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2013.01.25

アベノミクスは有効か―問題の本質にメスを入れよ―

WEBRONZA に掲載(2013年1月1日付)

 2013年は本格的な自民党経済政策の実施の年となる。安倍総理が主導する経済政策は、大幅な金融政策の緩和、公共事業への思い切った財政発動、成長戦略の三本の矢からなると説明される。
 この「アベノミックス」と称される経済政策は、うまくいくのだろうか?
 まず、最も話題を呼んでいるのは、金融政策である。経済の現状について、デフレだとする問題認識がある。単なる物価の低下であれば、問題はないどころか、好ましいものである。賃金が一定で、モノやサービスの価格が低下すれば、実質的な所得は向上するからである。TPPに参加して食料品の価格が低下するのは、良いことである。
 しかし、多くのエコノミストが問題とするのは、物価が毎年継続的に下がっていくと、耐久消費財などは今年買うよりも来年買ったほうが安くなるので、需要の減少により賃金が低下したり、失業が増加したりするということだろう。このため、マネー・サプライを増やして、適度のインフレを起こそうというのである。物価が来年上がると思うと、今年のうちに買っておこうという気持ちになるので、需要が増え、GDPは増加する。
 しかし、インフレの下で賃金が上がらなければ、実質所得は低下し、需要も抑制されてしまう。そもそもデフレは、どうして起きているのだろうか?次のような説明が可能だろう。
 従来日本が得意としてきた電気製品などで、海外の企業と競争できなくなった。このため、輸出企業は非正規雇用を増やしたり、賃金をカットしたりして、利益を確保しようとした。輸出産業でも貿易と関係ない国内の流通業やサービス業でも、企業は、同じような労働には、同じような対価、つまり賃金しか支払わない。そうであれば、輸出企業における賃金低下は、他の産業にも及んでしまい、経済全体の賃金は低下する。雇用が拡大しなければ、これにより需要が減少するので、物価は下がるとともに、賃金もさらに低下する。(もちろん、賃金の低下幅が物価の低下よりも小さければ、実質賃金は上昇し、問題は起きない。)
 これがデフレのメカニズムであるとするならば、貨幣供給を増やして円安に誘導すれば、輸出が増加して、輸出企業が潤い、輸出企業での賃金増加や雇用の拡大が、経済全体に波及し、不況は克服できるかもしれない。しかし、円安は石油、鉱物資源や食料などの輸入財の価格上昇を招き、賃金が上昇しなければ、かえって経済を悪化させるおそれもある。
 なによりも、円安も輸出企業での賃金増加も一時的なものにとどまり、さらなる円安等が起きなければ、もう一度デフレにもどってしまうかもしれない。毎年さらなる円安誘導をしていかなければ(それがインフレターゲットなのかもしれないが)、効果は期待できないのではないだろうか?それは大恐慌後のような"近隣窮乏化政策"だという批判を他の国から招かないだろうか?結局、輸出産業の生産性を向上させ、国際的な競争力を回復させるしか、問題の根本的な解決はないのではないだろうか?
 財政政策の発動は、効果的だろうか?6年前の安倍政権では、小泉内閣に続き公共事業は年々縮小されており、イノベーション等による経済成長を重視するいわゆる上げ潮派が主流だった。自民党は、野党時代に公共事業に対する考え方を一変させたようである。
 小泉内閣に先立つ小渕内閣時代、景気回復を目指した大幅な補正予算等で、公共事業などのハード事業は大盤振る舞いの活況を呈した。筆者も霞ヶ関の末席でハード事業を担当していたが、地方からの要望が予算額に届かないので、裏でこちらから事業を掘り起こすという状況だった。その後は、どうなったのだろうか?確かに一時的に、土木・建設業界は潤ったし、霞ヶ関の役所も大手ゼネコンなどへOBを天下りさせることができた。
 しかし、宴のあとは、元の黙阿弥である。あれだけの公共事業等を行っても、経済はよくならなかった。道路などの社会資本は増えたかもしれないが、今回のトンネル事故のように、増えた社会資本へのメインテナンス費用は、のちのち負担しなければならなくなる。ハード事業や箱物事業の問題は、施設建設の際のメリットだけしか考慮せず、後にかかる施設の維持管理や運転費用がほとんど考慮されないことである。
 公共事業は費用対効果を考慮しながら行われることになっているが、事業開始時に、事業担当官庁は効果を多く、費用を実際よりも低く、見積りがちであり、現実には、費用対効果の基準を満たさない、不必要な社会資本が整備されたのではないか?例えば、人口減少地域で、社会資本を今の人口に合わせて整備をしてしまうと、後代の負担は過大なものとなる。
 結局残されたのは、膨大な政府の借金である。この解消のために、今回消費税を増税することになったのではないか?さらに、消費税を増税するのだろうか?それとも、財政政策発動後は、経済成長によって増収、財政再建を図るという上げ潮派に戻るのだろうか?
 もし、財政再建どころか、財政がさらに悪化してしまえば、国債の暴落、金利の上昇による、大不況を招く恐れはないのだろうか?財政再建ができないと国民が判断しているから、老後は政府に頼るのではなく自分で対応しなければならないと判断して、貯蓄を増やし、消費を抑制していることが、デフレの一因ではないのだろうか?そうであれば、財政発動はデフレを悪化させはしないのか?
 結局、三本の矢と言われるもののうち、最も重要なのは、規制緩和などで企業のイノベーションを刺激し、産業の生産性を向上させるという成長戦略なのではないだろうか?農業についても、コメの減反政策は、コメ消費を減退させるとともに、単収向上や規模拡大による生産性向上を阻んでしまった。米韓FTAで日本企業が不利を被るというのであれば、TPPに参加して、雇用を守っていくべきである。
 あらゆる経済政策の基本は、問題の源に直接メスを入れることである。しかし、それは既得権者の妨害を排除していかなければならない、困難な道である。しかし、いかに苦しくても、それ以外に、日本経済再生の道はないように思われる。
 以上はマクロ経済の門外漢である筆者の領空侵犯である。誤りや言いすぎた点があれば、お許し願いたい。


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