本文へスキップ

2011.08.12

牛肉と米の放射性物質

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2011年8月9日放送原稿)

1.稲わらを介して放射性セシウムに汚染された牛肉が流通しました。牛に稲わらを食べさせるのはどうしてでしょうか?
 牛は草食動物ですから、本来草を食べます。しかし、草だけで育った牛の肉は固くて脂肪分も少なく、おいしくないので、トウモロコシや大豆などの穀物も与えて、肉質を良くします。日本では、エサ用の穀物はほとんどアメリカなどから輸入しています。また、草についても、そのままの草と乾燥した草を与えますが、日本では土地が狭く、牧草のコストが高いので海外から稲わらや牧草を輸入してきました。


2.それなのに、どうして国内産の稲わらが流通するようになったのでしょうか?
 実は、2000年中国から輸入した稲わらから、牛、豚の感染症である口蹄疫が発生したのではないかと疑われたことがありました。このため、政府は農家への助成措置を講じて、稲わらの自給を目指すこととしたのです。稲作農業では、農業に時間を割けない兼業農家が多数を占めるので、稲わらは収集されず、放棄されていました。コメ農家が稲わらを収集し、畜産農家に供給することができれば、コメ農家と畜産農家による連携が達成できます。これによって、口蹄疫等の病気の発生も防止できるだけでなく、農業をより環境にやさしくすることができると考えられたのです。

 日本で採れた穀物や稲わら・牧草を使って牛肉などの畜産物を生産すれば、家畜の排せつ物は穀物などの生産に再び使用されます。しかし、これらを海外から輸入して家畜に与えると、家畜の排せつ物が農業生産に利用されないで、日本の国土に過剰な窒素という形でたくさん残留してしまいます。これは地下水汚染などを起こし、環境や健康上の問題を生じさせます。畜産物は国内で生産しないで外国から輸入した方が環境にはよいのだという議論があります。これに対して、輸入穀物などに頼らず、国内で生産できる稲わらなどを牛肉生産に使用できれば、畜産を環境にやさしくすることができます。コメ農家にとっても、畜産農家から家畜の排せつ物を受け取り、たい肥化して使用すれば、化学肥料を減少することができます。2000年当時の農林水産省の国産稲わらの活用という取り組みは、このような意義を持つものだったのです。


3.今回どうして放射性セシウムに汚染された牛肉が流通してしまったのでしょうか?
 農林水産省は東北や関東の畜産農家に対しては、稲わらなどの飼料は事故の前に刈り取って屋内で保管されたものに限るよう、3月に通知していたはずでした。しかし、この通知が農業団体で止まってしまい、畜産農家まで届いていなかったようです。しかも、稲わらを出荷するコメ農家には通知さえ行われていなかったようです。

 農林水産省が7月28日に公表した調査結果によれば、放射性セシウムで汚染された稲わらが、北海道や新潟、島根など16道県の170の肉牛農家で餌として使われていました。このうち14道県からこれらの稲わらを食べた2965頭が出荷されています。宮城県の稲わらが北海道や島根県まで広域に流通していたのです。東北や関東の畜産農家に対してのみ行われた通知では、不十分でした。結局、コメ農家や東北や関東以外の畜産農家に対しては、汚染された稲わらを生産したり、使用したりしないという指導は全く行われていなかったことになります。原発事故を起こした東電の責任はもちろんですが、国産稲わらの流通を推進してきた農林水産省が、このような不十分な指導しか行わなかったことの責任は重いと考えられます。


4.農林水産省は収穫期を迎えるコメについて、収穫の前と後の2回に分けて放射性セシウムを検査する方針を公表しました。
 土壌1キログラムあたり5000ベクレルを超える放射性セシウムを検出した地域には、コメは作付けされていません。今回の検査は、それ以外の地域で、土壌1キログラムあたり1000ベクレルを超える放射性セシウムを検出した地域などで実施されます。このような地域で生産されたコメについて検査し、コメについて1キロ当たり500ベクレルという暫定規制値を超えるコメが見つかった旧市町村単位の地域においては、コメの出荷は停止されます。この地域で生産されたコメは自治体が全量管理して廃棄処分が行われます。

 農林水産省は作付制限をしている地域以外の地域から暫定規制値を超えるコメが生産される可能性は低いとしています。また、日本土壌肥料学会は、玄米からぬかを落として白米にすれば、放射性セシウムは大きく減少するとしています。土壌から白米へはセシウムはあまり移っていかないのです。しかし、消費者の不安が起きないようにするためには、暫定規制値を超えるコメが発生した場合、自治体に全部集まり、他に流通しないようにする必要があります。また、自然に半分まで減少する期間である半減期は、セシウムでは30年にもなります。したがって、暫定規制値を超えるコメが出てきた場合、回収したコメをどのような場所にどのように廃棄処分するのか、またコメよりもセシウムが移行する量が多い稲わらなどは、どのように処分するのか、すき込んでしまうとセシウムは農地に戻ってしまいます。なお課題が残されているように思います。

同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる