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2009.09.01

感染症専門医不足について

  • 松山 幸弘
  • 研究主幹
    松山 幸弘
  • [研究分野]
    財政・社会保障

  新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)の感染者数が急増し死者も出たことから、感染症 医療体制に対する国民の関心が高まっている。一方、表1のとおり、わが国の感染症専門医の数は960名(人口13万人あたり1名)にすぎない。しかも地域 偏在が大きく、人口292万人の茨城県の場合感染症専門医が1名しかいない。一般の人々は、感染症専門医としての訓練を受けていなくても、医師であれば感 染症医療に必要な知見を有し感染症患者に対して適切な医療を提供してくれるものと信じがちである。しかし、筆者の経験はそのような期待と大きくかけ離れた ものであった。

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  筆者は、1992年~1994年の期間、エイズに関する法律、経済コスト、医療提供体制に関する調査に従事しており、1993年に500名を超える医師を 前に講演する機会を得たことがある。その際、最初の質問として「エイズウイルスHIVはどのように感染するのか」と聞かれて仰天した。なぜなら、1993 年時点ではHIVの感染経路は解明されており一般常識になっていたはずだからである。筆者は思わず司会者である医師に「医師でもない自分が医師に対して HIV感染経路について説明してよいのか」と聞いたが、司会者の回答は「自分も知らないので教えてほしい」であった。

  さらに今年、わが国の医療現場における感染症対策の欠陥を思い知らされる事件 に遭遇した。癌を患った友人が東京都内の有名な病院に入院していた。そのご家族から「本人が胸の痛みを訴えており肺炎の疑いがあるのに主治医が検査もして くれない」と緊急連絡を受けた。病院に駆けつけ事実確認すると、肺炎である可能性が高いにもかかわらず抗癌剤を続けている結果患者が体力を消耗しているこ と、医療チームメンバーである若手医師は検査の必要性を感じていながら上司である主治医に意見が言えないこと、抗癌剤専門医である主治医は専門外の感染症 に興味がないこと、が判明した。正にアンビリーバブルである。そこでやむなく別の病院で検査したところ重篤な細菌性肺炎であることが確認された。

  このように免疫力が低下している癌患者は大きな感染症リスクに晒されている。基礎疾患 のある高齢者も同様である。にもかかわらずわが国の感染症医療体制は未整備のまま放置され続けている。新型インフルエンザ発生を機にその欠陥が露呈し多く の犠牲者が出る可能性がある。日本感染症学会によれば、全国に約1500ある300床以上病院の全てに感染症専門医を複数配置することが必須であり、その ための感染症専門医最低必要数は3千名~4千名である。そこで、感染症専門医の育成をはじめとする感染症医療体制インフラ整備に財源を重点投入することを 提案するしだいである。

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