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2013.05.30

世界に冠たる品質の日本の米-規模拡大と単収向上で競争力を-

「週刊世界と日本」に掲載(2013年5月27日)

 世間には、"常識"や"通念"と言われているものがある。農業については、「日本の農業は、土地が少なく、農家の規模も小さいので、アメリカやオーストラリアの農業とは競争できない。」、「自然に影響される農業は、工業とは違う。」、「規模の大きい農家は、化学肥料や農薬などをたくさん使う近代的な農業を行っているのに対し、貧しくて小さい農家は環境にやさしい農業を行っている。」というものだろう。これに、農協、農林水産省、農業の研究者、知識人と言われる人たちは、「だから、農業、特に小農は保護しなければならない。規模拡大による農業の効率化などとんでもない。」と続ける。しかし、そうだろうか。

 まず、今の日本に貧しい小農などいない。小さな農家は勤労者世帯を上回る所得を稼ぐサラリーマン兼業農家である。農業所得に依存していないので、経営規模拡大など農業に真剣に取り組む必要はない。だから、農業の規模が小さいのだ。

 兼業農家は週末にしか農業ができない。農業に多くの時間をかけられないので、雑草が生えると農薬で処理してしまう。小さい兼業農家ほど、農薬・化学肥料を多投し、規模が大きい農家ほど、環境に優しい農業を行っている。コメでは、1ヘクタール未満の平均的な農家では環境保全型農業の取組みは2割もいないのに、10ヘクタール以上だと5割を超える(2000年)。

 コメ、野菜、果樹、畜産などを組み合わせる複合経営は、環境や生態系にもやさしく、地力維持にも役立つ農法である。同じ作物を生産することによる生産量の低下("連作障害")を回避できる。家畜糞尿や植物残渣を堆肥化すれば、化学肥料を節約できる。病害虫発生を防止して農薬を節約できる。しかし、週末だけの片手間ではできない、このような農法を行っているのは、大規模な経営体である。

 規模については、農家一戸当たりの農地面積は、日本を1とすると、EU6、米国75、豪州1309である。規模が大きい方がコストは低い。しかし、規模だけが重要なのではない。世界最大の農産物輸出国米国も、豪州の17分の1に過ぎない。土地の肥沃度が異なると、作物も単位面積あたりの収量(単収)も違う。土地が痩せている豪州では主に草地で牛を放牧しているのに対し、米国はトウモロコシ生産が主体である。

 競争力という場合、コストと同時に品質も重要である。自動車にベンツのような高級車と低価格の軽自動車があるように、同じ農産物の中でも品質格差は大きい。日本米の国際市場での評価は高い。香港では、同じコシヒカリでも日本産はカリフォルニア産の1.6倍、中国産の2.5倍の価格となっている。軽自動車に比べ、ベンツのような高級車がコストも価格も高いのは当然である。世界で貿易されるコメのほとんどは、アフリカ、南アジアなどの低所得国向けの低品質米である。800万トンある日本産に、品質面で対抗できるのは、世界貿易量3千万トンの1%、30万トンに過ぎないといわれる。

 確かに農業と工業は違う。農業は季節によって農作業の多いときと少ないとき(農繁期と農閑期)の差が大きいため、労働力の通年平準化が難しい。コメ作でいえば、田植えと稲刈りの時期に労働は集中する。農繁期に合わせて雇用すれば、他の時期には労働力を遊ばせてしまい、大きなコスト負担が発生する。

 傾斜があり区画が小さい農地が多い中山間地域では農業の競争力がないと考えられているが、標高差があるので、田植えと稲刈りにそれぞれ2~3カ月かけられる。これを利用して、夫婦二人の経営で10~30ヘクタールの耕作(都府県のコメ作の平均規模は0.7ヘクタール程度)を実現している例がある。このコメを冬場に餅などに加工したり、小売へのマーケティングを行ったりすれば、通年で労働を平準化できる。平らで農作業を短期間で終えなければならない10ヘクタール程度の北海道農業より、コスト面で有利になるのである。品質面でも、中山間地域は必ずしも条件不利ではない。日中の寒暖の差を活用し、新潟県魚沼のような食味のよいコメ生産や色の鮮やかな花の生産も行われている。

 これだけではない。日本は南北にも長い。九州から北海道までに位置する農場間を労働や機械を移動することで、労働平準化と機械の稼働率向上を図っている経営がある。また、ある有機農法のぶどう農家は、異なる品種の栽培、露地と施設による栽培などを組み合わせて、労働をならしている。前述の複合経営のねらいも労働平準化である。つまり、農業を工業の生産工程に近づけようとしている農業経営が成功しているのだ。

 日本が世界に誇る農産物はコメである。しかし、生産を減少させて高い米価を維持しようとする減反政策が、コメ農業の競争力を奪ってきた。逆に言うと、これらの政策を廃止することで、日本を一大コメ輸出国に転ずることができる。

 単位数量あたりのコストは、面積あたりのコストを面積あたりの収量(単収)で割ったものだから、単収が上がれば、コストは下がる。しかし、1970年の減反開始後単収向上のための品種改良は、行われなくなった。今では、日本のコメ単収はカリフォルニア米より、4割も低い。減反を廃止して、単収をカリフォルニア米並みになれば、コストは1.4分の1に低下する。

 減反による高米価で、零細な兼業農家が滞留した。他の農業では、主業農家の販売シェアは8割以上にも上るのに、コメだけ4割を切っている。減反の廃止により米価を下げれば兼業農家は農地を貸し出すようになる。主業農家に限って直接支払いを交付すれば、その地代負担能力が上がって、農地は主業農家に集積し、規模が拡大する。規模が拡大すれば、コストは下がる。15へクタール以上の農家の米生産費(物財費)は6,500円である。減反の廃止で、カリフォルニア米並みに単収が増えれば、そのコストは4,500円程度にまで減少する。全国平均の米生産費9,800円に比べ、半分以下の水準である。

 現在、中国から9千円/60kgでコメを輸入している。仮に、減反廃止により日本米の価格が8,000円に低下し、三農問題の解決による農村部の労働コストの上昇や人民元の切り上げによって中国産米の価格が1万3,000円に上昇すると、商社は日本市場で米を8,000円で買い付けて1万3,000円で輸出すると利益を得る。この結果、国内での供給が減少し、輸出価格の水準まで国内価格も上昇する。これによって国内米生産は拡大し、農業所得を倍以上に拡大できる。

 近年内外価格差は縮小し、現在の価格でも、台湾、香港などへ米を輸出している生産者が出てきている。世界に冠たる品質の米が、規模拡大と単収向上による生産性向上で価格競争力を持つようになると、まさに、鬼に金棒である。減反をやめれば、日本のコメ産業は、その品質の高さで、世界市場を席巻するだろう。


山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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