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2013.10.03

アベノミクスと農業

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2013年10月1日放送原稿)

1.アベノミクスに対する海外の関心はどうですか?

 海外の投資家はアベノミクスに大きな関心を持っています。農業問題が専門の私のところにも、海外から何人かの有力な投資家の人がやってきて、アベノミクスで日本の農業はどう変わるのかを聞きに来ます。これは、今までになかったことです。また、今月下旬には、アメリカの著名なシンクタンク、戦略国際問題研究所が、日本のエコノミストをワシントンに招待して、アベノミクスについてのシンポジウムを開催します。私もこれに呼ばれて、農業改革について議論することになっています。海外の投資家がなぜ農業に関心を持つのか、よくわかりませんが、改革しようとしてもなかなか改革できなかった農業が、アベノミクスの試金石だと受け止められているのではないかと思います。安倍総理は、アベノミクスを買ってほしいと米国でスピーチしたそうですが、逆に海外の期待を裏切ることになれば、海外の投資家が日本を売るという事態も起こる恐れがあります。


2.では、アベノミクスは海外の期待に添うことができるのでしょうか?

 私は、海外の投資家の人たちに、農業については、あまり期待しない方がよいと言っています。安倍総理は、岩盤のような規制に果敢にチャレンジしていくという趣旨のことを述べていますが、農業の成長を阻害してきた岩盤の中の岩盤は、減反政策です。農家に約5,000億円の補助金を払って減反に参加させ、コメの供給を制限して価格を高くし、消費者に約5,000億円の負担をかけています。国民は、1.8兆円のコメ農業に1兆円の負担をしています。

 その結果、農業がよくなったかというと、逆です。トンあたりの農産物のコストは、農地面積当たりのコストを面積当たりどれだけ取れるかという収量で割ったものです。農地面積当たりのコストは、規模が大きくなるにつれて、低下します。1ヘクタールの農家よりも10ヘクタールの農家の方が、面積当たりのコストは低くなります。しかし、減反政策で米価を高くしたので、零細な農家が滞留して、農地は専業農家に集まりませんでした。今回アベノミクスで農地を集積して農家の規模拡大を行おうとしていますが、そもそも零細な農家が専業農家へ貸そうとしなければ、専業農家への農地集積は困難です。

 また、面積当たりの収量が増えるとコストは下がります。同じ面積で1トン生産する農家に比べ2トン生産する農家のトン当たりのコストは、半分になります。しかし、減反とはコメの生産を減少させる政策ですから、国や都道府県の試験研究機関では、収量を上げるような種子の開発はタブーになりました。今では、日本のコメの平均収量はカリフォルニアの4割も低くなっています。民間の会社でカリフォルニアの収量を上回るコメが開発されていますが、一般には採用されていません。一部の人たちの栽培にとどまっています。

 つまり、コメの生産コストは、減反政策で高くなったのです。また、米価を高くしたので、コメの消費は減少しました。これはコメ農業にとってもよいことではありません。農業で生計を立てている専業農家の人達のなかには、減反を廃止すべきだという声が強いのですが、多くの農家の人たちは専業農家ではないので、政治的に困難です。これは、総理が相当な覚悟と熱意を持って真剣に取り組まなければ、解決できない問題です。減反を廃止できれば、米価は下がって関税もいらなくなります。TPP交渉で、コメを関税撤廃の例外としなくて済みます。こうした改革ができるかどうかを、海外の人たちは見ているのです。


3.農地の企業取得については、進展が期待できますか?

 農業界は、一般の株式会社も、農地を借り入れるのであれば、農地を利用して農業を営めることになっているので、農地の所有権取得まで認めなくてもよいではないかと主張しています。また、所有権を取得したいという要望は少ないとも主張しています。

 しかし、借り入れの場合には、所有者から返してくれと言われれば、返さざるを得ないので、農業者はきわめて不安定な地位に置かれてしまいます。大きな投資をして高額な機械を購入しても数年後に無駄になってしまうおそれがあります。また、農地の生産性を挙げようとすると、土壌改良や区画整理など土地投資が必要となりますが、いつか返さなければならない農地に多額の投資をしようとする農業者はいません。やはり農業を本格的に営もうとすると所有権の取得が必要となります。

 また、農地の所有権を取得したいという要望が少ないのは、農業を行うには、農地の価格が高過ぎてしまっているからです。ヨーロッパでは、都市と農村の区分け・線引き(ゾーニングと言います)が厳格なので、農地が宅地に転用されることはまずありません。しかし、日本ではそうした線引きが緩やかなので、農地は容易に転用されます。この結果、一般の土地価格に農地価格も連動して上昇したので、現実の農地価格は、農業を行うことで支払うことができる価格を大幅に上回っています。農地の売買価格は、農地を借りた場合に支払う借地料の130年分にもなっています。農業をしようとすると、借りた方が安いのです。農地価格を比べると、日本はアメリカやフランスの20倍以上となっています。高い農地価格は線引きを適切に実施しなかった農政に責任があります。

 このような反対論はあるものの、農地制度については、プレッシャーが強いので、ある程度規制緩和は進むと思います。しかし、それが農業を活性化する方向で行われようとしているかというと、疑問があります。この問題については、また日を改めて、お話したいと思います。


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