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2013.05.17

農地集約の新機構案

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2013年5月14日放送原稿)

1.政府は、農地を集約するために、都道府県段階に「農地中間管理機構」というものを新たに設置することを決定と報道されています。

 農家からこの機構が農地をいったん借り受けて、必要があれば区画を大きくしたり、水路などを整備したりして、大規模農家や農業法人などの農業の担い手にまとまった農地を貸しつけることを検討しているようです。つまり、この機構が、いったん農地の受け皿となり、貸し手と借り手の橋渡しをしようというものです。

 実は、これまでも類似の事業はありました。農地保有合理化事業といわれるもので、農家から農地を買い入れたり借り入れたりして、農地をまとめて、これを規模拡大しようとする農家に売り渡したり、貸し付けたりしています。この事業を行う法人を農地保有合理化法人と言います。都道府県段階の農地保有合理化法人としては、47都道府県すべてに公社が設置されており、主として農地の売買事業を行っています。また、市町村段階でも、市町村や公社、農協などが農地保有合理化法人として、主として農地の貸借の事業を行っています。ただし、期待されたほど効果は上がっていません。農地面積は全国で450万ヘクタールありますが、2005年以降の事業実績をみると、毎年農地の売買が7千から9千ヘクタール、農地の貸借が1万2千から1万6千ヘクタール程度となっています。

 今回検討されている機構が、これまでの農地保有合理化事業と違う点として、まず、農地の区画整理や水路の整備などの農業基盤整備事業と連携させて、農地を良好に整備したうえで、担い手に渡そうとしていることです。これまで、農地の集約を行う事業と農地を整備する事業は、同じ農林水産省の事業なのに、相互に関連なく行われてきました。これは、一歩前進したと評価できます。次に、耕作放棄地や放棄されそうな農地も、いったんこの機構に集めようとしていることが、あげられます。ただし、農地の貸借だけを行うこととしており、農地保有合理化事業が行っていた農地の売買は行わないようです。


2.この機構を設置する背景を説明してください。

 農業には、野菜や花など、それほど多くの農地を必要としない農業と、コメや麦など多くの土地を必要とする農業があります。野菜などは、関税が低くても、輸入品に対して、十分競争しています。しかし、土地を必要とする農業は、競争力がないため、高い関税で保護されており、TPPなどで関税がなくなると大変な影響が生じると主張されています。

 規模が大きくなるとコストは下がります。0.5ヘクタール未満の農家がコメを作るコストは60キログラムあたり1万5千円ですが、15ヘクタール以上の農家のコストは6千円で、0.5ヘクタール未満の農家の半分以下です。所得は、売上からコストを引いたものです。零細な農家のコストは高いので、0.5ヘクタール未満でマイナス10万円、0.5から1ヘクタール未満でわずか2万円の所得です。これに対して、15ヘクタールから20ヘクタールの規模の農家の所得は1千万円、20ヘクタール以上の規模の農家だと1千3百万円を超えます。

 しかし、都府県のコメ農家のほとんどは1ヘクタール未満の規模です。例えば、20ヘクタールの集落の農地を0.7ヘクタールの農家が30戸で耕作しても、農業所得はマイナスかとんとんです。しかし、これを一人の農家に集約すれば、全体の農業所得は1千3百万円になります。これを地代として、農地の出し手にも配分すれば、集落全員の所得が向上します。(農地の出し手は地代を受け取る代わりに、農地や水路の維持管理をします。ビルの大家がビルのメインテナンスをするのと同じです。)つまり、農地の集約は、競争力の強化だけではなく、農家所得の向上のためにも必要なのです。


3.今回の政府の提案は農地集約に効果的でしょうか?

 これまでの農地保有合理化事業よりは、効果を上げることはできるかもしれませんが、大きな効果は期待できないと思います。それは、農地が出てこないとか、耕作放棄が進行するとかという現象に対して、根本的な対策が講じられないからです。

 これには二つの原因があります。ヨーロッパのように土地の利用規制が厳しいところでは、農地は宅地などに転用できません。ところが日本では規制が甘いので、簡単に転用できます。0.1ヘクタール転用すると、市街化調整区域では2千5百万円、市街化区域内では6千万円ほどの利益が出ます。農地を貸していると、売ってくれと言う人が出てきたときに、すぐには返してもらえません。それなら耕作放棄しても農地を手元に持っていた方が得だということになります。耕作放棄しても固定資産税はほとんどかかりません。

 また、減反政策で米価を高く維持しているので、コストの高い農家も農業を続けています。また、担い手が農地を借りて規模拡大する場合にも、農地の4割はコメを作ってはいけないという減反の義務がかかります。つまり、農地を貸したがらないし、借りにくくなっているのです。

 農林水産省の大先輩である柳田國男は、「本当は大きな改革をすべきなのに少ししか改良しないで、やらないよりましだという人は、本当に国家をうれい、国家に忠実な人とは言えない」と言っています。農業のためにも、国家のためにも、抜本的な改革が望まれます。


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