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2011.12.28

今年の農業・食糧問題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2011年12月27日放送原稿)

1.今年も農業や食料について様々な問題や事件が起きましたが、大きなニュースとしては、どのようなものがありましたか?
 まず、3月11日に起こった東日本大震災です。津波で塩水につかるなどの被害を受けた農地は、約2万4千ヘクタールにのぼりました。これらの農地には、がれきが残ったり、塩分濃度が高くなったりしました。さらに、水田に水を引いたり、排水したりする施設も大きな被害を受けました。
 政府は、2万4千ヘクタールの被災農地を3年で復旧することとし、そのうち6割で来年中の営農を再開するという目標を立てています。津波で被害を受けた農地については、その多くは畔(あぜ)もなくなっているので、元あった農地の形状を復元することは困難です。現在農地整備は0.3ヘクタール区画を標準に行われていますが、農地をまとめ、1ヘクタールの大規模区画にすることで農業の効率化を図ることを政府は検討しています。


2.放射能汚染の問題も深刻でした。
 農林水産省は、放射性セシウムが土壌1キログラムあたり5,000ベクレルを超える福島県内の農地8,300ヘクタールについて汚染を除くとしていました。 セシウムは表面に近い土に集中しているので、表土の削り取りを行えばよいのですが、8,300ヘクタールの農地の土壌を4cm削ると300万トン以上の土壌の処理が必要となります。このため、福島県は、農地の上に放射性物質を吸着するゼオライトを散布して、その後、表面の土と下の土を入れ替え、大気中の放射線量を下げ、農産物に放射性物質が付着しないようにする方法を検討しています。これまでの実験で、線量は3分の1に低減したといわれています。福島県は今後、各地で実演会を行い、年明けには除染作業を本格化したい考えです。
 農産物についても汚染が発生しました。放射性セシウムで汚染された稲わらが、北海道や新潟、島根など16道県の肉牛農家で餌として使われ、このうち14道県からこれらの稲わらを食べた牛が出荷されました。1kg当たり500ベクレルの暫定規制値を超える牛肉については、焼却処分がなされました。岩手、宮城、福島、栃木県については出荷制限が行われたのち、8月末に解除されました。その際、暫定許容値を超えた稲わらを給与していた農家と汚染稲わらについて立ち入り調査を受けていない農家には全頭検査、それ以外の農家には最低1頭を検査することとなりました。
 コメにも影響が生じました。土壌1キログラムあたり5,000ベクレルを超える放射性セシウムを検出した地域には、コメは作付けされませんでした。農林水産省は作付制限をしている地域以外の地域から暫定規制値を超えるコメが生産される可能性は低いとしていました。しかし、11月地元の自主検査で、福島市の大波地区で、1キロ当たり500ベクレルという暫定規制値を超えるコメが発見されました。これを受けて、福島県が緊急調査を実施したところ、福島市大波地区で135の農家のうち16戸、それ以外の地域では4,316の農家のうち13戸から暫定規制値を超えるコメが見つかりました。このようなコメが見つかった旧市町村単位の地域においては、コメの出荷は停止されます。
 なお、12月22日厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は一般食品の規制値を来年4月以降1キロ当たり100ベクレルとするという厳しい案を了承しました。コメや牛肉には来年10月以降適用されます。


3.TPPの参加と農業問題が大きな争点となりました。
 これまで日本が結んできた自由貿易協定では、米や乳製品などの農産物は対象外としてきました。しかし、TPPも同じく自由貿易協定の一つですが、基本的には例外扱いを認めない自由化の程度の高い協定です。農協は、TPPに参加すると日本農業は壊滅すると主張しました。民主党の中にもTPP参加に慎重な意見を持つ人が多く、調整は困難でした。しかし、野田総理は11月13日APEC首脳会議の際「交渉参加に向け、関係国と協議に入る」と表明しました。TPPに参加するためには、現在の交渉参加国9カ国の合意が必要となります。特に、アメリカの場合、連邦議会が通商交渉の権限を持っているという特殊な事情があります。アメリカ政府は、議会から権限を委任されて交渉しているのです。したがって、ある国が交渉に参加する場合、交渉参加の90日前にアメリカ政府は議会に通知することとなっています。もし、日本が6月に参加するのであれば、3月にこの通知がなされることになります。その時までに、日本は交渉参加をはっきりと決定する必要があると考えられます。農業についても、関税で保護するのではなく、アメリカやEUが行っているように、直接支払いという補助金で保護するという政策転換が必要となります。


4.コメ政策についてはどうでしょうか?
 72年ぶりにコメの先物取引が認められました。農協グループは反対しましたが、先物取引とは、本来生産者にとって、将来価格が変動することのリスク回避の行為を行い、経営を安定させるための手段です。先物取引参加を検討している農協も出てきているようです。
 震災からの復興、TPP参加問題、先物市場の行方など、来年も、農業、食料は国政の大きな問題となると考えられます。

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