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2011.09.12

TPP交渉への参加問題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2011年9月6日放送原稿)

1.TPPについての賛否が分かれています。

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、貿易や投資の自由化を推進する協定です。TPPへの参加については、当初農業界から強い反対論が出されました。現在では、TPPによってデフレが進行するとか医療や地方の建設業も影響を受けるなどという主張が、評論家と言われる人たちによって行われています。しかし、TPPに対する批判には、通商問題を巡る事実関係や国際経済学に関する誤解に基づく主張が少なくありません。


2.改めて、TPPについて説明してください。

 現在交渉中のTPPの基礎となるものは、2006年に発効した、ニュージーランド、チリ、シンガポール、ブルネイの自由貿易協定です。現在、この4カ国に、アメリカ、豪州、ペルー、マレーシア、ベトナムが加わって、交渉が行われています。

 オリジナルな4カ国の協定の特徴として、2点が挙げられます。一つは、我が国が結んだ自由貿易協定が農産物について多数の例外品目を設定しているのに対し、ほぼ全品目についての関税撤廃を行う自由化のレベルが高い協定だということです。次に、我が国が結んできた自由貿易協定と同じなのですが、物品の貿易のみならず、サービス貿易、政府調達、競争政策、投資など様々な分野を包摂した協定だということです。

 TPPはAPECというアジア太平洋地域の広域的な経済圏の実現に向けた取り組みの一つとして位置付けられています。今は9カ国で交渉されていますが、TPPはいずれアジア太平洋地域全域を対象とすることを予定しているのです。さらに、アメリカ、豪州などアジア太平洋地域の日本を除く先進国全てが交渉に参加しているという特徴があります。したがって、TPPは、高度な内容の協定になる可能性が高いと考えられます。しかも、WTO(世界貿易機関)もカバーしていない、競争、貿易と環境、貿易と労働、投資という分野についても取り込んだ協定となろうとしています。


3.日本にとってのメリットは何でしょうか?

 1990年以降の成長率が続くとすれば、2020年には一人当たりのGDPで韓国や台湾に向かれてしまうという推計があります。日本は途上国となってしまうのです。大きな経済成長を実現するものは、技術革新、イノベーションです。企業が貿易・投資により国際化すれば、国外の技術や活力を取り込み、経済成長に必要なイノベーションを活性化させることができます。企業の生産性は、輸出を行うことによって2%、対外直接投資を行うことで2%、海外で研究開発を行うことで3%、それぞれ上昇するという実証分析があります。また、外国企業による対日研究開発投資は、その産業の生産性を4%向上させるという実証分析もあります。

 アメリカなどのアジア太平洋地域の先進国が参加しているTPPに我が国が加わることは、海外先進国の技術を吸収して国内のイノベーションを活性化するために、より効果的です。TPPでは関税の撤廃だけではなく、貿易を円滑に進める方法、海外に企業が投資した場合の投資保護や投資の促進などについても議論されています。

WTOでまだ規律されていない分野のルールがTPPで作られれば、WTOで検討される際に、必ず参考にされることとなります。TPP交渉に参加することによって、日本の利益をTPPルールに反映させれば、日本の利益を世界の規律・ルールに反映することができます。また、TPPは日本経済を破壊するという主張には根拠が乏しいと思いますが、仮にそうだとするならば、アジア太平洋地域のルール、さらには世界貿易・投資のルールとなることが予想されるTPPの交渉に積極的に参加し、日本経済にとって問題となる規律を排除することに努めるべきです。

 より重要なことは、国内の高い農産物、食料品の価格は所得の低い消費者家計に負担を強いています。TPPが実現して食料品価格が低下すれば、消費者は価格低下と消費量の増加の2つの利益を得ることができます。これはリーマンショクや東日本大震災で職を失ったり、所得が減少した人たちには、朗報となります。また、農産物価格が低下しても、アメリカやEUのように農業生産者に対して直接支払いという補助金を交付して生産量を維持すれば、生産者も不利益を受けません。高齢化と人口減少で国内の農産物市場が縮小する中で、貿易相手国の関税を撤廃して輸出を振興しなければ、日本農業は衰退するしかありません。農業にとっても、貿易自由化交渉は必要なのです。

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