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2013.02.27

海外の地域包括ケアと非営利事業体から学ぶ -第2回豪州-

「シルバー新報」2013年2月22日号掲載

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

第2回豪州

医療は公中心に皆保険実現 地域公営企業が介護まで


 オーストラリアの人口は2012年6月時点で2268万人、積極的移民政策もあり増え続けている。2011年度の医療介護費は1303億豪ドル(12兆2500億円:1豪ドル94円換算)でGDP国内総生産の9.3%を占める。一人あたり医療介護費は5502豪ドル(約52万円)で日本より約30%大きい。

 オーストラリアは、医療財源確保と医療提供体制を「公」中心とした上で民間医療保険と民間病院を積極活用することにより、皆保険を実現している。国が医療財源確保に責任を持つ一方、州政府が追加財源投入を自らの政策判断で行い医療提供体制の整備・運営を担う仕組みであり、国と州政府の役割分担が明確になっている。ちなみに、病院数は1326(2010年6月)であり、そのうち民間病院573である。民間病院には株式会社病院と非営利病院があり、約半分の293が日帰り手術専門病院である。従来から州政府が中心的役割を果たす地域包括ケアのガバナンスを確立していたが、2011年の医療改革によってその長所を一層強化した。

 大都市シドニーのあるニューサウスウェールズ州(以下NSW州)は、人口が729万人である一方、面積は80万㎢と日本の2倍以上。したがって、都市部と地方部での医療へのアクセス環境に大きな違いがある。そこで、州内を15の医療圏に分け都市部に8、地方部に7のローカル・ヘルス・ディストリクト(略称LHD)と呼ばれる地域医療公営企業を設置している。(図2)また、小児と精神についてはそれぞれ州全体を担当するスペシャリティ・ヘルス・ネットワークと呼ばれる専門医療公営企業を設立、小児・精神医療の経営資源の一元管理による経営効率と質向上を図っている。また、セイント・ヴィンセント・ヘルス・ネットワークという非営利民間医療事業体が公営企業と同等の処遇を受けている。

 担当する人口規模別にLHDを分類すると80万人超が5、60万人が1、20万人~40万人が8、3万人が1である。14のLHDは、それぞれ急性期を担う公立病院を核にコミュニティ医療センターという名称の一般外来施設、周産期、歯科の施設を地域住民のアクセス利便性を考えて配置、民間病院とも業務提携し機能分担を行っている。また、公立介護施設を運営しているLHDもある。そして、担当人口が80万人を超えるLHDの事業規模は1000億円前後である。つまりLHDは、急性期から在宅、介護に至るまで地域住民が必要とするケアを全て品揃えしていること、事業規模が大きいことの2点において、米国のIHNと同じと言える。

 LHDは、法律に基づき州政府直轄である。そのガバナンス機能を担う役職の名称はディレクター・ジェネラルと呼ばれ、州保健省長官の下に位置付けられている。ディレクター・ジェネラルは、LHDやスペシャリティ・ヘルス・ネットワークを監督するだけでなく、臨床イノベーション機構、臨床エクセレンス委員会、医療人材教育訓練機構、医療情報局といった州機関も所管、NSW州の医療提供体制全体の運営を任せられている。

 このようにオーストラリアの場合、地域包括ケアの現場を担うLHDの規模が大きく、かつ全体のガバナンスが州政府に一本化されている。そのシナジー効果として、医療の質評価とコスト構造のデータが容易に集まることから、先進諸国の中でもトップクラスの医療データベースが構築できている。活用例として、臨床エクセレンス委員会が作成している病院評価データがある。これは、疾病ごとの治療成績、院内感染予防やベッドからの転落防止などの安全管理、患者満足度などの観点から作成された病院成績表であり、半年毎にインターネット上で公開されている。州民は、この成績表を見て病院を選択できる。公立病院間、LHD間でブランド競争させる仕組みなのである。

 このように各州政府が集めるデータを統合することで、全国レベルの医療データベースを構築している。それを基盤に2011年の医療改革で導入されたのがアクティビティ・ベイスト・ファンディング(活動基準財源配分:略称ABF)である。これは、国が各州政府に対して公立病院の運営費を交付するにあたり、各病院のサービス量と医療内容を評価して金額を算定する制度である。その仕組みの柱になっているのがナショナル・エフィシャント・プライス(全国効率価格)である。全国効率価格とは、全ての公立病院の患者に対するサービスが適切に行われたとした場合の平均コストである。2012年7月~2013年6月の会計年度の全国効率価格は4808豪ドル(約45万円)に設定されている。公立病院経営者の目標は、この全国効率価格以内で質の高い医療を提供することである。

 なお、オーストラリアには公的介護保険制度がない。しかし、介護は地域包括ケアの柱の一つであり、介護施設入居者の収入と資産に応じて国が補助する制度がある。

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