲載(2014年8月4日付)

 今秋米価が暴落する。すでに、先物価格は昨年に比べ3割も下落している(10月に引き渡される米の価格は60kgあたり2013年12,350円→2014年8,810円)。大幅な過剰在庫が存在するからだ。その原因を作ったのが、農協の全国組織である全農である。なぜこうなったのか。簡単に説明しよう。

 2012年産は4年ぶりの豊作となった。他方、同年産米の全農と卸売業者の相対取引価格は、60 kg当たり16,501円となっている。震災の影響で高値となった11年産をさらに上回り、10年産12,711円に比べると30%も上昇した。消費は減少傾向が続き、生産が増えているのに、価格が上がっているという不思議な現象が起きた。13年産も前年を上回る豊作となった。それなのに、米価は依然として14,500円程度の高い水準を維持した。

 米も他の商品と同じく、供給が増えれば価格が下がるし、供給が減れば価格は上がる。それなのに、需要と供給の道理から離れた動きをしたのは、米流通の5割を牛耳る全農が、高い米価を維持するために、供給を抑えたからである。

 しかし、米が全農に集まっているのに、供給を制限すれば、全農が抱える在庫が増える。11年、12年6月の民間在庫は180万トンだった。それが13年6月には224万トンになり、14年6月には257万トンになると予想された。農協や卸の団体などでつくる米穀安定供給確保支援機構が、機構が持っている約220億円の過剰米対策基金を全額使い切って、35万トンを買い取り、市場から隔離することにしたため、14年6月の在庫は222万トンに低下した。

 だが、それでも高い水準であることは間違いない。12年と比べると、依然全農は42万トンの過剰在庫を抱えている。しかも減反が目標通り達成されていない(過剰作付がある)ため、14年産米が平年作でも19万トンが新たに過剰米として上乗せされる。全農の過剰在庫は米流通量の1割にも及ぶ60万トンに増加する。

 在庫が増えると、農協の保管経費が上昇し、農協経営を圧迫する。このため、いずれ農協は在庫を処分しなければならない。そうすると米価は下がる。これを見込んで、米の先物価格は既に8,000円台半ば近くまで低下している。この米価は中国から輸入している米の価格と同水準である。14年産米が豊作だと、米価はもっと下がる。米の関税はいらない。TPP交渉で、米の関税を撤廃できる。輸出も拡大できる。

 しかし、農協の米の販売手数料は米価に比例するので、米価が下がると農協は手数料収入を確保できなくなり、農協経営は圧迫される。それだけではない。収入が減少した農家から、農協に対する非難が巻き起こるに違いない。

 では、農協はどうする?農協の最大の経営資産は政治力である。これまで米が過剰になると、農協は永田町(自民党)に圧力をかけて、政府に過剰在庫を買い入れさせ、海外への援助や家畜の餌に処分させてきた。農協が米価を操作しても、その尻拭いは財政、つまり納税者である国民がしてくれるという、うまい仕組みだった。

 今回も、農協はこの手を使ってくるだろう。しかし、政府が過剰米を買ってくれなければ、身から出た錆とはいえ、農協は大変な損失を被ることになる。政府の在庫は備蓄米に限定されているので、それ以上の米を買い入れる大義名分は政府にはない。

 これまで備蓄米の在庫水準を積み上げるという理屈を立てて、過剰米を買い入れてきた。しかし、同じく財政資金を使うのであれば、そんなことをするよりも、主業農家にだけ直接支払い(所得補償)をすれば、米農業への影響をなくすことができる。米からの所得がゼロの兼業農家に所得補償をする必要はないからだ。少ない財政資金で済む。

 すでに、米の消費者価格は低下してきている。私の自宅に、新潟県産コシヒカリ10kgあたり4,700円を3,580円に24%値下げするというチラシ広告が入っている。消費税増税による逆進性を緩和するため、軽減税率を適用しようとしている政府が、これまでのように米市場に介入して、米価を上げるようなことは、断じて行うべきではない。

 米価低下の原因を作った全農、それに対して十分な政治活動を行えないJA全中に対して、組合員農家から大きな反発が生じるだろう。安倍政権にとって、春にはJA農協と自民党に換骨奪胎された農協改革案を本来の姿に戻すべく、反転攻勢に転じる絶好の好機到来である。

 より本質的には、減反を年々強化してきたにもかかわらず、米価はこの10年間で3割も低下してきている。減反による米価維持で農家の所得を保証するという政策は、とっくの昔に破綻していることに、農業界は気づくべきである。米価は市場に任せ、影響を受ける主業農家にだけ直接支払いを交付するという政策に一刻も早く転換すべきである。


同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる