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2012.08.24

21世紀型福祉国家とは

  • 柏木 恵
  • 主任研究員
    柏木 恵
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 福祉国家の崩壊といわれて久しいが、20世紀型福祉国家とはひとことでいえば「工業化時代の所得再分配国家」である。しかし、第二次世界大戦後の70年近い歴史の過程を経て、現在の福祉国家は、脱工業化社会(消費社会)における①国際的な安全保障・経済連携への貢献(連帯・協調)、②国内福祉の達成、③グローバル経済の国内支援を行い各国と競争しながら協調し合う国家である。資本(富)は自在に移動するが、人間はすぐに移動できないという矛盾の中、現在の国家は経済成長と福祉というエネルギーのベクトルの方向が相反する課題に向き合っていかなければならない。

 20世紀型福祉国家は"Welfare State"と言われたが、現在の福祉国家は"Enabling State"と定義される。もともと福祉国家は19世紀末の工業化社会において資本家と労働者との軋轢を減らすために、「完全雇用と社会保障」を目指した国家である。当時の資本家は土地を離れることができず、よってフォーディズムのような形態がなりたち、国家と資本家は共存者であった。しかし近年の貨幣資本主義によるグローバル化やIT化によって資本家は土地を離れて遠隔操作できるようになった。そのため国家と資本家の蜜月期間は終わりを告げ、今の国家は資本家にとどまってもらうために、富が一瞬で移動可能な中、優遇税制だけでなく治安やインフラ整備、社会保障などのビジネスリスクを下げることに繋がる政策を、各国と競争しながら、以前よりもさらにコミットしなければならない。

 一方で、安全保障においては、戦後は米国の手厚い保護のもと、資本主義国家はその削られた軍事費を福祉にまわすことで福祉国家を形成し国内を安定させることで共産主義と対抗してきた。その形は冷戦終了後も未だベターな形であるため、基本的に崩れてはおらず、今後もその形が崩れるとは考えにくい。米国が牽引していく限り、その他の国々は福祉国家をやめることは難しいだろう。

 国民の定義も変わった。工業化社会時代は、国民は労働者(生産者)であるため、職についていない国民はすべて労働者予備軍(生産者予備軍)であった。国家としても大事な資源だったため、その者たちが病気や老後の生活を心配せずに元気に労働できるように社会保障を提供することは国家運営にとって重要な意義であった。一方、今の消費社会では、国民は消費者であり、消費してもらうために社会保障を提供する状況となり、国家は消費社会の中で福祉国家の意義を見いだしにくくなっている。しかし、国民が歴史の流れの中で苦労して手にした社会保障を手放すとは考えにくい。

 つまり、現在の国家は、富が外に逃げやすい、新たな富が生まれにくいという経済不安定化の中、国際的には担う役割が増え、各国の事情だけでは動きにくくなった一方で、いったん社会保障の権利を持った国民の高まる要望に答え続けなければならない、しかもグローバル経済に何か問題が起きると国家が代わりにコストを払わされることもあるという、以前とは違う苦しい存在となった。福祉国家は所得再分配国家であり、それを実現するには、財源は税、累進型の所得税が妥当で、中央集権が望ましい。しかし、現在の消費社会と世の中のニーズ(オーダーメイドな福祉)を反映すれば、税目は消費税で、地方分権が時代に合った形である。時代の流れは、いわゆる福祉国家の仕組みと逆になり、福祉国家の運営自体が難しい時代である。しかし、これまで述べてきたように福祉国家がすぐに崩壊するとは考えにくい。そういう状況の中では、以前の国家自らが社会保障を提供するWelfare Stateから支援国家Enabling stateになろうとするのは自然の流れであろう。国家が支援体制にまわったからといって、プレイヤーのひとつである企業も社会保障費やその他の支払は少ない方が望ましく、社会的企業やNPO などの比較的新しいプレイヤーと個人そのものに国家運営の比重が高まっている。個人の自立はますます促され、自己責任の時代となるだろう。

 しかし、現在の国家の姿を作り出したのは私たちである。この混沌とした不安定化・液状化した社会から、次にどのような社会を作り出すかも私たちの考え方次第である。中世以降の近代の社会の変遷をみていくと哲学や思想が非常に重要な役割を果たしていることに気づく。たとえばルソーやヘーゲル、フロイト、アダム・スミスなどをみていくと、彼らの述べたことや想像したことが、彼らが存在した百年から数百年後の国家の姿に大きく影響していることがわかる。哲学や思想、心理学は、その時代の人々の集合意識が表れた一つの形(パッケージ)であって、その人々の願いの集約が次の社会で現実化しているのである。そう考えると、今の私たちが何を願うかで将来の社会が決まるわけで、私たちは大変重要な役割を持っているということになる。現在の福祉国家が形を変えながら存続していくのか、新たな仕組みの国家または社会が生まれるのかは、まだはっきりとみえていないが、新たな仕組みに移行するなら、前時代のような革命や戦争は避けたいし、新たに生まれるにしても、存続するにしても、今よりもっと厚生・効用が上がった社会にしたい。

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