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2012.07.18

社会福祉法人の内部留保と不正経理

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 7月3日、社会福祉法人が経営する特別養護老人ホームと障害者福祉施設の財務状況調査結果を財務省が発表した。社会福祉法人は、財源不足のためその使命である社会福祉サービスを拡大することができないとして、常に補助金増加を訴え続けてきた。しかし、今回の財務省調査により、社会福祉法人全体として巨額の内部留保が貯まっているのみでなく、内部留保が大きい法人ほど黒字を社会還元することに消極的であることが確認された。さらに財務省は、会計原則を逸脱した経理処理を行っている事業体が相当数あることが疑われると指摘している。例えば、借方と貸方が一致しない貸借対照表を監督官庁である県や市に提出している社会福祉法人がある。市販の経理ソフトを使っていれば、借方と貸方が不一致の貸借対照表が作成されることはありえない。したがって、これらの社会福祉法人では初歩的な会計知識のない者が経理を担当し、かつ法人資金が経営者たちの私的目的に流用されている疑いが濃いのである。

 社会福祉法人制度が創設されたのは1951年である。1946年に公布された日本国憲法は、第89条で政府が民間の福祉サービス事業者に補助金を出すことを禁じている。これは、補助金拠出を認めると政府が本来自らの使命であるセーフティネット機能を民間に丸投げする懸念があると考えたGHQの意向が反映した結果と言われている。しかし、終戦後の経済混乱の中、多数の生活困窮者を救済するための施設建設を政府だけで行うことは無理であった。そこで、社会福祉事業に対する憲法第89条の適用除外を認める社会福祉事業法を制定し発足したのが社会福祉法人制度なのである。

 その後60年間、社会福祉法人に対して数十兆円もの補助金が投入された。失業率の高止まりや東日本大震災の発生により生活困窮者が増加していることから、今後も社会福祉法人に対する補助金供与は続ける必要があると思われる。しかし驚くべきことに、政府は過去60年間一度も全国の社会福祉法人の財務諸表データを集計したことがない。つまり、様々な社会福祉施設を必要なだけ建設する政策目標を達成するために社会福祉法人側で不足している資金額を推計することなく、巨額の補助金を出し続けているのである。

 そこで、当研究所が社会福祉施設経営を行っている社会福祉法人約16,300全体の財務データ推計(2009年度分)を2011年に発表した。その結果は、収入7.5兆円、平均利益率5.9%、総資産16兆円、純資産13兆円とトヨタをも凌駕する内容であった。この調査結果を受け民主党から厚生労働省に対して、様々な社会福祉施設がある中で介護報酬改定の対象になっている特別養護老人ホームの財務内容の推計を行うよう指示がだされた。その結果、特別養護老人ホームだけで約2兆円の内部留保があることが判明した。

 冒頭で述べた財務省の調査は、この厚生労働省の調査結果を踏まえ、財務省自らが社会福祉法人に滞留している埋蔵金の実態を確認したものである。とりわけ金欠のイメージがあった障害者福祉施設も実はリッチであることを把握できたことは、今後の社会福祉法人制度改革を考える上で重要である。社会福祉法人は非課税優遇を受けており法人税を支払う義務がない。一方、その黒字合計額は毎年約0.5兆円と推計される。仮にその20%にあたる0.1兆円を社会福祉法人全体で共同拠出する仕組みを作れば、東日本大震災の被災者の将来にわたる生活支援資金になりうる。この共同拠出に社会福祉法人が反発するのであれば、財務省が提案しているように、全社会福祉法人に対して財務諸表のWEB公開を法律で義務付け、社会福祉法人のあるべき姿を世論に問うべきであろう。

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