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2017.09.07

【人類世の地球環境】環境にやさしい国はどこ?

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM8月号に掲載

  • 杉山 大志
  • 上席研究員
    杉山 大志
  • [研究分野]
    資源・エネルギー、環境

 「温暖化問題を解決するためには、ライフスタイルを変えることが必要だ」という意見は多い。だが、本当にそんなことができるのだろうか。

 どこかに手本はある?環境にやさしいライフスタイルの国はどこ?

 「ドイツが環境先進国だ」と言う人がいる。確かにドイツのリサイクルは徹底している。また、店舗の営業時間は短い。これは宗教的に安息日の習慣があること、時間外労働を嫌う(そして、接客サービスが悪い)といった文化的要因によるものだが、結果としてCO2は減っていそうだ。だが実は、アウトバーンでベンツやアウディなどの高級車がバンバン走っている。これでは環境にやさしいとは言いがたい。

 「アメリカは、浪費家で環境にやさしくない」と大半の日本人は思っているだろう。確かに1人当たりのエネルギー消費は多い。家は大きいし、空調はつけっぱなしである。家が大きいのは歴史的理由がある。コロンブス到達以降、原住民が病気で死に絶え、アメリカ大陸の人口密度は激減した。そこに欧州人が入植したのだが、土地・木材などの資源は、前の持ち主がいなくなったので、膨大にあった。それで家も大きくなった。今でも家が大きいのは、奴隷が住んでいた名残で、ベッドルームが多かったことにもよるらしい。アメリカ人は肉も大量に食べるので、その餌の生産まで含めると、CO2もメタンも大量に出て温暖化を起こす。だが、アメリカは、実は環境に最もやさしい側面がある。水質汚染等の環境基準などはかなり厳しいし、ひとたび法律になれば、日本のようにナアナアではなく、厳格に執行する。そして、野性を愛し、自然公園を大切にする。日本は、国立公園といっても、ゴルフ場があったり、テーマパークがあったり、あれこれ人手が加わっている。アメリカ的な感覚だと、これは庭であって本物の野生ではない。

 日本はどうか?エネルギー効率は高く、世界トップクラスである。家庭のエネルギー消費量は少ない。ただしこれは、家は狭いし、エネルギーの価格も高いから、仕方なくそうなっている面もある。そして日本も世界標準から見ると、かなり環境に悪いことをしている。日本人は鮮度にこだわる。スーパーは、賞味期限が近付くと食品を棚から撤去して廃棄してしまう。そして、魚を世界中の海から捕ってきて、世界中の海を荒らしている。それから、毎日風呂に入るので、お湯を大量に使う。欧米人はシャワーで済ませる人が多い。お湯を大量に沸かして風呂に入る習慣があるのは、世界でも日本くらいだ。

 中国の環境は今、酷い状態にある。北京をはじめ大都市では大気汚染が問題になっている。排煙処理技術はとっくに確立しているし、中国は技術力も経済力もあるから、排煙を減らすことは十分に可能なはずだ。それをしないのは、政治的、行政的に何か問題があるからだ。ただし本来、中国も環境にやさしい国である。老荘思想は、人間が自然に徒らに介入せず、一体となること(無為自然。そもそも自然という言葉もここからきている)を説いた。静謐な自然は山水画に描かれ、謝霊運が詩に詠んだ。日本人も自然を愛するが、その愛し方の大半は、歴史的には中国から教わったことだ。今の中国は埃っぽいが、昔はそうではなく、空気は澄んでいた。今のようになってしまったのは、中世からだと言われている。黄河も昔は黄色くなかった。人間が森林や草原を開発し、土壌が浸食されて、埃っぽい空気と黄色い水に変貌した。

 では、太平洋の島国はどうか?筆者はキリバスの調査をしたことがある。国土の海抜が低いので、地球温暖化の海面上昇による被害が懸念されている。だが、彼らも純然たる被害者かというと、そうは言いきれない。というのは、今やキリバスの生活も先進国からの物資や経済援助で成り立っているからだ。米や缶詰、日用品は先進国の製品を輸入している。消費水準は低いが、生活に必要なあらゆる製品を輸入するために、長い距離を船や飛行機で輸送している。計算を見たことはないが、ライフサイクルベースで見たら、1人当たりのCO2排出量は結構多いのかもしれない。

 こうして見ると、環境を理由にライフスタイルを変えることは難しそうだ。ドイツ人が車を捨て、アメリカ人が小さな家に住み、日本人が風呂と寿司を止め、キリバス人が自給自足に還るというのは、どれも無理な相談だ。ひょっとしたら、長い目で見たら、いくつかの変化は起きるかもしれない。だが、強要するようなものではないだろう。あり得ることは、各国の文化を尊重しつつ、CO2の出ないエネルギー需給技術を確立することだ。

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