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2014.04.22

望ましい農業政策

IIST e-Magazine  に掲載(2014年2月28日付)(「TPPと農業再生」シリーズ第4回)


 1960年以降の米価引き上げが、規模拡大や収量の向上によるコストダウンを阻んでしまった。減反を廃止して米価を下げたうえで、主業農家に直接支払いを行えば、これは構造改革を呼び、大幅なコストダウンが可能となる。これによって、品質面では世界的に評価の高い米を輸出することが可能となる。


 今後国内市場が高齢化と人口減少で縮小するなかでは、輸出しか農業の維持・振興の活路は見出せない。

 野菜や果物も輸出されているが、日持ちの面で難点がある。保存がきき、大量の輸出が可能な作物。国内の需要を大幅に上回る生産能力を持つため、生産調整が行われており、それがなければ大量の生産と輸出が可能な作物。日本が何千年も育ててきた作物で、国際市場でも評価の高い作物。といえば、コメである。コメの輸出を本格的に展開していけば、日本は農業立国として雄飛できる。

 それは、日本農業が置かれた自然条件から、物理的、能力的に不可能だという類のものではない。これまで農業を振興するはずの農政が、コメ農業の発展の道をふさいできた。農政さえ改革すれば、農業は発展する。


構造改革の必要性

 所得は、価格に生産量をかけた売上額からコストを引いたものであるから、所得を上げようとすれば、価格または生産量を上げるかコストを下げればよい。すでに食生活の洋風化が進み米消費の減少が見込まれていた1961 年、米の売上額の増加が期待できない以上、農業基本法は、規模を拡大することでコストを下げ、稲作農家の所得を引き上げようと考えた。

 1 俵(60kg)あたりの農産物のコストは、1ha 当たりの肥料、農薬、機械などのコストを1ha 当たり何俵とれるかという単収で割ったものだ。規模の大きい農家の米生産費(実際にかかった物財費と呼ばれるコスト、15ha 以上の規模で1 俵あたり6,378 円) は零細な農家(0.5ha 未満の規模で15,188 円)の半分以下である(2011 年)。また、単収が倍になれば、コストは半分になる。つまり、規模拡大と単収向上を行えば、コストは下り、所得は上がる。

 図が示す通り、都府県の平均的な農家である1ヘクタール未満の農家が農業から得ている所得は、ほとんどゼロである。ゼロの農業所得に20戸をかけようが40戸をかけようが、ゼロはゼロである。20ヘクタールの農地がある集落なら、1人の農業者に全ての農地を任せて耕作してもらうと、1,450万円の所得を稼いでくれる。これを地代として、みんなの農家に配分した方が、集落全体のためになる。地代を受けた人は、何もしないのではない。その対価として、農業のインフラ整備にあたる農地や水路の維持管理の作業を行う。農村振興のためにも、農業の構造改革が必要なのだ。

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高米価政策の弊害

 しかし、農地面積が一定で規模を拡大することは、農業に従事する戸数を減少させるということである。組合員の圧倒的多数であるコメ農家の戸数を維持したい農協は、このような構造改革に反対した。政府がコメを買い入れていた食管制度の時代、農協は、政府買入れ価格引上げという一大政治運動を展開した。

 米価引き上げによって、本来ならば退出するはずのコストの高い零細農家も、小売業者から高い米を買うよりもまだ自分で作った方が安いので、農業を継続してしまった。零細農家が農地を出してこないので、農業で生計を立てている農家らしい農家に農地は集積せず、規模拡大は進まなかった。主たる収入が農業である主業農家の販売シェアは、酪農で95%、野菜や畑作物では82%にもなるのに、コメだけ38%と極端に低い。つまり、コメの構造改革が進まなかったのは、農政のせいだ。

 米価引上げで米は過剰になった。過剰生産をなくし、政府買い入れを抑制して財政負担を軽減するため、1970 年減反が導入された。食管制度が1995 年に廃止され、政府買入れ価格もなくなった今では、米価は生産量を制限する減反政策によって維持されている。かつては政府の全量買上げを要求し、減反に反対した農協が、今や減反を強力に支持している。

 減反は生産者が共同して減産するというカルテルである。他産業なら独禁法違反となるカルテルに、年問約2000 億円、累計総額8 兆円の補助金が、農家を参加させるためのアメとして、支払われてきた。さらに、民主党政権は、2010 年度から減反参加を条件とした戸別所得補償(3000 億円)を導入した。今回2013年の自民党政府による政策変更は戸別所得補償を廃止する代わりに、従来からの減反補助金を拡充しようというものであり、減反の廃止などではない。減反が廃止されるのであれば、米価が下がるので、TPP交渉で関税維持に固執する必要はない。

 コスト削減も困難となった。総消費量が一定の下で単収が増えれば、米生産に必要な水田面積は縮小する。そうなると、減反面積を拡大せざるをえなくなり、農家への減反補助金が増えてしまう。このため、単収向上のための品種改良は、政府の研究機関ではタブーとなった。今ではカリフォルニアの米単収より日本米の平均単収は4 割も少ない。減反を廃止して、単収をカリフォルニア米並みにすれば、コストは1.4分の1に低下する。既に、カリフォルニア米の単収を上回る品種が民間で開発され、栽培されている。しかし、兼業農家に苗を供給する農協は、生産増加による米価低下を恐れて、このタネを採用しようとはしない。

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コメ大量輸出が手に届く状況に

 図で、下のグラフは、日本が現実に輸入している中国産の輸入価格である。真ん中のグラフは、この中国産を日本国内で売却した価格である。上の日本産の価格と真ん中のグラフとの差は、価格に現れた品質格差である。しかも、日本産の1万3千円という価格は減反で供給量を制限することによって実現された水準なので、減反を廃止すれば、8千円程度に低下し、日本産の価格は中国産よりも安くなるので、関税は要らなくなる。

 日本にコメを輸出している中国の最大の内政問題は、都市部の一人当たり所得が農村部の3.5倍にも拡大しているという「三農問題」である。中国がこの問題を解決していくにつれ、中国農村部の労働コストは上昇し、農産物価格も上昇する。日本の農産物の価格競争力が増加するのである。

 仮に、減反廃止により日本米の価格が8千円に低下し、中国産米の価格が1万3千円に上昇すると、商社は日本市場でコメを8千円で買い付けて1万3千円で輸出すると利益を得る。この結果、国内での供給が減少し、輸出価格の水準まで国内価格も上昇し、国内のコメ生産は拡大する。そもそも、TPPで関税がない状態が実現できれば、国際価格よりも高い、減反という国内の価格カルテルは維持できない。

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 減反の廃止により米価を下げれば兼業農家は農地を貸し出す。一定規模以上の主業農家に限って直接支払いを交付すれば、その地代負担能力が上がって、農地は主業農家に集積し、規模が拡大して、コストは下がる。15へクタール以上の農家の米生産費は6,378円である。減反の廃止で、カリフォルニア米並みに単収が増えれば、そのコストは1.4分の1、4,556円に減少する。全国平均9,478円に比べ、半分以下の水準である。

 現在の価格、コストでも、台湾、香港などへ米を輸出する生産者が出てきている。世界に冠たる品質の米が、規模拡大と単収向上による生産性向上で価格競争力を持つようになると、まさに、鬼に金棒である。減反をやめれば、日本のコメ産業は、その品質の高さで、世界市場を席巻するようになるだろう。輸出による日本農業再生である。

 日本農業を維持、振興しようとすると、輸出により海外市場を開拓せざるを得ない。その際、輸出相手国の関税について、100%と0%のどちらが良いのかと問われれば、0%が良いに決まっている。国内農業がいくらコスト削減に努力しても、輸出しようとする国の関税が高ければ輸出できない。貿易相手国の関税を撤廃し輸出をより容易にするTPPなどの貿易自由化交渉に積極的に対応しなければ、日本農業は衰退するしか道がない。TPPは農業のためにも必要なのだ。その際の正しい政策は、減反廃止による価格引下げと主業農家に対する直接支払いである。守るべきは農業であって、関税という手段や農協という組織ではない。

 日本の産業や農業にとって有望な市場は中国である。TPPよりも日中韓のFTAを優先すべきだという主張がある。しかし、今でも関税1%で中国へ輸出できるが、簡単に輸出できない。日本では㎏当たり400円で買える日本米が、上海では1,300円もする。中国では、国営企業が流通を独占し、高額のマージンを徴収しているからだ。関税をゼロにしても、このような事実上の関税が残る限り自由に輸出できない。

 アメリカがTPPで狙っているものに、中国の国営企業に対する規律がある。同じ社会主義国家で国営企業を抱えるベトナムを仮想中国と見なして交渉することで、いずれ中国がTPPに参加する場合に規律しようとしているのだ。日本が日中のFTAで中国に国営企業に対する規律を要求しても、中国は相手にしないだろう。アメリカの力を借りて国営企業に対する規律を作るしかない。TPP交渉に参加することが中国市場開拓の道となる。


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