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2012.08.09

高い新米価格の影響

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2012年8月7日放送原稿)

1.本年産の新米の販売が高値で始まったと報道されています。 

 当年産の一般の新米が出回る前に、収穫され、販売される米を、早場米といいます。早場米として出荷される宮崎県産のコシヒカリの小売価格が前年に比べ、2割から3割も高くなっています。昨年から、米の生産そのものは減少していないのですが、東日本大震災と原発事故の影響により、米の出回り量が減少しています。このため、昨年から米の流通は売り手市場となり、本年産米についても、産地は出荷価格を相当程度引き上げています。高い小売価格は、このような流通市場の動きや産地価格を反映したものです。

 

 2.その一方で、高い関税がある中で、外国産米を扱うスーパーや外食店も出てきていますが、この米はどのようにして輸入されているのでしょうか? 

 国内の米消費は約800万トンです。水田面積は250万ヘクタールありますが、全ての水田で米が作付されると、生産が大幅に増加して、米の価格が低下するので、水田面積の4割、100万ヘクタールを減反して、米を作付しないようにしています。これは供給を制限することで高い価格を維持しようとするカルテルの一種です。

 もちろん、国内で高い価格を維持しようとしても、外国から安い価格の米が入ってくると、このカルテル価格は維持できなくなります。したがって、外国から安い米が入ってこないようにするために、高い関税を設定しています。しかし、輸入を禁止してしまうような高い関税は、貿易の自由化というWTO、世界貿易機関の考え方と対立します。このため、高い関税を設定できる代わりに、一定の数量の輸入が義務づけられることになりました。米については、毎年、77万トンの輸入を政府は行っています。これがいわゆるミニマムアクセスと言われているものです。

 この77万トンの輸入のうちかなりの部分はあられやせんべいなどの加工用に向けられています。日本米のような短く小さい粒の米ではなく、長い粒の米がタイなどから輸入されています。しかし、77万トンの中で10万トンは主食用にも向けられる枠として、設定されています。輸入されているのは、中国やカリフォルニアで作られた日本米と同じ種類の米です。2年前の平成22年度は、国産米の価格が低かったので、10万トンの枠のなかで輸入されたのは、わずか3万7千トンでした。国産米と外国産米との価格差がほとんどなくなっていたと考えられます。しかし、国産米の価格が上昇した昨年度は10万トン全量が輸入されました。一部のスーパーや外食店に出回っているのは、この制度で輸入された米です。

 

3.国内の価格が上昇しているので、輸入米の枠を拡大してほしいという要望はないのでしょうか? 

 外食産業などでは、そうした要望もありますが、認められていません。国内市場に外国産米が輸入されると、輸入した分だけ米生産を減少しなければなりません。つまり減反の強化が必要となります。そうなると、国内の生産者の反発を招きかねません。このため、ミニマムアクセスのために減反を強化しないと政府は表明しています。国内市場で外国産米を受け入れながら、どうして生産を減少させないで済むかというと、輸入した分だけ国産米を政府が購入して、外国への援助や家畜のエサとして処分しているからです。しかし、高い米をただ同然の価格で処分するわけですから、膨大な財政負担が生じてしまいます。これも含めて、ミニマムアクセス米全体について、政府は毎年300億円から350億円もの税金を使って、処理しています。主食用に向けられる10万トンの枠を増やすと、国産米の購入と処理のために、さらに財政負担が増えることになります。政府としては、好ましいことではありません。このため、農林水産省は7月31日この枠を拡大しないことを決定しました。

 

4.米の小売価格の上昇は米の需給にどのような影響を与えるのでしょうか? 

 目先のことだけを考えるのであれば、米の価格が上がっていることは、農家にとって良いことです。しかし、価格の上昇は、米の消費を減少させることになります。ピーク時には1千4百万トン近くあった米の消費が今では8百万トンを切るまでに減少しました。この原因の一つとして、農家所得向上のために米の価格を引き上げながら、輸入主体の麦についてはほとんど価格を引き上げなかったため、米よりも麦の方が消費面で有利になったことが挙げられます。農家のために行った政策が、国内で生産できる米から外国産の麦へ消費をシフトさせ、結果的に日本の米産業を窮地に追いやるとともに食料自給率を低下させることになりました。減反政策は、その事後処理です。   

 また、今のところ利用は増加しているものの10万トンの輸入枠内にとどまっていますが、国産米から外国産米に外食産業などの需要がシフトしていくと、再び需要を取り戻すことは困難となりかねません。うどんに仕向けられる国産の麦も、その生産減少を放置している間に、外国産麦に需要を取られてしましました。今では、讃岐うどんの原料はほとんどがオーストラリア産です。日本の麦では、今の讃岐うどんの白さとコシを出すことは困難となっています。米は家庭で消費されるという理解が一般的でしょうが、実は約6百万トンの流通量の半分が外食や惣菜産業に仕向けられています。生産量自体は減少していないので、いずれ、米価はかなり低下するという見方もあります。今のうちに正常な価格に戻し、消費を確保しておくことが、米産業のためにも必要です。

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