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2013.02.26

日本医師会様、もうTPP反対は止めてはどうですか?

WEBRONZA に掲載(2013年2月12日付)

 農協と並んで、日本医師会はTPP反対運動を展開されています。反対の理由をまとめると、次のようなものでしょう。「TPPはアメリカ主導の協定だ。アメリカは公的医療保険制度を見直して、混合診療を要求してきたことがあるので、TPPに入ると同じ事を要求される。また、TPPには、投資をした外国企業が投資先の国を訴えることができるISDS条項があり、アメリカ企業が日本政府を訴えて、国民皆保険制度(公的医療保険制度)の改悪を実現するおそれがある。」

 この主張は、どれだけ本当なのでしょうか?一つずつ検討していきましょう。

 まず、TPP交渉は、アメリカの思うとおりに動いているのでしょうか?他の国はアメリカの言うことを聞かされてしまうのでしょうか?交渉の現実は、逆です。皆さんの関心の高い薬価について、米国は医薬品業界の利益確保から、特許権保護や薬価決定プロセスの透明性を提案しましたが、薬価上昇を防ぎたい豪州やニュージーランドは一歩も引かないという強硬な反対姿勢をとっています。貿易と労働、貿易と環境、国有企業への規律など、アメリカが重点を置いている分野で、アメリカは他の国から反発を受け、孤立しています。豪州は、ISDS条項を認めないという強い態度を取っています。これ以外にも、多くの分野で、アメリカが他の交渉国から攻められているのが現状です。

 次に、混合診療など、二国間協議でアメリカから一方的に要求されてきたことが、TPPでも要求されるのでしょうか?それは、違います。二国間協議と違って、TPPは協定という法的なものだからです。公的医療保険制度の見直しをアメリカが二国間協議で要求したことがあったかもしれません。しかし、公的医療保険のような政府によるサービスは、WTOサービス交渉の定義から外れており、自由貿易協定交渉でも対象になったことはありません。自由貿易協定の一種であるTPPの法的な枠組みに載ってこないものは、いくら二国間協議で要求されたとしても、TPP交渉で対象とはなりません。カトラー米国通商代表補が、2012年3月東京で行われた講演で、混合診療や営利企業の医療参入を含め、TPPで公的医療保険は取り上げないと述べたのは当たり前のことなのです。そもそも既に2年以上も経過したTPP交渉で、これまで議論されていないものが、交渉対象になることは、考えられません。

 ISDS条項で日本政府は訴えられるのでしょうか?ここに、「TPPは国民医療を破壊する―韓米FTAに学んだ医療者からの訴え」(京都府保険医協会編)という本があります。これは、米韓FTAのISDS条項により韓国政府が訴えられ、公的医療保険制度が崩壊するという韓国内での主張を真に受け、TPPに入ると日本も同じ目にあってしまうと主張したものです。しかし、ここまで主張するからには、米韓FTAの規定を読むべきでした。残念ながら、米韓FTAの投資章では、保険などの金融サービスについては適用しないと明確に規定しています。(第11.2条第3項)米韓FTAについては、同じ時期に出された「米韓FTAの真実」(高安雄一著)を読まれては、どうでしょうか?

 ISDS条項ですが、単に投資家が損害を被ったというだけで、訴えることができるというものではありません。そもそもどのような規制を行なうかは、その国の自由です。規制の変更などによって国有化に匹敵するような「相当な略奪行為」があるような場合や、国内の企業に比べて外国の企業を不当に差別するような場合でなければ、ISDS条項の対象とはなりません。日本に外国企業の財産を補償もなく一方的に没収したり、外国企業だけを差別するような規制・政策があるのでしょうか。

 ISDS条項は、これまで日本が結んできたタイなどとの自由貿易協定にも、多数存在します。日本企業がタイ政府を訴えることは良くて、アメリカ企業が日本政府を訴えることはけしからんというのは、モラルを重んじられる医療関係従事者の方々の主張とは思えません。今でも、アメリカ企業がタイに子会社を作って、それを通じて日本に投資をするという形をとれば、日本とタイとのISDS条項を使って、日本政府を訴えることは可能です。実際にも、世界の投資家は様々な投資協定を見比べながら、どの国を通じて投資したら、もっとも保護が受けられるかということを考えながら、投資をしているはずです。日米間にISDS条項がなくても、日本に投資をするアメリカ企業は日本政府に対してISDS条項を使えるのです。しかし、日本政府が訴えられたことはありません。日本に外国企業だけを不当に差別的に扱うような規制はないからです。さらに、補償は金銭賠償に限定されます。規制自体の変更が求められることはありません。それでも、ご心配なら、米韓FTAや日本とインドの協定などのように、公的医療保険制度を協定の対象から除外すればよいだけです。

 TPPで国民皆保険制度が影響を受けるものではないことが、お分かりになられたでしょうか?このままTPPに参加できないでいると、海外進出のできない日本の中小企業は広大なアジア・太平洋地域から排除されてしまい、ここに雇用されている多くの人々が路頭に迷うことになります。農家に対策が講じられても、農産物価格低下により販売手数料収入が減少する農協は、被害を受けます。農協が一大反対運動を展開しているのは、ある意味当然です。しかし、日本医師会におかれましては、農協とは異なることを念頭に置かれた対応を切に望みます。


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