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2012.08.13

官学民挙げ産業化の実現を

日本海事新聞(2012年7月20日)に掲載

  • 湯原 哲夫

 海洋の開発と利用は「我が国の経済社会の存立基盤であり、海洋産業は経済社会の発展の基盤である」ことを明確な理念として明記した海洋基本法が施行されてから5年が経った。この基本理念を実現するため海洋基本計画が制定され5年ごとに見直されることになっており、今年はその見直しの年で、来年からの新たな海洋基本計画の次なる5年を迎えようとしている。

 海洋基本法制定の背景には、我が国の将来予測される危機への予見とそれを回避し克服するという海洋国家としての意志がある。その危機はエネルギー危機であり、資源危機であり、食料危機であり、また環境と安全の危機である。5年前に比べてそれらの危機はじわじわと顕在化し、我が国の権益と安全保障の確保についても国民の不安が高まっている。

 一方、わが国の産業は長い停滞を来し、国内投資も鈍化し、経済成長と雇用の確保もなかなか改善されないでいる。

 現政権は日本再生に向けて危機をチャンスに振り替えるべく経済分野のフロンティアの開拓を重点的な政策課題として掲げている。未来の日本を背負う新産業の創出に向けた投資を重点的に推進して行くことを予算編成の基本方針とし、中でも「海洋」と「エネルギー・環境」は各省庁の横断的分野として重要施策と位置付けて推進することにしている。

 海洋開発は、研究開発の段階においてわが国はトップランナーに位置しているものの、事業化・産業化の段階で後れを取り、周回遅れとなる例が少なくない。たとえば波力発電の分野においては、研究開発の段階では世界のトップを行く「マイティーホエール」や「海明」と呼ばれた実験プロジェクトを実施したが、実用化に至らず、また海流・潮流発電も研究機関を中心に長年少なからぬ実海域実験を行ってきたが、実用化に至っていない。後発の欧米では、誘導する政策目標と法整備、研究開発基盤を整備した上で、ベンチャー企業にインセンティブを与えて、10年もたたないうちに実用化し、商業運転を開始している。

 海底鉱物資源では、わが国の海底地質学者のレベルは高く、排他的経済水域(EEZ)における鉱物資源開発の可能性を示す発見がこの5年間も次々と報告された。海洋の開発と利用は陸上の開発と異なり、調査や試験にしても数倍の時間と費用がかかり、事業化には多大な投資とリスクを伴う。

 したがって海洋開発先進国はいずれも開発のステップを踏んで、産業化を図ってきた。そのステップは①政策目標の設定と法整備②研究開発の基盤整備と国産技術化③産業化支援と事業化のためのインセンティブの付与④国際展開への支援-から構成され、この順序で戦略的に実行される。

 わが国でもこのステップを経た開発が必要である。現在、わが国の海底鉱物資源探査、わけても熱水鉱床やコバルトリッチクラスト、さらにはレアアース泥などのEEZにおける調査報告は、わが国が資源大国への可能性を示すものである。官民挙げての資源調査に基づく産業ポテンシャルを明確にすることが重要である。

 現在の計画では、次の5年で産業化に必要な研究開発を終え、産業化に至るステップへ移行する計画で進められている。研究開発体制もなるべく早い段階から民間産業もこれに参加して、自主技術開発による産業化を加速することが国民の期待に応えることであり、海洋産業創出の実効性ある体制のあり方である。メタンハイドレートの研究開発も世界のトップランナーであり、天然ガス大国への道を想起させ、同じく国民の期待も高まっており、産学官挙げた体制で取り組むことが望まれる。

 

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