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2018.10.05

【人類世の地球環境】イエローストーン国立公園に見る米国の環境保護思想

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM 2018年9月号に掲載

  • 杉山 大志
  • 上席研究員
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境

 イエローストーン国立公園は、国立公園発祥の地である。米国は様々な発明で世界に恩恵をもたらしてきたが、国立公園という制度もその1つで、「イエローストーン・モデル」として、世界中でお手本とされるようになった。

 元々の発想は、手つかずの(pristine)野生(wilderness)をそのまま保護しよう、というものだった。このため、国家公園局が直接土地を保有することになった。観光目的を含め、経済開発は厳しく制限されている。日本も欧州も、大抵は資源開発や観光地化が先に進んでしまったので、これと同じことはできなかった。

 実際に足を運んでみると、その思想が徹底していることに感心する。道路を走りながら辺りを見渡すと、ビルも送電線も、構築物は何も見えない。道路の開発も限られていて、100km四方もある広大な公園の中に、数えるほどの道路しかない。馬に乗り、獣道を歩いて道路から外れた場所に行くと、人工の物は本当に何も見当たらない。ひたすら松林が続き、切り立った崖が続き、あるいは草地が広がる。クマやバッファローなど、野生動物にもよく出会う。

 もう1つ感心したのは、科学教育の充実ぶりだ。イエローストーンは地球科学の教材の宝庫であるが、実に分かりやすく詳しい説明が、まさにその現場に書いてある。

 泥が吹いている「マッド・ポット」という温泉では、「泥の色は好熱性のバクテリアが繁殖している色であり、周辺が黄色くなっているのは硫黄の色、その中に黒い筋が見えるのは硫化鉄の色である」とある。きれいなエメラルド色の温泉では、「中央分が青いのは高熱を好むバクテリアの色であり、底に黄色の硫黄が沈着しているので、光が合成されて緑に見えている」、七色にまばゆい温泉では、「中央が青く、周囲に行くと、赤、オレンジ、緑などに色が変わるのは、温度が下がるにつれて棲息するバクテリアの種類が代わるからである」。「高温・酸性下で育つバクテリアはバイオテクノロジーで研究されており、遺伝子指紋やエイズ治療にも利用されている」。

 地質学もある。道路を走っていると「展示あります」の看板があって止まってみると、「ここは河岸段丘になっています」とあり、周囲の地形がいつ、どのようにしてできたか、図で分かりやすく解説してある。皆がまじめに読むとは思わないけれども、熱心に読んでいる親子も沢山いた。興味をかき立てる理想的な教育だ。

 だがイエローストーンも、初めからこのように立派だったわけではなかった。そもそもの始まりは、米国が西に開拓を進めた時に、巨大な自然破壊が起きたことだった。高さ100mもあるセコイアの巨木は切り払われて木材になり、バッファローは激減し、50億羽もいたリョコウバトが絶滅した。テオドア・ルーズベルト大統領は、元々は狩猟愛好家に過ぎなかったが、自然保護の考えを先見的に取り入れ、国立公園という制度の生みの親となった。

 一般市民も、都市に住むようになった反動で、自然に癒しを求めるようになり、旅行がブームになった。

 だがそれで起きたことは、まずは商業的な観光地化だった。イエローストーンでも、熱水の温泉では入浴サービスや洗濯サービスが営業された。野生の熊への餌付けが流行った(この結果、人もクマも何百も死んだ)。間歇泉の石を削り持ち帰ったり、中に石を投げこんで塞いでしまう狼藉ろうぜきが後を絶たなかった。しかし、国の管理下に置かれるようになると、これらはすべて禁止された。

 だがなお、イエローストーンの自然は手つかずというよりは、人間によって管理されたものである。そもそもここには先住民が1万年も住んで、火入れをして植生を変えてきた(気の毒なことに、国立公園化で追い出された)。バイソンは多く見ることができるが、実はその大半は外部から導入されたもので、家畜の牛との交配も進んでいる。エルク(鹿)もそうだが、人にすっかり馴れていて逃げようとしない。オオカミは一度絶滅して、今繁殖しているのはカナダなどから導入されたものだ。

 また、観光の楽しみ方はいかにもアメリカ的である。まず、飛行機で飛んで来るか、超長距離ドライブしないと公園に来られない。公園内は車しか移動手段がない。車は大きくて、ピックアップトラック、キャンピングカーはもっと大きい。環境愛好者なのか破壊者なのか、この点については何とも言えない。

 日本では、温泉といえば旅館、温泉卵にお土産屋と賑々しく開発されている。それももちろん良いけれど(大好きだけれど)、広大な自然を、できるだけ人間が手を入れない形で維持していこう、という米国の懐の深さを感じた。

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