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2014.06.16

エネルギー基本計画の決定とIPCC報告書の公表、そして地球温暖化問題に関する提言

  • 湯原 哲夫

<エネルギー基本計画の決定と気候変動に関するIPCCの報告書>

 エネルギー政策の中長期的な指針となるエネルギー基本計画が4年ぶりに見直され、4月上旬に閣議決定された。今後のエネルギー政策の基本的な方向性として、①原子力発電と石炭火力発電等を電源のベースロードとすること、②再生可能エネルギーの可能な限りの大規模導入と省エネルギー政策の推進を骨子としている。

 特に懸案となっている原子力発電についてはこれを維持し、核燃料サイクルの推進と核廃棄物の最終処分を進める一方で、高レベル廃棄物の減容・消滅処理を進めるための開発を行うこと、新たに固有な安全性(炉心溶融しないこと)を有する高温ガス炉の研究開発を進めることなどが盛り込まれた。

 同月、7年ぶりに国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が気候変動に関する評価報告書をまとめて公表した。同報告書では地球温暖化は進展し、すでに深刻な被害を及ぼしていること、今後ますます異常気象や農作物の不作や水飢饉が発生すること、さらに海面上昇による水没等その影響が顕在化していくことが示された。加えて、このままでは今世紀末には最大4.8℃にも気温が上昇し、さらに深刻な事態が起こりうることを定量的に予測し、警告している。温暖化の原因は人為的な二酸化炭素(CO2)の排出であると特定され、その削減のための対策を行い、今世紀末に2℃以内に温度上昇を抑制し、被害の軽減化を図る必要性を示している。

 これらの被害を軽減するため、中期的には、温室効果ガスの排出を2050年に2010年レベルから25-72%削減し、長期的には今世紀末にかけてほぼゼロかマイナスにする必要があるとしている。そして、この削減を達成する上では、世界規模のエネルギー効率の急速向上とともに、低炭素エネルギー(再生可能エネルギー、原子力エネルギー、CO2回収貯留(CCS)を伴う化石エネルギーとバイオエネルギーなど)の供給比率を現在の3-4倍に拡大する必要があることを改めて評価している。

 さらに、同報告書では、温室効果ガス削減のための国際的枠組みとしては、京都議定書は失敗であり、排出権取引市場も有効に作用しなかったと評価し、新しい国際的な枠組みの構築を示唆している。


<あるべき姿への提言>

 地球温暖化抑制に関しては、①世界で共有する温室効果ガスの排出制約とそれに対応する長期的なエネルギー供給の構成、②それらを可能にする技術開発と経済性の確保、③新しい国際的な枠組みの3点をベースとする提言が必要である。今回のIPCCの報告書も踏まえると、新しい知見によるあるべき姿への提言は、以下の要点にまとめられる。

① 温室効果ガスの削減計画における「オーバーシュート・シナリオ」の導入

 ・地球の平均温度上昇を2℃以内とし、温室効果ガスの大気中濃度を450ppm一定に安定化させるという、これまで世界で共有してきた目標は達成困難である。

 ・それに代わる実現可能な目標として、一時的には目標を超過するがその後の努力により目標を守るというオーバーシュート・シナリオ(IPCCで検討され、評価された)を導入する。

 ・このシナリオをベースに、各年の排出量よりも今世紀中の総排出量と長期的な温度上昇の対応を重視し、今世紀末の2℃目標を堅持する。

② 長期的なエネルギー供給とイノベーション技術

 ・エネルギー起源のCO2排出量を世界で大幅に削減するためには、原子力や再生可能エネルギーのような低炭素エネルギーを最大限活用することが不可欠であり、これらのエネルギーの持つ課題を克服し、導入を進めることが世界共通な課題である。

 ・特に原子力エネルギーの利用はエネルギー起源のCO2削減には必須である。ウラン資源の持続可能な利用のための核燃料サイクルに、高速炉による高レベル放射性廃棄物の消滅処理という役割を担わせる。そのロードマップ作りが不可欠な課題となっている。

 ・極めて安全性の高い高温ガス炉の実用化を進め、水素製造や産業用プロセスヒートに用いる。

 ・バッテリー(蓄電池)革命を推進することにより、交通運輸における低炭素化を進める。また、不安定な再生可能エネルギーの安定化を可能にするシステム・イノベーションが必要である。

③ 世界で協力する削減計画と低炭素エネルギー技術の普及

 ・オーバーシュート・シナリオによる地球全体の削減目標を共有し、エネルギー技術のイノベーションを取り込み、その上で発展途上国の成長を進めながら、世界全体で地球温暖化を抑制する排出目標を達成する。

 ・各国の削減目標は今後自主的に提出されることになっているが、その総和が地球全体の削減目標になる必要がある。対応するエネルギー供給構成は世界全体としてコストミニマムで最適化された構成であることも重要である。

 ・各国ごとの二酸化炭素の削減費用を世界で均等化するなど公平性の確保に加えて、先進国の高い低炭素技術を発展途上国の経済成長に必要なインフラ整備として、支援する仕組みが重要である。

 以上のあるべき姿への提言は当研究所がこの4年間にわたり提言してきた内容ともほぼ一致する。その間、欧米と中国の専門家を集めてシンポジウムを開催し、当研究所の提言について意見交換を行い、一定程度のコンセンサスを得てきている。IPCCの報告書が公表され、また我が国のエネルギー基本計画が決定されたことを機会に更に内容を掘り下げ、我々の提言を続けて行く所存である。


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