本文へスキップ

2011.09.29

日本にもメガ非営利医療事業体を

『あらたにす』新聞案内人 2011年9月22日号に掲載

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 厚生労働省が2010年度の概算医療費の前年度比増加率がプラス3.9%であったと発表した。概算医療費とは、全額自己負担の医療費などを除いた金額で医療費全体(国民医療費)の約98%を占める。国民医療費より1年程度早く発表され、速報値の役割を持っている。
 医療費が名目GDPに占める割合を国際比較する場合、通常介護費も含まれている。そこで、この3.9%と既発表のデータを使ってわが国の2011年度における医療費と介護費を推計、名目GDP成長率については民間機関が8月に発表した予測の平均を採用するという方法で、2011年度の医療介護費が名目GDPに占める割合を試算してみた。

医療介護費 GDP比は10%超に
 表1がその結果である。これまで医療介護費の負担の程度を論じる場合、「わが国の医療介護費が名目GDPに占める割合は先進諸国中最も低い」と強調されてきた。しかし、デフレ下で医療介護費が増え続けている結果、2011年度には10%を超え他国並みになると予測される。

110922_matsuyama_data.jpg

技術イノベーションに偏向
 前回の当コラムで述べたとおり、医療費の名目GDP比の理論的最適値など存在しない。大切なことは、平成23年版経済財政白書が指摘しているように、医療産業がイノベーションを通じて生産性を高めることにより持続的な成長に貢献できるかどうかである。  そこで政府も医療イノベーション会議を設置して具体策を検討している。しかし、その議論はゲノム関連等の基礎研究や医薬品・医療機器の開発といった新技術にテーマが偏っており疑問である。
 なぜなら、経済成長に結びつく医療イノベーションの分野には医療提供体制と新技術の2つがある。前者の方が経済全体に与える効果が後者よりはるかに大きく、かつ諸外国に先駆けて新技術を実用化するという後者の成功は変革し続ける医療提供体制という前者にかかっているからである。加えて、新技術には先行投資財源が必要なのに対して、医療提供体制のイノベーションは既存の医療経営資源の組み換えにより自ら追加財源を生み出すことも可能である。

米トップブランド提携の衝撃
 8月29日、メイヨークリニック(2010年収入額79億ドル)とクリーブランドクリニック(同59億ドル)が業務提携するという世界の医療関係者が驚愕するニュースが飛び込んできた。両者は、医療分野における研究・技術開発、人材育成で長年世界の頂点を競ってきた米国のメガ非営利医療事業体である。
 この業務提携の当面の目的は互いのブランド力を強化するために医療評価情報の共有、技術交流等を進めることにある模様だが、理想の医療を追求するためには最強のライバルとも組むという組織カルチャーは日本の医療界にはない。
 わが国が医療イノベーションによる経済成長を目指すのであれば、国・公立病院、国立大学付属病院といった既存の医療経営資源を組み替えて、まずメイヨークリニックやクリーブランドクリニックとブランド競争できるメガ非営利医療事業体を創るべきである。

 

同シリーズコラム

松山 幸弘 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

松山 幸弘 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる