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2014.04.07

TPP交渉は妥結か漂流か

WEBRONZA に掲載(2014年3月24日付)

 オバマ大統領が訪日する4月にかなりの前進がないと、TPP交渉は漂流するのではないかという報道がなされている。今の状況からTPP交渉を予測してみよう。

 日米の農産物交渉が交渉全体をハイジャックしているのは事実である。しかし、それ以外にも、アメリカと豪州等との間に医薬品についての知的財産権の問題、アメリカは繊維製品、砂糖、カナダは乳製品、鶏肉、マレーシア、ベトナム、シンガポールは国営企業、途上国は労働と環境、についてそれぞれ問題を抱えている。

 アメリカは今年11月に中間選挙があるので、今年合意をするのであれば4~5月がデッドラインとなるが、以上の問題がこの2ヶ月の間に急転直下解決されるとは、到底思えない。つまり、今年中の妥結は困難と見るのが、妥当だろう。しかし、漂流するのかと聞かれれば、それはないだろう。


TPP交渉の中の日本

 日本の主張はどう受け止められているのだろうか?

 自民党や国会の委員会は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖などを関税撤廃の例外とし、これが確保できない場合は、TPP交渉から脱退も辞さないと決議している。

 日本の政権内では、安倍総理がオバマと会って、アメリカは工業製品(自動車)、日本は農産物にセンシィティビティがあることを認め合ったはずではないかという見方がある。しかし、アメリカとしては、センシィティビティがあるとは認めたが、それは関税を維持するということではないという理解だろう。

 アメリカは、自動車の関税を撤廃するまでの期間を長くすることが、センシィティビティの反映だとしている。日本の農産物についても、20年という長期の関税撤廃期間を認めるので、センシィティビティを考慮しているではないかと反論されれば、日本は再反論できない。


豪、カナダなども認めない日本の主張

 また、5品目の関税維持の国会決議は、首脳会談以降に行なわれたもので、アメリカとしては、日本の勝手な話だというものだろう。アメリカだけではなく、豪州、カナダ、ニュージーランド、ベトナムなどの他のTPP交渉参加国も、日本の主張を認めない。日本国内でも、5品目の関税維持が可能だと思っている人は、農業界にもいないだろう。

 日豪FTA交渉で、牛肉の関税削減を豪州に認めれば、アメリカの牛肉は日本市場で不利になるので、アメリカの硬い態度を軟化させられるのではないかという見方が、政府内にあるようである。

 しかし、牛肉の関税はTPP交渉の一部に過ぎないので、それでアメリカが交渉態度を変化させるとは、思われない。また、豪州の要求する関税削減を日本の農業界や自民党が認めるかどうかは明らかではないし、豪州も日豪FTAで関税削減の先行者利益を受けるものの、最終的にはTPPで関税を撤廃すべきだという立場だろう。TPP交渉の相手は、アメリカだけではない。

 安倍総理は、自民党には、農産物関税撤廃の例外を勝ち取る交渉力があると主張して、国会両院の選挙戦を勝ち取った上、オバマ大統領との会談で農産物に聖域があることを確認したと、自民党内に説明したうえで、TPP交渉参加に踏み切った。国会決議を無視できないと何度も主張し、それがその都度否定される姿を、国内の農業界に示さなければ、日本は譲歩できない。ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の時も、例外なき関税化という世界の主張が、国内でやむをえないと容認されるまで、相当な時間がかかった。


アメリカの事情と立場

 「アメリカから見たTPP交渉」(2014年2月21日付)で示したとおり、アメリカ政府にとっても、連邦議会が政府に通商交渉の権限を授権するTPA(大統領貿易促進権限法)の獲得が、今年中は困難となるなかで、"良い内容のTPP交渉結果"を実現できなければ、来年議会にTPA法案可決を迫れないと考えている。

 そのためには、関税撤廃やルールなどでレベルの高い協定を実現する必要があるし、日本の農産物の関税を撤廃し、アメリカ農業界が評価するようなものでなければならない。

 もちろん、他の関係業界、労働組合、環境団体などの利害関係者からも評価を受け、議会が納得するものである必要がある。これは交渉の現状と大きな隔たりがある。また、アメリカも、豪州との間で砂糖をどれだけ解放するかという、簡単に解決できない問題を抱えている。


2015年の妥結へ

 TPP交渉はいつ妥結するのか?

 おそらく、コメについては無税の輸入枠を設定し、それ以外の農産物の関税は撤廃することになるだろうが、日本で国政選挙が行われるのは2016年であろうから、2015年中にこのような結果に合意しても、選挙への影響は少ない。

 アメリカも、2015年には大きな選挙はない。特に、砂糖の問題はスイング・ステイトであるフロリダ州の選挙に大きな影響を与えかねないので、2016年の大統領選挙のときに譲歩することは、避けたい。TPAについても、中間選挙で議会の構成が変われば、新しい議会は、態度を変えるかもしれない。

 2015年を超えて漂流はしないだろう。日本にとっても、安倍総理が減反廃止とダボス会議で発言しながら、国会の予算委員会で発言を撤回するなど、アベノミクスのメッキが剥げつつある。TPPへの強いコミットがなければ、日本売りが始まってしまう。韓国だけでなく中国までもTPPに関心を持ち出している状況では、農産物のためにTPP交渉から脱退するという選択肢は難しい。

 オバマ大統領にとっても、このままでは実績をほとんど残せないという不名誉な結果になりかねない。かつて大統領選挙で敗北した父ブッシュ大統領は、歴史に名を残すために、レイムダックの期間中にウルグァイ・ラウンド交渉を大きく進めることとなった、米EU間のブレア・ハウス合意を実現した。オバマ大統領もTPPとEUとのFTAを実現して、面目を施したいと考えるだろう。

 交渉の妥結は、来年の2015年になるだろう。


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