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2011.03.16

第九回 国債の暴落に備える(2)

ゲーデルの貨幣-Ⅲ-政策篇(9) 『週刊金融財政事情』 2011年3月14日号に掲載

円建て借入れが原資の官民共同外貨建てファンド
 日本の官民の資金を使って対外資産の保有量を円高の現状において増やしておくと、国債暴落に伴って急な円安になったとき大きな為替差益が発生する。円安時には、外貨建ての対外資産の価値が円表示で上昇するからである。とくに、官(政府)が保有する外貨建て資産は、円安時に為替差益で財政を改善するので、一種の財政の自動安定化装置となって国債暴落の振れ幅を小さくしてくれる。これが本連載で論じているアイディアである。
 しかし、こうした効果を得るためには、必ずしも、政府が直接的に外貨建て資産をもつ必要はない。為替リスクを政府が引き受けるかたちさえできれば、民間資金による投資であっても、「国債暴落へのリスクヘッジ」という政策効果は確保できる。また国が外貨建て資産を直接に保有することは為替介入と同一視されるため、政治的にもあまり好ましくない。
 具体的な政策としては、次のような官民共同出資でファンドをつくり、為替リスクを官が負担して民が対外投資を行う、というスキームが考えられる。
 まず、日本政府(または産業革新機構や国際協力銀行などの公的機関)が資本金を出資してファンドを設立する。ファンドは市中から円建てで借入れを行って投資資金を調達し、さまざまな対外投資を実施する。為替変動のリスクについては、資本を出す公的機関が引き受ける仕組みをあらかじめつくっておく。
 国債暴落のダメージを為替差益で十分に緩和するには、対外投資の規模が数百兆円から一千兆円を超える規模になる必要がある。もちろんそれは、一つのファンドでは不可能である。ファンドの資産規模はせいぜい数十兆円から百兆円が限度だろう。ファンドはあくまで呼び水として機能することに意義がある。呼び水効果で、民間の投資主体の行動様式が変わり、日本経済全体としての対外資産保有が増えれば、日本の経済構造がグローバル化し、財政破綻への耐性が高まると考えられる。
ファンドが借入れを行う先としては、銀行、ゆうちょ銀行、生命保険会社、年金基金などの国内投資家を想定しているが、海外投資家から円建てで借入れを行ってもよい。
 ファンドの投資先は、外貨建て証券(欧米や新興国の国債、海外企業の社債など)や対外直接投資(新興国等の企業や不動産への投資)である。とくに直接投資については、産業革新機構や国際協力銀行がこれまで蓄積した対外投資のノウハウを生かすことにより、堅実に案件を積み上げていくことが可能であろう。
 たとえば新興国などでのインフラ整備のために日本企業がプロジェクト輸出をする際に、ファイナンス面で支援するために、このファンドが現地政府に融資する政策なども考えられる。
 ファンドは円建てで資金調達をし、外貨建てで投資するので、為替リスクを抱えるが、その大宗をファンドにエクイティを提供した公的機関(政府)が引き受ける。
 将来、日本の財政への信認が失われ、急に大幅な円安が起こるまでは、いまの円高トレンドが続く。政府が為替リスクを引き受けるファンドを使えば、民間は当面の円高による為替差損を懸念せずに、思いきった対外投資を実行できるはずである。
また、日本からの対外投資が増えれば、そのこと自体が円高を緩和し、さらに対外投資の意欲が高まる好循環も生まれると思われる。
 このように、官民ファンドが呼び水となり、日本の対外資産を増やすことができる。

破綻は突然やってくる
 この政策論は、「国債への信認が高い状態(すなわち円高)が数年間続いたあとに、突然、信認が失われ、急な円安になる」というシナリオが前提になっている。外貨建て資産積み増しは、円安局面で為替差益を発生させることによって、急な信認喪失の影響を緩和するものである。
 なぜ、国債に対する信認は将来のある時点で急変するのか。いいかえれば、なぜいますぐに国債暴落は起こらないのだろうか。これについては、3通りの説明が考えられる。
 一つは、「市場参加者たちは日本政府が財政再建を実行すると確信している」という可能性である。この確信があれば、現在の国債への高い信認は謎ではなく、合理的期待均衡そのものである。しかし、第三回で論じたように、日本の政治状況からみて、厳しい財政再建が適切なタイミングで実行されるとは考えにくい。市場に財政再建への確信があるとすれば、それは過去の経験からの、一種の過信である可能性がある。
 二つ目の仮説は、「投資家の行動が近視眼的であるため合理的均衡から乖離が生じている」というものである。民間金融機関の職員は、今年の決算や人事評価までに出る自分の業績を最大にしようとする。皆が短期的な視野で行動するため、数年先の国債暴落リスクは市場価格に織り込まれず、国債バブルが起こっているという説である。
 第三の仮説は、ファンダメンタルズからの説明である。日本の経常収支の黒字が長年続いてきたため、長期的な円高トレンドが続いていた。現在も、経常収支が黒字基調であることから、市場には強固な円高予想が存在しているのだろう。円高トレンドがこれからも長く続くと予想されれば、外貨建て資産よりも円建て資産のほうが有利であるから、国内投資家は日本国債に投資を続ける。この場合、新興国の追い上げで、日本の経常収支が赤字基調になるまで国債への需要は衰えず、国債暴落も起こりにくいはずだ。しかし、「長期円高」期待が失われれば、日本の国内投資家にとっても国債保有の魅力は失われるので、一気に調整が起こるのではないか。
 三つの仮説のいずれが原因であっても、国債市場の調整は、ゆっくりしたスムーズなものにはならないだろう。国債と為替の急落という事態に備えて政策を考えておく必要性は非常に高いと思われるのである。

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