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2010.02.24

保険者間財源調整が限界に達したわが国の医療保険制度

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

 公的医療保険制度により皆保険を実現している国々では、国、州政府もしくは広域医療圏単位で保険 者を設定していることから、各保険者は保険原理が有効に働く規模以上の被保険者数を確保できている。ところがわが国の場合、同じように皆保険を形作ってい るといっても、人口1億2,700万人に対して市町村単位の国民健康保険1,804、大企業の職域単位の健康保険組合1,518、中小企業を束ねた都道府 県単位の協会けんぽ47など3,612もの保険者(2009年4月現在)が設置されている。そのため、財源基盤が脆弱な保険者が多数存在しており、彼らを 救済するために税金投入と保険者間の財源調整により帳尻を合わせることが積み重ねられてきた。しかしながら、2009年度に約6,000億円の赤字になる 見込みの協会けんぽが準備金マイナス(資金繰りのため借金)に陥ったこと、国民健康保険、健康保険組合の多くも赤字であること、保険料率を引き上げても勤 労世代の所得が減少する中では増収につながらないこと等から、現行制度を維持することが不可能と思える状況になってきた。

 この難局を打開するためには、厚生労働省が従来から掲げている「国民健康保険を都道府 県単位で統合」を前倒しで実施し、既に都道府県単位となった協会けんぽとも統合させ、更には大企業の健康保険組合も解散吸収することまで検討することが必 要と思われる。わが国の医療制度の欠陥は、医療消費のあり方に地域差がある中で医療価格である診療報酬が全国一律であり、医療消費と医療提供体制の効率化 に向けたインセンティブが働いていないことにある。

図表1 医療費の地域差指数
  都道府県名 地域差指数
地域差指数が高い県 福岡 1.215
徳島 1.203
北海道 1.174
全国平均 1.000
地域差指数が低い県 静岡 0.893
長野 0.892
千葉 0.868
(出所)
2007年度国民健康保険医療費マップより筆者作成

 年齢構成の影響を医療費から除いたものとして地域差指数がある。図表1のとおり、地域差 指数が最も高い福岡県(1.215)の場合、最も低い千葉県(0.868)の1.4倍である。高齢化とは別の理由で他県より多くの医療消費を続けている福 岡県が他県と同じ医療制度を維持できているのは、全国一律の診療報酬制度や財源調整を通じて他県から補助金を得ているからである。

 このことは、協会けんぽの保険料率にも現われている。協会けんぽは、2008年9月まで 全国一元管理方式で運営されていた政府管掌健康保険を同年10月に都道府県単位に分割することで誕生した保険者である。したがって、その保険料率は、本来 であれば年齢と所得の地域格差調整を施した上で各都道府県の医療保険収支に基づき決定されるべきである。それが、図表2の所要保険料率である。しかし、実 際には激変緩和措置が採用されている結果、北海道が保険料率0.42%相当額の財源を他県からもらい、長野県が保険料率0.47%相当の財源を他県に補助 している状況にある。この激変緩和措置は2013年で解消する計画であったが、政府は協会けんぽの財政危機が想定以上に進んだため、現在の医療保険制度の 枠組みの下で激変緩和措置を継続することを検討している模様である。しかし、前述のとおり、医療保険制度を安定させるためには、むしろ既存の制度間の利害 関係を白紙撤回する形で都道府県単位の地域保険に一気に組み替え、地域医療提供体制と合わせて改革する方が有効と思われる。

図表2 協会けんぽの都道府県別保険料率(2010年3月以降適用)
  都道府県名 所要保
険料率
(1)
激変緩
和措置
(2)
適用保
険料率
(1)+(2)
保険料率が高い県 北海道 9.84% -0.42% 9.42%
佐賀 9.78% -0.37% 9.41%
福岡 9.72% -0.32% 9.40%
全国平均 9.34% ± 0 % 9.34%
保険料率が低い県 静岡 9.02% +0.28% 9.30%
新潟 9.00% +0.29% 9.29%
長野 8.79% +0.47% 9.26%
(出所)
健保ニュースNo.1892掲載データより筆者作成

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