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2012.11.16

シリーズ最終回・TPP交渉は今どうなっているのか?~カナダ、メキシコが変えた交渉の構図~

WEBRONZA に掲載(2012年10月26日付)

 APECハワイ会合での日本の参加表明に続き、カナダ、メキシコも参加表明し、日本に先んじて、両国の参加が実現した。実際に交渉に参加するのは、12月の会合からであるが、両国の参加により、交渉の構図が変わりつつある。一番大きな影響を受けようとしているのは、農業分野である。
 TPP交渉において、アメリカは豪州に対しては砂糖の関税、ニュージーランドに対しては乳製品の関税を維持したいという強い意向を持っている。アメリカは、これらの産品については、競争力を持っていないからである。
 ただし、全ての国に対して、砂糖や乳製品の完全撤廃の例外を認めさせようというのではなく、あくまでも競争力を有するこれらの国に対してのみ、例外を主張している。特に、豪州に対しては、米豪自由貿易協定で、砂糖を例外扱いしたことから、この合意をリオープン(再交渉)しないという交渉ポジションをとっている。もちろん、豪州もニュージーランドも、アメリカの態度に強く反発している。
 カナダの弱点は乳製品と鶏肉の高関税であり、カナダはこれらの品目について例外要求をしてくるだろう。これらの品目は主としてフランス語圏のケベック州で生産されており、この取り扱いを間違えるとカナダの憲法問題、つまりケベック州の分離・独立に発展しかねないからだ。ウルグァイ・ラウンド交渉の時もカナダは最後まで関税化の例外を主張していた。NAFTA(北米自由貿易協定)では、これらの品目は関税撤廃の例外とされた。
 メキシコはカナダのような弱点を持っていない。NAFTA加盟によって、アメリカからトウモロコシの輸入が増加して、メキシコ農業は大きな打撃を受けていると我が国のTPP反対派や農業紙は主張しているが、メキシコからの砂糖輸入によってアメリカの砂糖農家も打撃を受けている。貿易は双方向なので、輸出とともに輸入も行われる。ある国が一方的に他の国に輸出だけ行うということはありえない。自己の主張に都合の良い部分だけを取り出すことは、フェアな態度ではないだろう。
 農業分野の交渉は、両国の参加によって、複雑なものとなった。
 乳製品の原料である生乳を生産するアメリカの酪農業界を見よう。ニュージーランドに対する乳製品の例外要求という、彼らの交渉ポジションは軟化しつつある。カナダの乳製品市場を開放させることができれば、少々ニュージーランドから乳製品が輸入されても、それと同等またはそれ以上の乳製品をカナダに輸出すれば、アメリカの酪農業界は困らないからである。
 砂糖については、乳製品と逆の事情である。豪州との間で砂糖の関税を維持できたとしても、メキシコが豪州との間で砂糖の関税を撤廃すれば、豪州がメキシコに砂糖を輸出し、メキシコが玉突きのようにアメリカに砂糖輸出を増加させる可能性が出てくる。TPPによらなくても、NAFTA加盟国であるメキシコはアメリカに関税なしで自由に砂糖を輸出できるからである。このため、アメリカの砂糖業界はメキシコに豪州に対して砂糖の関税撤廃をしないように働きかけている。
 アメリカ農務省やUSTRは、困った状況に陥っているのではないだろうか。砂糖について、メキシコに対して豪州に譲歩しないように要求するなどはできない。酪農業界のために、乳製品市場を開放すべきだとカナダに要求しても、NAFTAで乳製品関税は例外扱いしているので、米豪自由貿易協定を再交渉しないという豪州・砂糖に対するアメリカの交渉ポジションを逆手に取られて(NAFTAも再交渉しない)、カナダに拒否されるだろう。私がカナダの交渉者なら、そう主張する。カナダの乳製品市場を開けさせようとすると、豪州に砂糖のアメリカ市場を開放しなくてはならなくなる。アメリカの交渉者は乳製品をとるか砂糖をとるかという選択を迫られる可能性がある。
 カナダ、メキシコの参加は、交渉の構図を変えつつある。日本が参加すれば、ゲーム・チェンジャーとなるだろう。


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