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2013.05.01

非効率病院の共通項(上)

「キャリアブレイン」2013年4月15日15時に掲載

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 病院経営の失敗は、当該医療圏における医療ニーズとのミスマッチが大きい、すなわち事業ポートフォリオが不適切であることによります。その事業体の財・サービス提供体制がニーズからずれていれば、どの業種でも赤字になります。

 日本の経済・財政の置かれた状況から、次期診療報酬改定でプラス改定が期待できないことや、控除対象外消費税の問題などを引き合いに出し、『このままでは医療機関の倒産が多発する』との声が上がっています。これに対して、私の役割は中立の立場で現状分析し、将来どうなるかをお伝えすることです。

 日本全国に2013年1月末時点で8,563ある病院のうち、民間病院が多く、かつ中小病院の経営が厳しいという事情は十分理解しています。しかし、その原因は、おのおのの病院の経営者が自ら決めた診療科の組み合わせ、すなわち事業ポートフォリオが顧客である地域住民のニーズと一致していないからです。このミスマッチは、ライバルが多く、医療の過剰供給体制に陥っている地域ほど深刻です。

 このニーズとの不一致が大きいことが赤字経営の主因なのであり、診療報酬が全体として低過ぎるからではありません。なぜなら、急性期から外来、在宅、介護など、すべての機能を備えて包括ケアを実施できている医療事業体を見ると、2010年度以降、過去最高益の状況にあるからです。

 現在赤字経営に苦しんでいる中小病院も、創立時点では地域のニーズにマッチしていたと思われます。しかし、10年、20年と年月が経つうちに提供したい機能と求められている機能がずれてしまったのです。一方、同じ経営環境にありながら、先の見通しが利く病院経営者たちは、機敏に事業ポートフォリオを修正。自らの強みを活かした包括ケア提供の仕組みを作り業績好調です。つまり、赤字の原因はあくまで経営者の判断ミスの積み重ねにあるのです。それを救済するために診療報酬を引き上げて追加財源を投入するような余裕は日本経済に到底ありません。

 医療制度が公中心か民中心かに関係なく、米国やカナダ、オーストラリアでも、その地域で中核となる医療事業体がすべての機能を備え、医療技術の進歩や地域のニーズ変化に合わせて事業ポートフォリオを柔軟に修正。そこに様々な民間施設が連携したり、競争したりする仕組みを構築しています。日本の場合、国公立病院を含め、医療事業体が、地域でバラバラに経営され有害無益な消耗戦を繰り広げています。そして、勝ち組と負け組に二極化しています。

 もし診療報酬が全体的に低すぎるという事実があるのであれば、もちろん財源投入が必要です。しかし現実を見ると、主たる医療機関は、過去最高益です。財源が急性期にシフトした結果、国立大学附属病院も過去最高とのことです。国立病院機構も、経営努力をした結果、収益の改善が続いています。自治体病院も、補助金込みですが、経常収支は全体でプラスになっています。


 ■ 社会医療法人の経常利益率は2011年度4.9%

 社会医療法人の業績(表1)は、自公政権による診療報酬のマイナス改定の影響を受けて医療崩壊が起きたと言われた2009年度でも、経常利益率3.6%でした。つまり、健全経営の医療事業体は崩壊などしていなかったのです。民主党政権の診療報酬プラス改定により、2010年度の経常利益率は5.4%にジャンプ、多くの社会医療法人が過去最高益です。2011年度は4.9%に低下していますが、これは先行投資による一時的な負担増だと判断できます。


表1 社会医療法人(178の業績合計、筆者が各法人のデータを集計)

売上高

経常利益

経常利益率

2009年度

1兆1249億円

404億円

3.6%

2010年度

1兆1928億円

642億円

5.4%

2011年度

1兆2303億円

600億円

4.9%

 2012年度も診療報酬プラス改定があったわけですから、健全経営の医療事業体の経常利益率は平均で5%前後にあると推察されます。このことは、今話題になっている損税問題に関しても、社会保険診療報酬への消費税を課税化し、ゼロ税率を適用したとしても、医療機関の手取りが増える保証がないことを示唆しています。なぜなら、経常利益率5%というのは、消費税率が5%から10%になった時の診療報酬対比の損税追加負担分2.2%を十分吸収できるレベルです。であれば、財務省が「損税解消に必要な財源は、診療報酬全体の中でのやりくりで工面してもらいたい」と言ってくる可能性が高いからです。

 国公立病院と同様に政策医療を担っている社会医療法人が補助金なしでも業績好調なのは、可能な限り医療サービスの品揃えをして、地域住民のニーズとのミスマッチ解消に務めているからです。逆に言えば、2010年度以降の診療報酬プラス改定で主たる医療事業体が好業績にあるにもかかわらず、いまだに赤字の医療事業体は、自らの経営判断の失敗を反省すべきです。


非効率病院の共通項(上)は終わり。
非効率病院の共通項(下)に続きます。


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