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2014.01.06

やはりこれは自民党農政への「王制復古」だ―安倍さんは騙されているのか、騙しているのか?―

WEBRONZA に掲載(2013年12月22日付)

 12月20日夜のテレビ番組に安倍総理が出演し、とりわけ農政改革の成果を強調していた。「40年以上続き、自民党では手をつけられないだろうと言われた減反に手をつけた。さらに、農地集積の機構を創設して、農業の規模を拡大し、生産性を上げていく。農政の大転換を決定した。」おおむね、こういう内容だった。

 しかし、既に指摘しているように、今回の政策変更は、民主党が2010年に導入した戸別所得補償を廃止しただけで、水田にコメを作らせないという1970年から続けてきた本来の減反補助金は、大幅に拡充される(「"廃止"では全くない"減反見直し"」参照)。

 具体的には、米粉やエサ用のコメを生産すれば、減反補助金を主食用のコメを販売した場合の収入と同額の10万5千円(10アールあたり)にまで拡充する。減反とは農家に補助金を出して主食用のコメの生産を減少させて、その米価を高く維持することだ。この本質はいささかも変わらない。減反廃止などではない。

 この政策には、4つの大きな問題がある。

 第一に、膨大な財政負担が必要となることだ。今でも減反には、戸別所得補償を含めて5千億円の補助金、財政負担を行っている。農林水産省はエサ米の需要は450万トンあるとしているので、それだけのエサ米生産が行われれば、面積は65万ヘクタール、財政負担は7千億円、残りの転作面積のための補助金を加えると、減反の補助金は8千億円に膨れ上がる。

 第二に、米粉やエサ用にコメを販売すれば、いくらかの販売収入が得られるので、農家は主食用のコメよりも、米粉やエサ用にコメを作った方が有利となる。そうなれば、主食用のコメの供給が減り、主食用の米価は上昇する。実は、これこそ、自民党、農水省、農協の"農業トライアングル"の狙いだ。これまで1.8兆円に過ぎないコメ農業に、納税者負担5千億円、消費者負担6千億円、合計1.1兆円の負担を国民は行ってきた。この負担をさらに増やそうというのだ。納税者の金を使って、消費者の負担を高めるという、減反政策の"とんでもなさ"はもっとひどくなる。

 第三に、農地集積の機構を作るというが、これは1970年からある組織のリメイクだ。これが機能しなかったのは、高米価で兼業農家が農業を続け、農地を出してこなかったからだ。出てこない農地を貸しつけることはできない。(「これで農業所得の倍増は無理、全てリメイクだった農業成長戦略の"三本の矢"」参照。)今回の政策変更で米価は下がらないので、農地集積の新機構も機能しない。

 第四に、補助金漬けによる米粉やエサ用のコメ生産は、輸入される小麦やトウモロコシを代替してしまい、主要輸出国であるアメリカからの穀物輸入を減少させてしまう。WTOに減反補助金を提訴することで、アメリカは日本車に報復関税をかけることが可能となる(「アメリカが黙っていない減反見直し―自動車に報復関税がかけられる可能性も―」参照)。

 今回の政策変更が減反の廃止ではないことや、減反の必要性や米価を下げないことは、自民党の責任者や農水省の担当課長が、繰り返し明言している。5年後に減反を廃止するなら、来年度26万トンさらに減産する、つまり減反を強化するような決定を農水省はしないはずだ。面白いことに、JA農協の機関紙である日本農業新聞だけが、政策変更の内容を正確に報道し、主要紙やNHKの廃止報道を誤りだとしている。「減反廃止」と報道した主要紙も、朝日新聞をはじめ論説記事ではこれを修正してきている。これは農政の大転換どころか、旧来型の自民党農政への復古なのだ。

 安倍総理が言うように、本当に今回の政策変更が農政の大転換であって、減反廃止で米価が下がり、農業の構造改革が進むのであれば、なぜTPP交渉でコメの関税を維持しなければならないのか。直ちに関税を撤廃しろとは、アメリカも言っていない。10年から15年くらいかけて段階的に下げていけばよいと言っている。15年もかければ、コメの構造改革は進むのではないか?安倍総理は今回の政策変更の中身を理解しているのだろうか?農水省の役人に騙されて農政の大転換と発言しているのだろうか?

 しかし、農政の大転換などと勇ましい発言をしているのは、官邸であって、内容をよくわかっている農水省はそのような主張はしていない。廃止(すなわち米価の引下げ)だと言えば、農協や自民党農林族から大反発を受けることは、農水省ならよくわかる。そんなことは、総理にも説明しない。

 では、今回の政策変更をことさらに大きく見せかけているのは、農水省ではなく、安倍総理を中心とする官邸だということになる。安倍総理の発言と、大手マスコミが報道した、減反廃止→農地集積の機構を通じた規模拡大→TPP対応のための国際競争力強化というロジックは、最後のTPPを除けば同じだ。農水省と異なり、TPP交渉も、できれば関税撤廃に持っていきたいのが、官邸の本音だろう。とすれば、安倍総理と大手マスコミの息はぴったり合っていることになる。

 国内外の機関投資家は、農政改革をアベノミクスの成果を占う象徴のように受け止めている。農政改革が評価されなければ、アベノミクス全体の評価が崩れ、日本売りが起こりかねない。推測だが、そのように考えた人たちが、ことさら今回の政策変更を高く売りつけようとしたのではないだろうか。農政の知識を持っている日本農業新聞を除き、その人たちを取材している大手マスコミの記者達が、それに飛びついてしまったのではないだろうか。


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