本文へスキップ

2012.10.31

TPP交渉は今どうなっているのか?

WEBRONZA に掲載(2012年10月16日付)

 日本では、TPP交渉に参加するのか、しないのか、について、未だに議論されている。しかし、肝心のTPP交渉がどうなっているかについては、菅元首相がTPP参加を取り上げて以来、連日TPPについて欠かさず報道している日本農業新聞を含めて、ほとんど報道されることはない。入手できる情報によって、TPP交渉の現状を分析・解説しよう。その際、TPPに反対する評論家や政治家が昨年来行ってきた主張とTPP交渉の現状を対比してみたい。
 まず、交渉全体のスケジュールである。日本のTPP反対派は、オバマ米大統領が2012年中の妥結を目指すと述べていたことから、交渉は2012年にまとまるのであり、今参加しても貿易や投資のルール策定に日本は参加できないと、主張していた。
 これに対して、私は、いくらオバマが主張しても、アメリカは、国営企業や医薬品がらみの知的財産権問題など、自国の提案内容についても、細部を詰め切れていないし、これから他の交渉参加国と交渉するのだから、2012年中の妥結はあり得ないと反論してきた。砂糖、乳製品、繊維の関税をどうするかなどアメリカが痛みを伴うマーケット・アクセスの交渉は、未だに、ほとんど進んでいない。2012年は大統領選挙の年なので、アメリカの政権が選挙に不利な内容を伴う交渉を妥結できるはずがない。これが、ワシントンの通商交渉通や米議会関係者たちの一致した見方だった。
 現状は、私が主張したとおりの展開となっている。交渉が進むにつれて、簡単に合意できるものから、各国が互いに譲れない部分に交渉の焦点が移っている。これには時間がかかる。2012年中どころか、2013年においても妥結できるかどうか疑問視されている状況である。
 日本のTPP反対派は、アメリカの主張が簡単に通ると、当たり前のように考えていた。アメリカは強いので、日本が参加してもいいように食いつぶされるだけだという、「アメリカ怖い、日本は引き籠れ」式の議論を多くの人が信じた。交渉の現状は逆である。アメリカは、重要な分野で孤立している。例えば、医薬品に関する二つの提案はともに、他の交渉参加国の反対を受けて、一つは再提案を行ったほか、もう一つは国内調整も未了で再提案さえも行えないありさまである。
 カナダ、メキシコについては、北米自由貿易協定(NAFTA)によって、農業が打撃を受けたり、失業が増えたりするなど大変な被害を受けたとTPP反対派は主張した。作年11月ある反対派の議員は、有楽町の街頭演説で、「アメリカにさんざん痛めつけられたから、タイもフィリピンも入ろうとしない。アメリカの隣のカナダ、メキシコも入ろうとはしない。これに入るのは入水自殺をするようなものだ。」と主張していた。
 しかし、この演説の直後、APECハワイ会合での日本の参加表明に続き、カナダ、メキシコも参加表明し、両国の参加が実現した。両国はNAFTAによってアメリカ市場には自由にアクセスできる。しかし、日本が参加するTPPはこれまでのTPPとは別物だと考えたのだ。
 TPP地域が拡大し、参加するメリットが増加する一方で、逆に参加しなければ、広大な地域のサプライ・チェーンから排除されるおそれが生じるからだ。ハワイの陽気に煽られたのかもしれないが、アメリカに食い物にされたはずのカナダ、メキシコの首脳がほとんど思いつきのようにTPP参加表明をしたばかりか、国内でも取り立てて反対論も出なかった。
 タイやフィリピン、台湾、コロンビア、コスタリカなどもTPPへの関心を表明している。日本よりも国力の小さいマレーシア、ベトナムは既に交渉に参加している。これらの国は、進んで入水自殺をしようとしているのだろうか?どの国も、あくまで自国にとって、全体としてみればプラスになることを前提に交渉に参加しているのであり、相手がアメリカであっても、要求を丸呑みすることなどあり得ない。ベトナムもアメリカの無理難題を毅然として拒否している。
 TPP交渉参加を巡り国論を二分するような騒動を繰り広げている国も、このような大げさな反対演説をぶつ議員がいる国も、日本だけだということがわかりつつあるのではないだろうか。「TPPは異常協定、壊国協定だ」というのが、某農業関係紙のキャッチコピーであるが、我が国自身も壊れた異常国家ではないかという気がしてならない。
 


同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる