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2012.05.29

土地利用計画による新生農業の建設

『環』Vol.49(2012年4月)に掲載

 今回の震災でまず頭に浮かんだのは、土地利用計画だった。地域も原子力発電所も、一定以上の地震・津波には対応できなかった。被害を二度と起こさないような地域を復興しなければならない。それだけではない。シュンペーターに「創造的破壊」という言葉がある。新しいものを作り出すために、今あるものを破壊することが必要だというものである。今回自然が地域を破壊した。その上には、今まで以上のものを建設しなければならない。

 私は瀬戸内海の小都市で育った。隣には中国地方でも有数の都市がある。今やわが町の6倍の人口規模である。しかし、母親によれば、戦前はそれほどの違いはなかった。むしろ歴史的に見ると、隣町は藩都だったが、こちらは天領であり、昔はわが町の人のほうが威張っていたようである。しかし、これほどの差が生じたのは、隣町は空襲に遭い、旧内務官僚だった市長の指導のもと、戦後大規模な区画整理事業を行ったのに対し、空襲を受けなかったわが町は、天領時代と同じ迷路のような街並みのままとなってしまったことによるところが大きい。

 首都東京も、東京大空襲によって、灰燼に帰した。しかし、目前の復旧を優先させたために、都市づくりを行う機会を、逸してしまった。東京には、幅員100メートルの幹線道路を8本も建設するという、雄大な戦災復興計画が存在していた。しかし、これを実行に移すことをためらっている間に、バラック(仮設住宅)が建てられてしまった。戦災復興事業を行うと、これらの立ち退きが必要となる。選挙を意識した当時の東京都知事は、大規模な復興を行わなかった。

 これに対して、名古屋市の対応は、迅速かつ徹底したものだった。戦災によって、路の狭い古いまちのままだった名古屋の中心部が破壊されたことを機に、約280の寺とその墓地を一カ所に強制的に移転するなどの荒療治を行いながら、2本の100メートル幹線道路を整備するなど、整然とした町並みを持つ大幅な都市改造を行った。同じ震災ということで、マスコミでは関東大震災の後藤新平の対応が取り上げられたが、同じように破壊され、歴史的には今日に近い戦後復興が話題に上らないのは、残念だ。

 戦後の土地利用はどうだったか?農村では、無計画な土地利用によって、まとまって存在していた農地の真ん中に住宅、倉庫、工場、市役所などが建設された結果、周りの農地は日陰となるなど、農業生産、ひいては食料供給に支障を生じている。このような無秩序な土地利用は、景観をも著しく損ねてきた。都市的な地域が無秩序に農村部に張り出していくという戦後の乱開発は、国民から美しい農村風景を奪った。

 今回の震災についても、戦災復興に学ぶとともに、戦後の乱開発の反省に立って、明日の地域の在り方について十分に意見を交わし、しっかりした土地利用計画の下で、災害に強い強固な建物と地域を建設していく必要があった。人口が減少していく地域で旧に復する計画を作れば過剰な投資を行うことになりかねない。将来の地域の姿を描きながら、土地利用計画を策定する必要がある。そのうえで、幹線道路を整備し、住宅地は一ヵ所にまとめ、間に住宅などのない、まとまった規模の農業用地を創造すれば、災害対応にも食料安全保障にも美しい農村景観にも、貢献できる。

 東北地方は、我が国有数の食料基地である。津波で被害を受けた農地については、高齢な農業者が、塩水につかって使用できなくなった機械の代わりに、多額の資金を投じて新たに機械を購入して、営農を再開することは、困難である。フランスの公社が退出する農家の農地を若手農業者に配分したように、被災地を対象として特別措置法を制定し、土地や機械などの農業資本を若手農業者に集中し、その育成のための積極果敢な対策を講じるべきである。親類や友人から出資をつのり株式会社を作って農地を取得して、農業を開始することは、現行農地法では認められていない。銀行等から融資を受けて参入した場合、失敗すれば借金が残ってしまう。農業は自然リスクが高い産業なのに、リスクを軽減できる株式会社による農業参入をベンチャー的な企業的農業者にも認めていない。資本が一定規模以下の小さな株式会社であれば、特区制度を活用して、特例的に認めてもよいのではないか。土地を提供した高齢農家は地代収入を得て、農地、水路等の維持管理という役割を果たすことになる。こうすれば耕作は若手の担い手農家に任せて、高齢者等は農地や水路などのインフラ整備を行うという新しい農業・農村の姿を構築できる。

 また、現在農地整備は30アール区画を標準に行われている。福井県で行われているように、一筆の農地を一人が所有するというやり方にこだわらないで、2ヘクタールの大規模区画にすれば、単に区画拡大により労働時間が低下するだけではなく、直播技術の導入によって、さらにコスト・ダウンが図られ、農業収益は増加する。

 しかし、現実はどうだろうか?国の対応が数ヵ月も遅れたうえ、市町村の担当者も被災したため、そのような土地利用計画を立てる人材が不足した。それならば、国から職員を派遣したりして、計画を作成すべきだったのだが、それも思うようにいっていない。また、特区についても十分な検討が行われているとはいえない。1年も経過しているのに、復興の青写真さえできていないのは残念である。

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

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