本文へスキップ

2013.03.11

TPP参加の行方

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2013年2月19日放送原稿)

1.総理の訪米を前にして、我が国のTPP参加問題が浮上してきました。まず、今、TPP交渉はどのような状況なのでしょうか?

 TPP参加国は今年10月の合意を目指すこととしています。TPP交渉自体は3年ほどかけて行われています。既に、各国の提案は出揃っています。対立が鮮明になっている分野もありますが、交渉の結果、争点が絞られてきているからだと考えられます。しかも、関税撤廃が困難だとしている、アメリカの砂糖や乳製品の関税、カナダの乳製品や鶏肉の関税の扱いなど、大きな争点は、事務方がいくら交渉してもまとまるものではありません。政治的な決断、決着が要求されるからです。しかし、10月を目指して、閣僚会議や首脳会議を開いて、政治レベルの交渉を集中して行えば、交渉は一気に妥結に向かいます。
 来年はアメリカの中間選挙があります。貿易の自由化は特定の産業にとっては不利益に働くことがあるので、選挙の年の決着はできたら避けたいというのが、アメリカの本音だと思われます。オバマ大統領は先日の一般教書演説で、「TPP交渉を完了する」と表明しました。一般教書演説に「TPP」の言葉が盛り込まれたのは初めてです。これは、オバマ大統領が今年中の交渉妥結に強い意欲を示したものと受け止められています。


2.我が国の状況はどうでしょうか?

 自民党の外交・経済連携調査会は、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対する」という「基本方針」をまとめました。これは、先の選挙の自民党の公約を確認したものです。
 公約には、このほかにも、
②自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
③国民皆保険制度を守る。
④食の安全安心の基準を守る。
⑤国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
⑥政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
という項目があり、同調査会は、これも順守すべきであるとしています。
 ISD条項とあるのは、正確にはISDS条項というもので、外国に投資した企業が投資先の政府の政策を訴えることができるというものです。ただし、国内企業に比べて、外国企業を差別的に扱う場合であればともかく、国家の正当な政策が問題とされないことは、国際的な判断として定着しています。したがって、この条項があるからといって、日本の主権が損なわれることはありません。既に日本が結んだ多くの協定にこの条項が含まれています。
 また、これまで日米二国間協議でアメリカが要求してきた事柄でも、WTOなどの協定の土俵に載らないものは、TPPでは取り上げられません。例えば、国家による医療保険制度は、WTOのサービス協定の対象から外れており、これまでの自由貿易協定の交渉で取り上げられたことはありません。アメリカの代表は、自由貿易協定の一つであるTPP交渉で、公的医療保険制度、つまり国民皆保険制度をとりあげるつもりはないと明確に述べています。また、食の安全についても、今の国際的な枠組みから逸脱するような仕組みが検討されているわけではありません。
 結局、農産物について、関税撤廃の例外が可能かどうかが焦点になると思います。これについて、安倍首相は日米首脳会談で、例外の余地が認められるかどうかの感触を探ったうえで、自らTPPに参加するかどうかを判断するとしています。


3.その可能性はどうでしょうか?

 アメリカも豪州に対して砂糖の関税を維持したいし、ニュージーランドに対しては乳製品の関税を維持したいという意向を持っています。もちろん、豪州やニュージーランドは、これを否定しています。また、カナダも、乳製品や鶏肉、卵については、関税を維持したいというのが、本音です。ただし、アメリカはカナダの乳製品については、関税撤廃を要求しています。おもしろいことに、アメリカは、既にアメリカと豪州の自由貿易協定で砂糖を関税撤廃の例外としたので、この合意を蒸し返すべきではないと主張しています。しかし、カナダはアメリカとの自由貿易協定で乳製品の関税を維持しているので、アメリカが砂糖についての主張を貫こうとすると、カナダの乳製品の関税も認めざるを得ないということになります。
 このように、各国の利害が錯綜し、かつ主張も矛盾する場合もあるというのが、多国間の交渉であるTPPの現状です。結局、交渉してみなければわからないというところだと思います。ただし、例外を勝ち取ることが、得策なのか、交渉の過程で十分に検討することが必要です。ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉で、コメについては関税化の例外を勝ち取りました。しかし、関税化した場合よりも、ミニマム・アクセスという無税の輸入枠が拡大されました。このため、途中で関税化に移行して、その輸入枠を抑制することにしました。例外には代償が必要になるということです。今の77万トン輸入枠に加えて、TPP枠が追加されるようなことになるかもしれません。このような利害得失を検討したうえで、交渉することが必要です。
 アメリカとEUは自由貿易協定を締結することで合意しました。日本だけが世界の自由貿易の流れから取り残されることとなれば、国内の企業は広い地域の自由貿易圏から排除されることにもなりかねないと思います。


同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる