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2014.06.13

農業"保護"を今、真剣に問え!

「週刊世界と日本」2014年6月16日掲載

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉について、米、麦、砂糖については現在の関税を維持するとともに、米、麦については、米国産の輸入枠を拡大するという報道がなされている。

 日本の政治において、聖域中の聖域である米の関税を日本が削減できないのは、アメリカの米業界もわかっている。小麦は、農水省が独占的に輸入している「国家貿易制度」のおかげで、数十年もアメリカ6割、カナダ、豪州各2割のシェアが固定している。関税がなくなると、アメリカはカナダ、豪州だけでなく、EUなど他の国とも、価格競争を含めた真剣勝負をしなければならなくなる。そうなるとアメリカの輸出が減る可能性が高い。米も小麦も、関税がかからない輸入枠の設定・拡大がアメリカの利益になる。砂糖については、そもそも輸出競争力はない。アメリカは日本に関税維持の名を与えて、輸出利益を拡大するという実を採った。

 報道によると、牛・豚肉については、アメリカは関税の撤廃は取り下げたが、大幅な引下げを要求している。牛肉の関税38.5%を一桁台に、豚肉のキロ482円を数十円に引き下げる案も議論されている。日本が求める輸入急増時のセーフガードについては、アメリカが難色を示しているそうだ。

 これまで農業は保護すべきだという主張が当然のように受け入れられてきた。しかし、ワープロの出現で下町の印刷業者の人たちは転廃業を余儀なくされ、大型店の郊外進出で旧商店街はシャッター通りとなったが、これらの人たちに国が特別の保護や補償を行ったことはない。

 農業には、食料安全保障や水資源の涵養などの多面的な機能という役割があるので、市場経済だけで判断すべきではないとして、保護されてきた。これは米をイメージして作られた議論だった。多面的機能として、農業界が指摘する、水資源の涵養、洪水防止、景観などの機能のほとんどは、米を作ることによる水田の機能である。水田は米を作る生産装置である。それなのに、水田の4割に米を作らせないようにするため、毎年2,500億円もの減反補助金を農家に交付しているのは、矛盾していないだろうか。食料安全保障に必要なものは農地資源なのに、減反開始後100万ヘクタールの農地が消滅した。

 さらに、TPP交渉で争点となっている牛肉や豚肉は、アメリカからの輸入とうもろこしを飼料として作られている。牛・豚肉の生産が維持されても、国内の農地資源が維持されるものではなく、食料安全保障にはほとんど寄与しない。また、畜産は大量の糞尿を廃棄物として出し、健康被害を生じかねない過剰な窒素分を国土に蓄積してしまう。

 牛肉や豚肉については、関税等で保護する必要性は乏しいといってよい。もちろん保護しなくてもよいということは、これらの産業がなくなってもよいということではない。日本の農業には、農業政策によって作られた高コスト体質がある。養豚農家によると、国内の輸入とうもろこし価格はアメリカの2倍となっている。これは飼料だけではなく、肥料・農薬、農業機械についても同じである。全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬、農業機械で6割、飼料で5割のシェアをもつ巨大な企業体である。このように大きな企業体であるのに、協同組合という理由で、全農には独占禁止法が適用されてこなかったし、一般の法人が25.5%なのに19%という安い法人税、組合員への配当の非課税、固定資産税の免除、多額の補助金など、様々な優遇措置が認められてきた。

 本来、農協は農家が安く資材を購入するために作った組織だったのだが、独占禁止法が適用されないことで、高い高資材価格を農家に押し付け、最終的には高い食料品価格を消費者に押し付けてきた。食料品についても同じである。

 例えば、2012年産米は豊作だったのに、コメについて5割のシェアを持つ全農は、意図的に供給量を絞ることで米価を高く操作し、消費者に負担をかけることにより、米価に比例する販売手数料収入を確保している。様々な優遇措置がなくなることによって全農が、一般の企業と同じ条件で競争するようになれば、資材価格や食料品価格が低下することが期待できる。関税よりも、日本農業の高コスト体質を作っている要因の除去の方が先決である。規制改革会議が提案している全農の株式会社化は、協同組合であることの特権の除去を狙ったものである。

 保護する方法も問題である。米については、4,000億円もの税金を使って農家に減反に参加させることにより、供給を減少させ、主食である米の値段を上げて、6,000億円を超える消費者負担を強いている。

 18,000億円の米生産に対して、国民は、納税者として消費者として二重の負担をしており、その合計は1兆円を超える。減反を廃止して、その補助金の一部を減反廃止による価格低下で影響を受ける農家への補償に切り替えれば、少ない財政負担で済むだけでなく、これまで国民に負担させてきた膨大な消費者負担は消えてなくなる。

 関税で守っているのは、国内の高い農産物=食料品価格である。消費量の14%に過ぎない国産小麦の高い価格を守るために、86%の外国産麦についても関税を課して、消費者に高いパンやうどんを買わせている。消費税増税には逆進性が問題とされる一方で、関税で食料品価格を吊り上げている逆進的な農政を維持することは、国益なのか。TPPをきっかけとして、農業保護について真剣に議論してはどうだろうか。


山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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