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2013.07.11

鎌江 伊三夫インタビュー 編著書「医療技術の経済評価と公共政策―海外の事例と日本の針路」

じほう【PHARMACY NEWSBREAK】に2013年6月28日掲載

 鎌江伊三夫研究主幹の編著書「医療技術の経済評価と公共政策―海外の事例と日本の針路」の内容について、その出版社である「じほう」のインタビュー記事を紹介する。

著書紹介は、こちらからご覧ください。



 中医協に費用対効果評価専門部会が設置されるなど、医療経済評価をめぐる議論が再燃している。じほうでは4月に「医療技術の経済評価と公共政策―海外の事例と日本の針路」を刊行した。医療の経済評価とは何か、薬剤師にどのように関わってくるのかなど、本書の監修者である東京大公共政策大学院の鎌江伊三夫特任教授に話を聞いた。


―「医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)」の定義をあらためてお聞かせください。

 技術開発による利益とリスクの評価を行うことが技術評価ですが、医療においても同様です。医薬品、医療機器はもちろん、手術、予防的措置まで、医療に関わるありとあらゆるインターベンション(介入)がHTAの対象です。医療技術評価機関国際ネットワーク(INAHTA)は、HTAは「医療技術の開発、普及、および使用により生じる医学的、経済的、社会的、かつ倫理的意義を分析する学際的な政策研究分野である」と定義しています。

 しかし、HTAという言葉には広義と狭義の意味が混在しています。広義には、医療制度、病院や医師・看護師の配置といった問題まで含みますが、狭義には、主として医療の社会的な支払い可能性や持続可能性、あるいは費用対効果を調べるものです。今、製薬会社を中心に使われているHTAという言葉は、かなり限定的な意味になっています。狭義のHTAの中でも特に医療技術の費用対効果、経済評価のことを指しているのです。


―医療経済評価に注目が集まっているのはなぜですか。

 大きな理由は2つあるでしょう。第1は、医療の価値に対する考え方が変わってきたことです。医療の選択について、1990年代初めごろから欧米を中心にEBM(Evidence-Based Medicine)の考え方が確立されました。ただ、EBMの評価対象は医学的効果だけで費用対効果については議論されていませんでした。しかし時代とともに、医学的効果だけでなく費用やQOLまで含めた価値(Value)も医療技術評価の対象とする考え方が広がり、EBMからVBM(Value-Based Medicine)へと変化してきました。

 もう1つは政策の問題です。特に、世界は高騰する医療費に悩んでいるということです。多くの国が公的資金を使って医療を行っています。唯一、先進国の中で米国は例外的で、民間保険を主とした医療制度になっていますが、多くのヨーロッパ諸国や日本では税金や社会保険の仕組みによる公的扶助が中心となっています。

 しかし、ここ数十年、高齢化や医療技術の進歩のため医療費が高騰してきて、各国の財政を圧迫する事態になってきました。日本も国民皆保険を続けていくことが苦しくなってきています。そのような中、薬剤や医療機器の保険償還の検討が新たに費用対効果の観点から必要だと考えられるようになってきたのです。


―海外ではどのような取り組みがされていますか。

 まず取り組みを始めたのが90年代の初めのカナダ、オーストラリアです。英国では、NICE (National Institute for Health and Care Excellence)という医療技術評価機関が99年につくられました。ヨーロッパではNICEに追随して医療技術評価機関が相次いでできました。2000年代の10年間に医療経済評価が公共政策に応用されていく大きな動きができてきたのです。

 製薬業界でもNICEの動きは注目されました。例えばアリセプトの保険償還をNICEが認めず、NICEと製薬会社による裁判に発展しました。このことは企業のビジネス戦略に大きな影響を与えるとともに、医療経済評価に対する透明化の必要性、評価手法の進歩を促しました。


―日本ではどのような動きがありますか。

 日本では今まで国民皆保険制度が機能してきたこともあり、正式に議論が始まったことはありませんでした。しかし、いよいよ逼迫する医療費の問題に加え、韓国、タイ、台湾などアジア各国が日本にさきがけ医療経済評価を始めたことで、日本でも取り組むべきとの機運がようやく高まりました。今回は特に、経済評価の必要性を訴えてきた森田朗先生(学習院大教授)の中医協会長への就任がきっかけとなりました。14年度の診療報酬改定から一部試行的に導入することを念頭に12年4月に中医協に費用対効果評価専門部会ができ、現在議論が進行中です。


―費用対効果の問題を、薬剤師はどのように捉えればよいでしょうか?

 臨床データの評価の問題について、学生時代に学んだ薬剤師は少ないのではないでしょうか。これは医師も同じです。しかし臨床の現場では、薬の費用対効果を捉えていくことは非常に大事な問題です。例えばDPCを導入している病院で薬剤選択をする場合、薬剤のさまざまなデータを正しく解釈し費用と効果のバランスを考えて優れた価値をもつ薬剤選択を推奨することが薬剤師の見識にも必要です。また、費用対効果を考慮した薬剤選択は、自施設の経営的側面だけでなく、ひいては社会的な医療費の問題としても重要です。

 さらに、学会での取り組みも求められます。医療経済評価の国際学会であるISPOR (International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research)の会員のうち、3分の1近くは薬剤師です。これは薬剤師の役割が重要であることを示しています。薬剤師による議論の範囲を、EBMからVBMまで広げていくことが今後必要だろうと思います。


―最後に、本書の特長を教えてください。

 医療経済評価に入門的に取り組みたい初学者を対象として想定し、医療技術評価の意義、取り組みの歴史、具体的な各国の状況などを幅広く解説しています。これからのわが国の制度を議論していくために前提となる基本的な知識を提供する書籍を目指しました。

 もう1つの特徴は、座談会を収録したことです。この分野に関わる専門家にそれぞれの立場から医療経済評価の問題点や今後の針路を執筆、議論してもらっています。中医協の会長である森田先生にも加わってもらうことができましたので、いわば森田中医協の基本原理、考えの背景が分かる点は、専門書というより読み物としても面白いのではないでしょうか。

 本書はHTAの歴史の検証と同時に、現代においての実用性の両方を兼ね備えた書籍となりました。これからの日本が取り組むべき政策への提言を俯瞰できることを願っています。


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