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2013.03.08

農協がTPPに反対する本当の理由-農業人口250万人なのに異様な政治力-

WEDGE  3月号(2月20日付発売)掲載

 よく聞かれる質問がある。「農業人口は減少しているのに、なぜ農協はTPPを左右するほどの力を持っているのですか」というものだ。

 総農家数は、1960年の606万戸から2010年には253万戸へと半分以下に、農業就業人口は60年1454万人から12年251万人へ実に83%も減少した。今では、GDPに占める農業の割合は1%に過ぎない。

 

農協の持つ政治力の源泉

 その一方で、JA農協はTPP反対の一大政治運動を展開しており、昨年末の選挙で、多くの自民党議員は、農協にTPP反対の約束をして当選した。自民党内のTPP反対議連には、所属国会議員の過半数の203人もの議員が集まっている。朝日新聞と東大の調査でも、自民党支持者はTPP賛成なのに、自民党議員には反対派が圧倒的だという、不均衡が指摘されている。

 農業が衰退しているのに、なぜ農協の政治力が増すのだろうか。第一に、一農家一組合員が基本だが、農家数が253万に減少しても、農協の正組合員数は472万も存在する。農業を止めても正組合員のままでいる人が多いからだ。また、地域の人であれば農業と関係なくても組合員となれるという准組合員制度がある。この准組合員が正組合員を上回る497万にまで急増しており、両者合計で、1000万人近い組合員を農協は擁している。

 より重要なものは選挙制度である。2人の候補者が競っている小選挙区制では、たとえ1%の票でも相手方に行くと、2%の票差になってしまう。これを挽回するのは容易ではない。農協には候補者を当選させる力はないが、落選させる力は十分持っている。

 TPP参加国は今年10月の合意を目指している。自民党が7月の参議院選挙前にTPP参加を決断したとしても、アメリカ議会への通報との関係から3カ月後の参加になる。その時、TPP交渉は終了している可能性が高い。

 そうなれば、日本は新規加盟国として、できあがったTPPへの加入交渉を行うしかない。日本はできあがった協定を丸呑みさせられる上、アメリカなどの原加盟国から、関税の撤廃、サービス自由化など一方的に要求される。「聖域なき関税撤廃を前提とする限り」交渉参加に反対するというのが自民党の選挙公約だが、アメリカが豪州に対して砂糖関税の維持を要求しているように、原加盟国であれば一部について例外要求も可能かもしれない。しかし、新規加盟国として加入交渉する場合には、このような例外要求は一切認められなくなる。加入交渉をしても例外が認められないなら、自民党は公約に縛られて、TPPに参加できない。

 過去の貿易自由化交渉で孤立した農協は、反TPP運動に医師会や生協なども巻き込んだ。農業から目をそらさせるために、TPPにはサービス、投資など21分野もあるから、農業だけが問題ではないと主張した。しかし、これらは、これまで我が国が結んできた自由貿易協定(FTA)にも含まれている。企業が投資先の国を訴えることができるというISDS条項を問題視しているが、これも日タイFTA等に含まれているし、今でもアメリカ企業はタイ等の子会社を通じて日本に投資すれば日本政府を訴えることができる。

 医師会が心配する公的医療保険のようなサービスは、そもそもWTOサービス協定の対象から外れている。WTO協定をベースとした自由貿易協定で、公的医療保険制度が取り上げられたことはない。米国が関心事項を一方的に要求した日米協議と、WTOなどの国際法を前提としたTPP協定は別ものなのだ。カトラー米通商代表補が、混合診療や営利企業の医療参入を含め、TPPで公的医療保険は取り上げないと述べたのは当然のことなのだ。

 TPP交渉の現状をみると、国営企業や薬価などアメリカが重要視している分野で、各国の反対に遭い、アメリカは孤立している。2国間ではアメリカにやられても、仲間を見つけられる多国間の交渉では、アメリカに対抗できる。ベトナムのような途上国でさえ、アメリカと対等に渡り合っている。強いアメリカに弱い日本は食いつぶされるという主張を多くの人が信じた。


TPPは農業にとっても必要

 農業にとってTPPは必要ないのだろうか。これまで高い関税で国内市場を守ってきたが、コメの消費は94年の1200万㌧から800万㌧に減った。今後は、人口減少でさらに減少する。海外の市場を目指すしかないが、輸出相手国の関税について、100%、0%のどちらが良いのかと問われれば、0%が良いに決まっている。日本農業を維持するためにも、外国の関税撤廃を目指して貿易自由化交渉を推進するしかない。TPPは農業のためにも必要なのだ。

 農業生産額に占めるコメのシェアは2割を切った。コメより生産額の多い野菜の関税はわずか数%、花の関税はゼロだ。関税撤廃でも影響を受けない。品質面では、日本のコメは世界に冠たる評価を得ている。その上、国際価格は上昇し、国内価格との差は小さくなっている。野菜だけでなくコメについても、輸出している農家が出てきた。米価を高くしている減反を廃止して価格を下げ、価格競争力をつければ、鬼に金棒だ。影響を受ける主業農家には直接支払いを交付すればよい。

 直接支払いはアメリカやEUも行っており、日本も91年の牛肉自由化はこれで乗り切った。関税撤廃で価格が下がっても、財政から直接支払いすれば、農家は影響を受けない。では、政府自民党がいかなる事態になっても農家を直接支払いで守る、その金に糸目はつけないと言ったらどうだろうか。それでも農協はTPP反対と主張するだろう。農協にとって価格が重要だからだ。

 米価は減反政策によって維持されている。現在、年約2000億円、累計総額8兆円の補助金が、税金から支払われている。国民は納税者として補助金を負担したうえで、消費者として高い米価を負担している。減反参加を受給要件とした戸別所得補償を合わせると、国民負担は毎年1兆円に上る。

 単収(単位面積あたり収量)が増えればコストは下がるが、減反政策によって、単収向上のための品種改良は行われなくなった。今ではカリフォルニアより日本の単収は4割も少ない。減反を止めると、生産は拡大し、米価は中国産やアメリカ産よりも下がる。主業農家へ直接支払いを交付して農地集積・規模拡大を図れば、生産コストは半減し、農家の収益は向上する。

 しかし、減反を止めて米価が低下すれば、農協の販売手数料収入が減少する。直接支払いを受ける農家は困らなくても農協は困る。TPPに参加し、海外から関税なしで安いコメが入ってくれば、減反という価格維持のカルテルは維持できなくなる。TPPなど、もってのほかだ。

 これまで、牛肉自由化など、農業に不利益があると予想される場合でも、我が国は大きな国益を考えて、政治的な決断をしてきた。しかし、今、目前に展開されている状況は、しっぽが牛の体を引きずり回しているありさまだ。

 広大なアジア太平洋地域で、参加国だけの間で貿易・投資を自由化するTPPができる。大企業なら工場をTPP地域内に移転できるが、それができない中小企業はこの地域から排除されてしまい、雇用が失われる。それで、本当にいいのだろうか?

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