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2010.11.12

「TPPと農業問題」

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年11月2日放送原稿)

1.TPPという貿易の自由化のための協定が話題になっていますが、どのようなことが問題になっているのでしょうか?
 「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」とは、アメリカやオーストラリアなどAPEC地域の9カ国が関税の撤廃に向けて交渉を進めようとしているものです。これに対し、11月中旬に横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で日本が参加を表明するかが、政府部内で大きな争点となっています。菅直人首相は参加に意欲を示していますが、農業関係者は「コメなどの重要品目を関税撤廃の例外とできる二国間の自由貿易協定はまだしも、例外を認めないTPPは日本農業を壊滅させる」と反発を強めています。農林水産省はTPPに参加すると8兆5千億円の農業生産額が4兆1千億円も減少し、食料自給率は40%から14%に低下する、また洪水防止などの農業の多面的機能は3兆7千億円も減少するという試算を公表しました。
 しかし、この試算は意図的に被害額を多くした作為的なものです。
 第一に、データのとり方です。生産額の減少のうちの半分の2兆円が米についての影響です。米農業は安い海外からの米によってほぼ壊滅するとしています。しかし、海外の米の価格について意図的に低い価格を採っています。日本が中国から輸入した米のうち過去最低の10年前の価格を海外の米の価格として採り、内外価格差は4倍以上だとしています。しかし、中国から輸入した米の価格は10年前の60キログラム当たり3000円から直近の2009年では1万5百円へと3.5倍にも上昇しています。一方で国産の米価格は1万4千円くらいに低下しており、日中間の米価は接近しています。内外価格差は1.4倍以下です。
 さらに、日本の農家の平均的なコストと輸入価格を比較しているようです。しかし、肥料や農薬など米生産のために実際にかかったコストの平均値は9800円ですが、0.5ヘクタール未満の規模の小さい農家の1万5千円から15ヘクタール以上の規模の大きい農家の6500円まで大きな格差があります。関税がなくなって国内の米価が下がれば、コストの高い規模の小さい兼業農家は農業を止めるでしょうが、規模の大きい農家は存続できます。それだけではなく、農業を止める兼業農家から農地を借りうけてますます規模を拡大するとコストはさらに下がり、日本の米農業の競争力が増します。

2.経済学の立場からはどうですか?
 現在の国内の米価は減反して供給を制限することによって維持されています。減反は生産者が共同して行うカルテルです。「関税は独占またはカルテルの母」という経済学の言葉があります。カルテルによって国内で国際価格よりも高い価格を維持できるのは関税があるからだという意味です。逆に言うと関税がなくなれば、カルテルである減反政策は維持できなくなります。減反がなくなると、国内の米価は9千5百円程度にまで低下します。そうなれば、今中国から買っている米よりも国産米の価格が安くなるので、関税ゼロでも輸入されなくなります。国内農業に影響は生じません。むしろ価格が下がるので、消費が増え、生産量も増えます。

3.米以外の他の農産物についてはどうでしょうか?

 米については日本が実際に輸入した価格を採っています。しかし、乳製品については実際の輸入があるのに世界の平均価格を採っています。我が国の乳業メーカーが生産している乳製品は品質の高いものです。したがって、実際に輸入されている乳製品も品質的にこれと匹敵するものとなっています。意図的に安い海外の価格を採っているために、内外価格差を3倍もあるとしていますが、実際に輸入しているものと比べると内外価格差は1.9倍になります。他の農産物についても、内外の価格差は縮小しています。米以外の農産物の内外価格差を補てんするためには、2500億円もあれば十分です。これは3兆円もある農水省の予算から十分に捻出可能です。

4.多面的機能についてはどうですか?

 関税ゼロでも減反廃止によって米の生産が増えるので、多面的機能はむしろ向上します。農水省はTPPで多面的機能が減少すると言いますが、これまで減反政策によって水田を縮小し、多面的機能を低下させてきたのは、ほかならぬ農政です。
他の品目についても、政府からの直接支払いという補助金でコストを下げていけば、国内生産を維持して多面的機能を確保したうえで、関税撤廃による安い農産物価格のメリットを消費者は受けることができます。価格が下がって消費量が増えた分だけ海外からの輸入が増えます。生産者も消費者も海外の生産者も得をする三方一両損です。貿易を自由化したうえで直接支払いによって国内生産を維持すること。これがアメリカやEUも農業保護のために採っている最善の政策です。農業を保護するかどうかが問題ではないのです。関税か直接支払いなのか、いずれの手段を用いるかが問われているのです。

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