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2013.09.17

TPP累積原産地規則による日韓競争力逆転の可能性

WEBRONZA に掲載(2013年9月3日付)

 原産地規則とは、ある産品がどの国や地域で作られたかを判断するための規則である。世界中の加盟国を平等に扱うことを原則とするWTO(世界貿易機関)では重要な規則ではないが、複数国間の関税撤廃などを目的とするFTA(自由貿易協定)では極めて重要な規則となる。なぜなら、FTAの本質が「差別」にあるからである。

 FTAは加盟国間だけの貿易を自由化するものである。A、B、Cの国のなかで、A国とB国がFTAを結んだとする。A国はB国からの無税での輸入は認めているが、C国からの無税輸入は認めていない。

 しかし、FTAに参加しないC国からB国へ完成度の高い製品が輸出され、B国でわずかな加工が加えられただけでA国に輸出されると、このような実質的にはC国産の製品も無税でA国は輸入せざるをえないことになりかねない。原産地規則とは、このような場合を排除しようとするものである。

 原産地規則には、協定や品目によって、異なる方法がとられる。関税分類番号が変更されたかどうかとか、特別の加工が加えられたかどうかで、どの国の産品かが判断される場合もある。自動車や機械などでは、B国での付加価値が基準値以上の場合に実質的変更が行われたと考えてB国産と認定する、それ以外はC国産として無税での輸入を認めないという方法(一部は関税分類番号方式と併用)が、とられている。この付加価値の基準値をどこに置くかも、協定や品目によって異なり、例えば、日本とASEANのFTAでは40%など、北米自由貿易協定では60%などとされている。

 累積の原産地規則とは、仮にTPPで付加価値の基準が50%とされた場合、加盟国全ての付加価値を合計したものが50%以上であれば、TPP域内産であるとして、無税での輸入を認めようというものである。現在の国際貿易の特徴は、素材や部品の貿易が最終製品の貿易よりも活発になっていることである。

 東日本大震災で東北の自動車部品工場の生産が中止された結果、アメリカ・デトロイトの自動車工場の生産が困難になったのは、その一例である。つまり、現在の最終製品は、どの国の産物かわからないほど、さまざまな国や地域の素材や部品から構成されている。別の言い方をすれば、さまざまな国や地域をまたがる広大なサプライチェーンが形成されているのである。多数の国から成るTPPが累積の原産地規則を採用することは、無税対象の貿易が拡大することとなり、二国間のFTA以上に大きな貿易促進効果を持つことになる。

 これまで、韓国がEUやアメリカとFTAを結んでいるために、韓国企業はこれらの国や地域に無税で輸出できるのに、日本企業は関税を払わなければ輸出できないという競争条件の不利が指摘されてきた。今我が国は、アメリカ市場を含むTPPだけでなく、EUともFTA交渉を開始している。競争条件の不利は克服されようとしている。

 それだけではない。TPPの累積原産地規則によって、韓国企業よりも日本企業の方が有利になる可能性が出てくる。例えば、付加価値の基準が50%の場合、韓国企業は自国内だけで50%以上の付加価値を付けなければ、アメリカに無税で輸出できないが、日本企業は他のTPP参加国の部品を40%集め、日本国内で10%の付加価値を付けるだけでよいことになる。もちろん、付加価値の基準が米韓FTAよりもTPPの方が相当高いと、このような効果は減殺されるが、ある程度の違いは「累積」によって克服することが可能である。

 もし、このような事態が起きれば、韓国にTPPに参加するインセンティブが高まることになる。自由貿易地域が拡大すればするほど、これに参加しないことのデメリットが高まり、周囲の国に参加しようとするドミノ効果が生じる。累積原産地規則はTPPのドミノ効果を一層大きくしようとしている。


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