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2013.03.22

大震災がもたらしたエネルギー危機とその克服のためのエネルギー戦略

zakzakに掲載(2013年3月17日付)

  • 湯原 哲夫

 2年前に我が国が直面した大震災は、日本にエネルギー危機をもたらし、いまだ克服されていない。危機の回避へ向けた戦略的取り組みも、また中長期的なエネルギービジョンもまた明確にされないままである。地球温暖化を抑制するための二酸化炭素排出削減の野心的かつ実現可能でない、我が国の国際的公約も修正されないままである。福島原発の事故原因がいくつかの機関によって明らかにされ、安全の確保が技術的に可能であると考えるが、再稼動は中々進まない。代替する化石燃料の輸入額はかってない規模の貿易赤字をもたらし、相次ぐ電気料金の値上げは家計や企業の採算を悪化させ続けている。安価で高効率な石炭火力の新設さえも否定され、エネルギー多様化も困難に直面し、国民にさらなる経済的負担を強いることが懸念される。また、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度がスタートし、再生可能エネルギー導入にとって大きな進展を見た。しかし太陽光発電などの非常に高い買い取り価格の設定は企業による投資目的のメガソーラなどの建設を激増させ、地域に混乱をもたらした。

 大震災から2年、一方でこの間も世界的な規模でエネルギー・イノベーションは進み、より安定的で高効率なエネルギー基盤の構築に向けて劇的に進展している。シェールガス革命は天然ガスの黄金時代の到来を告げ、その実現へ向けて進行中である。天然ガスが化石燃料の中では最もクリーンでありその高効率な利用を可能にするため、燃料転換が大規模に起こりつつある。新しいコンセプトの電力網の導入がITによる電力ネットワークの知能化によって地域ぐるみで試行され、バッテリー革命や再生可能エネルギーの大規模な導入とともに、新しいエネルギー基盤を切り開いて行く。ハイブリッド車や電気自動車などの導入も進み、また、住宅に太陽光発電とバッテリーを取り入れ、エネルギー的に自立を目指す住宅も販売されるようになって来た。世界の原子力発電技術も福島事故を踏まえ、安全性見直しの上に、新世代の進化した原子力発電システムの建設が続けられ、またその計画も着実に進められている。さらに、炉心溶融を起こさない高温ガス炉の開発により、産業用プロセスヒートの供給や高レベル廃棄物を消滅させる溶融塩炉の開発が、米中や露印の協力により進められるようになった。

 このような中にあって、原発ゼロとするエネルギー政策をゼロから見直し、製造業を中心とする産業を強化し、再び活力ある日本経済を取り戻そうという機運になって来た。エネルギー戦略の基本は、(1)安くて安定したエネルギーの供給を確保すること、(2)エネルギー源の多様化を維持しエネルギーセキュリティを図ること、(3)温暖化を抑制するため非化石燃料を積極的に導入すること、に変わりはない。この3条件を満たすように、科学と技術と経済を総動員して、政策が推進されるべきである。温暖化抑制の科学的根拠に基づいて、キヤノングローバル戦略研究所は世界全体のコストミニマムを条件として、先進国の二酸化炭素排出制約を現状から2030年20%削減、2050年50%削減を目標とすべきであると提言している。この枠組みの中で、化石燃料の利用は石炭、石油、天然ガスの割合を等分とし、バランスを保つことがエネルギーセキュリティ上重要である。またエネルギー供給全体に占める化石燃料の割合も、現在の80%強から、高効率化を図ることにより50%以下を目指し、自給率の向上を目標とする。化石燃料、原子力と再生可能エネルギーのシェアをバランスよく等分に分担させることをも重要である。設備投資に見合うメリットを確保するためにも革新的技術の導入が不可欠であり、前述のエネルギー・イノベーションがそれを可能にする。我が国のエネルギー技術はその普及を推進でき、世界に貢献することができる。


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