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2014.08.11

中国食品の落とし穴、食の安全確保に甘すぎる日本企業

WEBRONZA に掲載(2014年7月28日付)

 またしても、中国産の食品の安全性が疑問視されるような事件が起こった。中国の食品会社「上海福喜食品」が期限切れ肉を使っていたことが大きく報じられ、波紋を広げている。

 2008年には中国製冷凍餃子に有毒物質が混入された事件が発覚、同年にはタンパク質の含有量を不正に多くみせようとして有害物質のメラミンが乳製品に不正に混入された事件が発生、2010年には下水道の汚水を精製した油が食用油として中国全土の飲食店で多数使われていたことが発覚している。

 これは中国だけの問題ではない。2000年には、雪印乳業による集団食中毒事件、2011年にはユッケ食中毒事件が発生するなど、我が国も例外ではない。


■消費財としての食品の特殊性

 このような事件が生じる背景には、消費財としての食品の特殊性がある。

 食品は、消費者がその特徴を購入前に確定できる財(腐敗や変色をしていれば、購入前に危害要因を識別できる「探索財」)、購入後にはじめて特徴がわかる財(ある食品がどれだけ日持ちするかなど時間が経てば消費者がその特徴を把握できる「経験財」)、購入後においても特徴を把握することが困難な財(「信用財」)に分類される。

 探索財について消費者がおかしいと判断すると購入されないし、消費後に製品の不良を判定できる経験財については、だまされた消費者は次の購入機会には買わないという決定をすることができるので、企業が消費者をだまそうとするインセンティブは少なくなる。


■「信用財」と「情報の非対称性」

 しかし、ある食品がビタミンなどの栄養素をどれだけ含んでいるか、どの程度の農薬が残留しているのか、安全な製造過程で生産された食品かどうか、などは、購入・消費後においても一般の消費者は判断できない。これらは事後にも消費者が安全性や品質を検証できない「信用財」である。

 今日では生鮮食品の購入の比率が低下し、加工食品や惣菜、外食の比率が増加している。特に、惣菜、外食等の比率を示す食の外部化率は1975年の28%から最近年では45%程度まで上昇している。

 生鮮食品である牛肉と豚肉の違いは見ればわかるが、加工食品である冷凍コロッケの中身は判断できない。健康飲料にビタミンがどれだけ含まれているのか、どのような食品添加物が入っているかなどは、企業が行う表示を信用するしかない。つまり、「信用財」である。

 消費者は企業が自らの要求に答えた商品を提供しているかどうかを判定する手段を持たない。食をめぐる問題は、食生活の高度化と「信用財」という食品の特殊性によって、企業は食品の性質をわかっているが消費者はわからないことから生じている。経済学で「情報の非対称性」と言われる問題である。

 企業が持っている情報を消費者は知ることが出来ないうえ、企業が情報を開示しても消費者は情報の真偽を判断する手段を持たない。結局消費者は企業の提供する情報を信用するしかない。


■中国の発展段階で日本の基準守れるか

 さらに、中国から食品を輸入する場合には、我が国と中国の経済の発展段階の違いから、消費者や国民の食品の安全性に対する要求に違いがあるため、中国では日本人が要求する安全性を確保できないかもしれないことを考慮しなければならない。

 国民が貧しくてカロリー摂取がままならないような段階では、少々安全でないものでも、食べざるを得ない。終戦直後の日本の食生活はそうだった。「中国で安全性を気にしていたら、食べるものがなくなる」という中国の人の発言も報道されている。

 しかし、経済が発展するにつれ、人々は食品に対して、量の充足から安全への要求を高めていく。労働コストが安いことが、中国で加工食品が製造され、日本に輸入される要因となっているが、安い食品を輸入するメリットがある反面、安全性が犠牲になるというデメリットに注意しなければならない。


■検疫で防ぐことは非現実的

 日本の検疫所が危険な輸入食品を水際で防ぐことも重要だが、年間200万件程度の輸入に対して、緩やかな検査も含めて1割程度しか実施されていない。これをさらに増加することは、財政的にも現実的ではない。

 いくら検査体制を拡充・強化したとしても、食品のすべてを検査するのは現実には不可能である。とすれば、安全な食品を製造、輸入するという企業の対策に待つしかない。

 「情報の非対称性」によって、消費者は企業を信用するしかない。このとき、メラミン事件のように、企業が組織ぐるみで安全性に問題があるような食品を生産したり、輸入したりすれば、消費者は防ぎようがない。企業が「情報の非対称性」を故意に悪用する場合である。


■企業は健康に直結する責任の自覚を

 しかし、今回の事件や雪印の事件など、過失や従業員への管理不十分によって、問題が生じているケースが少なくない。これらは、過失や怠慢によって、企業自身が十分な情報を入手していない場合である。メラミン事件のようなケースでも、問題企業から食品を購入した企業が食品の安全性をチェックすることにより、消費者への危害を防止することができる。

 今回のような事件でも、工場への監視カメラの導入によって、従業員が非衛生な食品の取扱いをすることは防止できるはずである。また、自己の子会社を中国に作り、日本から職員を派遣して、工場の管理に当たらせるという方法もあるだろう。

 国民の健康に直結する消費財を扱っているという責任を、企業は厳しく認識する必要がある。


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