本文へスキップ

2012.09.06

APEC首脳会議の焦点

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2012年9月4日放送原稿)

1.今週末APECの首脳会議がロシアのウラジオストクで開催されます。どのようなことが話されるのでしょうか。

 APECは、アジア太平洋地域の21の国と地域をカバーする経済協力の組織で、貿易や投資の自由化、ビジネスの円滑化、経済・技術協力等の活動を行っています。

 2012年のAPECの優先課題として、まず、貿易や投資の自由化と地域の経済統合、次に、食料安全保障の強化、信頼すべきサプライ・チェーンの確立、最後に、革新的な成長を促すための協力、という4つの課題が掲げられています。


2.サプライ・チェーンという言葉は、原材料の調達から加工、流通、販売を通じて消費者に最終製品が届くまでの一連の流れのことを指しますが、どのようなことが問題なのでしょうか? 

  以前は、日本のように石油や鉄鉱石を輸入して、製品を輸出するような場合を除き、サプライ・チェーンは一つの国で完結していたことが多かったのです。しかし、いまでは、サプライ・チェーンが国を超えて、広域化し、網目のように張り巡らされています。それを仲介しているのが、貿易です。今ではテレビや自動車などの最終製品だけではなく、素材や部品などの貿易が活発に行われています。日本産といっても、素材や部品は外国で生産されたものが多くなっています。

 中国の製品がアメリカに大量に輸出され、アメリカに対する中国の貿易黒字が大きくなっていると指摘されています。しかし、中国の製品の中には、日本や韓国、台湾などから部品や素材が中国に輸出され、これを中国で最終製品に組み立てたものも、たくさんあります。日本や韓国などのアジアの国は、中国を通じて間接的にアメリカに製品を輸出しているのです。中国の対米貿易黒字の中には、日本や韓国などの国の貿易黒字も間接的に含まれていると言えます。もちろん、中国から素材や部品などが日本へ輸出され、日本で組み立てられるというケースもあります。いまでは、こうした中間財と呼ばれるものの貿易が世界の貿易の半分以上を占めていると言われています。

 しかし、サプライ・チェーンが国を超えて拡大したために、東日本大震災で日本の部品工場が操業できなくなって、アメリカの自動車工場が打撃を受けたという不安定要素もあります。また、APECのような経済統合や自由貿易協定と関連した問題があります。タイとベトナムが自由貿易協定を結んで相互に関税を撤廃していたとします。このとき、日本からタイの自動車工場に部品を輸出しても、自動車に占める日本産の部品の割合が大きいと、実質的には日本産だとされ、タイで作られた自動車とは扱われません。この車をベトナムに輸出すると、関税をとられてしまいます。このため、タイの自動車工場は日本からの部品の輸入を控えようとするので、日本の中小企業は困ってしまいます。前者の問題を解決するためには、災害に強い生産・流通体制の確立が必要であり、後者の問題に対処するためには、TPPなどが目指しているように、APEC全体を自由貿易地域とすることが必要です。


3.山下さんもAPECに招待されているようです。 

 8日、9日に開催される政治的なリーダーたちの首脳会議と並行して、APEC地域の経済界のリーダーと政治的なリーダーが交流するCEOサミットという会議が7日から8日の二日間開催されます。私はこの会議に招待されています。ロシアのプーティン大統領、中国の胡錦濤国家主席たちのスピーチも予定されていますし、各国の大統領、首相や大臣も議論に加わります。この中で、私は、オーストラリアの貿易大臣たちとともに、世界の食料安全保障について議論することになっています。ただし、残念なことに、二日間の約20のセッションに50人の閣僚や経済人が討論者として参加するのですが、日本からは私だけの参加となっています。日本の経済規模からすれば、もっと多くの人が参加すべきだと思います。


4.食料安全保障も4つの主要課題の一つとなっています。 

 食料安全保障には、二つの要素があります。食料を買う資力があるかどうかということと、食料を現実に入手できるかどうか、ということです。貧しい途上国では二つとも欠けています。食料品価格が上がると、収入のほとんどを食費に支出している貧しい人は、買えなくなってしまいます。特に、生命維持に必要なカロリーを供給する穀物の価格高騰の影響は深刻です。このとき、先進国が港まで食料を援助しても、内陸部までの輸送インフラが整備されていないと、食料は困っている人に届きません。日本でも、東日本大震災のときのように、お金があっても、物流が途絶して食料が手に入らないという事態が起きました。世界では、人口すべてを養うだけの食料生産は十分あります。しかし、先進国で肥満問題がある一方で、約10億人の栄養不足人口があると言われるのは、経済的に貧しくて買えない人やインフラが十分ではなくて入手できないという人たちがいるからです。

 日本のように豊かな国では、穀物価格が高騰しても、食料危機は生じません。しかし、途上国の人たちは大変です。トウモロコシがエタノール生産に向けられるようになったことも、価格高騰の原因だと批判されています。また、価格が低いと輸入関税で国内農業を保護するため、国際市場への需要は減少して、価格はさらに低下します。逆に、価格が上昇すると輸出規制をかけて国際市場に農産物が出ていかないようにするため、供給が減少して価格はさらに高騰します。こうした農産物の貿易政策も世界の食料価格を乱高下させている原因です。こうした問題が議論されると思います。

同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる