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2018.04.18

温暖化問題に潜む「ブラックスワン」-CO2削減マイナス80%の目標は有害-

エネルギーフォーラム EP REPORT 第1915号に掲載

  • 杉山 大志
  • 上席研究員
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境

 地球温暖化は「厄介な問題」である。温度の目標を決め、排出量の目標を決めても、その実施は容易ではない。政府は、経済や安全保障など他の課題とのトレードオフに常にさらされるため、政策は安定し得ない。強制的に排出量を削減すれば弊害が生じる。

 厄介な問題には「迂回的方法」で対処すべきである。つまり、大規模な排出削減を可能にするイノベーションを促進すべきである。現在、排出削減が困難なのは、対策技術のコストが高いからである。これが下がれば、諸国はその実装に困難を感じなくなり、排出削減は進む。過去、あらゆる環境問題は、そのようにして解決してきた。



温暖化対策は迂回的方法で

 では、どのようにイノベーションを進めればよいか。FIT(固定価格買い取り制度)による太陽光発電の導入のような、巨額の無駄をしてはいけない。電気料金を上げないこと、経済成長を妨げないことは、イノベーション促進のための必須要件である。それに、太陽光発電のような応用技術に投資しても、イノベーションの波及効果は乏しい。

 温暖化対策のためのイノベーションに当たっての政府の役割としては、これも迂回的方法によるべきだ。直接に温暖化対策技術を対象とした技術開発プログラムだけが重要なのではない。最も重要なのは、ICT(情報通信技術)、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、AI(人工知能)、ロボットなどの汎用目的技術を中心とした、科学技術全般の進歩を促進すること、そのための良好な事業環境を作ることである。これによって、温暖化対策技術は派生してくる。

 政府の役割として、積極的な介入としては、基礎研究への投資がある。例えば、スーパーコンピューターを調達し、材料研究などに低料金で開放することが挙げられる。

 政策が、技術開発プログラムで温暖化対策イノベーションを起こせるという意見は、一見、英雄的である。だが実際は、それは政府よりは民間の方が得意な仕事である。政府の役割は、基礎研究から、せいぜい実証段階までの補助に絞るべきである。

 それよりも、急速に進む汎用目的技術のイノベーションに対して、時代遅れになる前に制度を改革するという裏方仕事こそが、政府にしかできない、やるべき大きな仕事である。自動運転車導入のための法整備、e-教育による教育の無料化のための法整備、e-診療を可能にする法整備など、枚挙にいとまがない。

 それでは、このような二重の迂回的方法で、地球温暖化問題に間に合うか。

充分に間に合うだろう。温暖化問題については、汎用目的技術の進捗のペースが、温暖化対策技術、およびそれによる排出削減の進捗のペースを大きく規定することになるであろう。このタイミングを見通すことは難しいが、2050年までには多くの温暖化対策は安価になり、諸国はその実装に大きな不都合を感じなくなって、温室効果ガスは大幅な削減に向かうだろう。

 これで、産業革命前に比べて2度以下に収まるかどうかは分からない。だが、これまでの環境影響評価は誇張や間違いが多かった。2100年までに、産業革命前から3度か4度程度の温暖化であれば、環境影響があるにしても、人間も生態系も、十分に適応できるので、怖れる必要は無いであろう。

 世界での自然災害による犠牲者は、過去100年で激減した。防災能力が向上したからである。今後も、犠牲者は減り続けるだろう。

 地球温暖化による経済的な被害は、これまで観測されていない。過去100年で東京の気温は3度上がったが、誰も何も困っていない。人類の適応能力は高い。生態系は今の地球温暖化を遙かに上回る温度の上下や海面上昇を、歴史的に経験し続けている。これは、そう遠いことではなく、過去数万年の氷期にあったことである。だから今の温暖化程度の変化は、生態系にとっては常態といえる。もちろん、温暖化は生態系に影響を及ぼす。生態系の管理も必要である。だが、温暖化は生態系にとっての異常事態では無い。また、気候が破局的に変わる可能性は、現在の科学的知見では、極めて低い。

 むしろ別の心配をした方が良い。50年にマイナス80%という極端な数値目標を直線的に目指すことは、有害である。早晩、日本の製造業は壊滅し、国力が低下し、自由や民主といった基本的人権が脅かされる危険がある。これが、温暖化問題に潜む最大の「ブラックスワン」である。



善意から始まったとしても

 「地球温暖化の環境影響は危険であり、日本はマイナス80%の目標を達成しなければならない」という考えは、善意から始まっているのは間違いないだろう。そして、多くの研究者、行政官、政治家などが動員され、パリ協定や温暖化対策計画などの形ができた。だが、残念ながら誤りだ。マイナス80%という目標こそ危険である。温暖化の環境影響のリスクはそれに比べれば小さい。

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