本文へスキップ

2011.02.02

「企業の農業参入」

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2011年1月25日放送原稿)

1. 今日のテーマは企業の農業参入ですが、これはどういうことでしょうか?
 農業に関心を持つ人たちが増えています。菅総理も、環太平洋連携協定(TPP)への参加をにらみ、若者や企業の農業参入を促すための農地法見直しに取り組む考えをたびたび表明しています。しかし、農業技術を取得して農業をしようとしても、農地を取得することは簡単ではありません。ムラ社会ではよそから来た人にはなかなか農地を売ったり貸したりしたがらないという問題があります。
 それだけではありません。それ以前の問題として、農地の取得を認めない農地法という制度があるのです。農業に新しく参入しようとすると、農産物販売が軌道に乗るまでに機械の借入れや生活費などで最低500万円は必要であるといわれています。しかし、友人や親戚に出資してもらい、株式会社を作って農地を買おうとしても、これらの出資の半分以上が農業関係者からで、残りの出資も会社が作った農産物を取引するなどの関係者からでなければ、農地法という法律で認められないこととなっているのです。わかりやすくいうと、たとえ親、兄弟、友人でも、農家だったり流通業者だったりしなければ、農業生産法人に出資できないのです。
 このため、新規参入者は銀行などから借り入れるしかないので、失敗すれば大きな借金が残ります。農業は参入リスクが高い産業となっているのです。株式会社なら失敗しても友人や親戚等からの出資金がなくなるだけです。「ごめんなさい」と頭を下げれば済みます。株式会社のメリットは、事業リスクを株式の発行によって分散できることですが、農地制度は、意欲のある人が株式会社を作って農業に参入する道を自ら絶っているのです。農家の子弟だと、たとえ郷里を離れて東京や大阪に住んでいようと、農業に関心を持たない人であろうと、相続で農地は自動的に取得できます。それなのに、農業に魅力を感じて就農しようとする人たちには、農地取得を困難にして、農業という「職業選択の自由」を奪っているのです。

2. これまで農地法は改正されてこなかったのですか?
 当初は、法人形態での農地取得は一切認めなかったのですが、1962年に農家が法人成りするというような極めて限定的な場合に限り株式会社という形態以外の農業生産法人を認め、2000年になって同じ条件で株式会社という形態も認めました。さらに、賃貸借、リース方式での農地の取得については、段階的に規制緩和が行われ、2009年の法律改正で一般の株式会社でも農地を借りて農業ができるようになりました。

3. 農地を借りることができるのであれば、十分ではないのですか?
 二つ問題があります。
 一つは、国会での審議の際、当時野党だった民主党によって、「地域の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること」などが許可の要件として加えられました。しかも、法人は毎年その農地の利用状況について農業委員会に報告することが求められ、そのような経営を行っていないと認めわれれば、許可が取り消されます。要するに、周りの農家とうまくいっていなければ認められないということです。
 もう一つの問題は、リースの場合には、所有者から返してくれと言われれば、返さざるを得ないので、農業者はきわめて不安定な地位に置かれてしまうことです。大きな投資をして高額な機械を購入しても数年後に無駄になってしまうおそれがあります。これを考えると怖くて農業に参入できません。また、農地の生産性を挙げようとすると、土壌改良や区画整理など土地投資が必要です。しかし、いつか返さなければならない農地に多額の投資をしようとする農業者はいないでしょう。やはり農業を本格的に営もうとすると所有権の取得を認めなければならないのです。

4. 農地法の改正はできるのでしょうか?
 2009年に改正したばかりだというので、与党や農林水産省には農地法改正に反対の意見があります。また、農業界には、株式会社が農地を取得すると、宅地や工業用地に転用してしまうのではないかという反対があります。しかし、本当でしょうか。農地改革で小作人に開放した194万ヘクタールをはるかに上回る250万ヘクタールの農地を、半分は転用し半分は耕作放棄することによって潰してしまったのはほかならぬ今の農業界です。戦後の農地改革で農地を取り上げられた元地主の家族の方から、家が没落して、子供だった自分は上の学校に行くことをあきらめさせられたというメールが、私に届いたことがあります。元の地主の人たちにとって、取り上げられた農地をかつての小作人が宅地に売り払って莫大な利益を得るようなことは許しがたいことだったと思います。
 農業界の方が本当に転用すべきでないと考えるのであれば、ゾーニングといわれる都市的地域と農業地域の線引きの制度を抜本的に変更・強化し、転用を厳しく制限すべきです。その一方で、「農地法」を廃止して、農業地域の中であれば、農業をやりたいならどの人でも企業でも農地を取得できるという大胆な規制緩和を実現してはどうかと思います。ヨーロッパには農地法のような法律はありません。しかし、厳しいゾーニングで農地を守っています。まだまだヨーロッパに学ぶところは多いと思います。

同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる