外交・安保カレンダー(10月15-21日)

今週のハイライトは何と言っても在イスタンブール・サウジアラビア総領事館訪問後に行方不明となった同国人ジャーナリストの「失踪事件」だろう。この事件、どこかの国の出来の悪いスパイ映画に似て、あまりに謎が多く、驚くべきことばかり。だが、報じられた情報の多くはフェイクかもしれない。筆者が気になった点を列挙しよう。

まず失踪者の名前が気に入らない。日本ではカショギ氏とされているが、それは違う。事件発生当初の英語ニュースでは同氏の姓をKhashoggi「カショーギ」と読んでいたが、これも正確ではない。Khashoggiは同氏が使った英語名に過ぎず、アラビア語ではカショーギではなく、Khaashuqjii(ヵハー・シュク・ジー)と発音するからだ。

名前なんてどうでも良いではないか、と言う勿れ。姓がKhaashuqjiiとなれば、これは典型的アラブ姓ではない。そう、ジャマール氏の祖父はトルコ系であり、サウジ人女性と結婚した後、サウジアラビア初代国王の主治医となった人物である。ジャマール氏はサウジ王族に近いエスタブリシュメントの一員ともいうべき人物なのだ。

その証拠に、イランコントラ事件で有名になったサウジの武器商人、アドナンも彼の親戚だという。報道からはジャマール氏が、サウジ政府に批判的な新聞記者で、サウド王家から迫害を受けていた悲劇のジャーナリストというイメージが強い。しかし、実際にはジャマール氏も裕福な家庭出身であり、およそ反体制派ではないのである。

米ワシントンポストによれば、今回の事件では、サウジ皇太子がジャマール氏を本国に帰国させた上で拘束するよう命令していたという。俄かには信じられない話だが、もしこれが事実であれば、米サウジ関係の悪化は不可避だろう。総領事館内で殺害し、遺体を切断して本国に持ち帰ったとなれば、米国人は黙っていられないからだ。

米国主要メディアは連日大騒ぎだし、連邦議会も超党派でサウジを厳しく批判し始めた。当初煮え切らない発言を繰り返していたトランプ氏ですら、10月14日にはCBSのインタビューに答え、ジャーナリストの殺害が真実ならば、米国はサウジに対して「深刻な罰」を与えるだろうと発言している。サウジは何を勘違いしたのだろうか。

米国識者の中には、サウジ皇太子と特別な関係を維持してきた大統領娘婿のクシュナー氏が同皇太子を「大胆にさせた」張本人ではないかと批判する。この事件については今週のジャパンタイムズに英語でコラムを書いた。ご関心のある向きはご一読願いたい。

〇欧州・ロシア
今週も大きなニュースはない。懸念すべきは14日のドイツ・バイエルン州議会選挙で、同州を地盤とする国政与党のキリスト教社会同盟(CSU)が歴史的大敗を喫したことだ。CSUの得票率は前回より10%程度下落、逆に、極右政党AfDが得票率10%で初めて議席を獲得した。メルケル政権にとっては危険信号である。

〇中東・アフリカ
サウジジャーナリスト失踪事件を受け、経済界にも激震が走った。Virgin Groupはサウジ公的投資基金との紅海観光関連投資案件協議を停止。10月23日にリヤドで開催予定のサウジ皇太子主催投資会合にはCNN、New York Timesは勿論、JP Morgan、Ford、日経新聞、世界銀行までが参加中止を発表したという。
それでもサウジ政府は強気で、「このような脅しを完全に拒否し、より強力な行動で応じる」と述べたそうだ。筆者のこれまでの経験からサウジが態度を変える可能性は低い。しかし、これまでとは異なり、今回の事件はやはりレッドラインを超えている。これに気付かないサウジ王家はいずれ、しっぺ返しを受けるに違いない。

〇東アジア・大洋州
13-21日に韓国大統領がフランス、イタリア・バチカン、ベルギー、デンマークを訪問する。先般の南北首脳会談を受け、北朝鮮との関係改善を働き掛けるのだとすれば、大きな勘違いだ。現在の韓国大統領は根っからの「反米」「米朝戦争巻き込まれ反対」派なのだろう。こうした「革新系」が政権を握るとこうなってしまうという典型例だ。

〇南北アメリカ
対北朝鮮政策でボルトン大統領補佐官が第二回目となる米朝首脳会談について、「今後2-3カ月のうちに」開催されることを期待すると述べたが、同日、トランプ氏はマティス国防長官について「彼は去るかもしれない」「彼は民主党員のようだ」などと述べたそうだ。この政権、一体どうなっているのか。
内部にいる人間が分からないことを外部の我々が知る由もないが、マティス長官の辞任が現実となれば、個人的には大きなショックだ。同長官はトランプ政権の中で最も有能で尊敬されている閣僚の一人であり、海兵隊大将として米安全保障政策の基本を理解していると思うからだ。残念だが、辞任はもう時間の問題かもしれない。

〇インド亜大陸
ブータンで総選挙が行われる以外に特記事項なし、今週はこのくらいにしておこう。

3-17日 UNESCO 執行理事会 第205回会合(パリ)
8-11月2日 自由権規約人権委員会 第124回会合(ジュネーブ)
9-16日 河野外務大臣がオーストラリア、東ティモール、ニュージーランドを訪問
9-19日 国際原子力機関の海洋モニタリング専門家が訪日
13-21日 韓国・文大統領がフランス、イタリア、ベルギー、デンマークを訪問
15日 EU外相理事会
15日 EU議会委員会会議
15日 米国9月小売売上高統計発表
15日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗、MEO16 2機)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
15日か16日 ロシア1-9月鉱工業生産指数発表
15-16日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
16日 中国9月CPI、PPI発表
16日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ルクセンブルク)
16-18日 ハノーバ・メッセ・インダストリアル・トランスフォメーション・アジアパシフィック(シンガポール)
17日 EU9月CPI発表
17日 APEC財務相会合(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
17日 カナダが大麻を合法化
17-18日 韓国・文大統領がバチカンを公式訪問
17-19日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会A及び非公式・専門家委員会 第54回会合(ウィーン)
17-21日 UPU(万国郵便連合)郵便業務理事会(ベルン)
18日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18日 インド8月鉱工業生産指数発表
18日 FOMC議事要旨
18日 ブータン国会議会選挙
18-19日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
18-19 欧州理事会(ブリュッセル)
18-19日 第12回アジア欧州議会(ASEM)首脳会合(ブリュッセル)
18-20日 第12回ASEAN国防相会議
18-21日 河野外務大臣がアイスランド及びデンマークを訪問
19日 中国第3四半期マクロ経済統計(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
19-22日 Armageddon Expo 2018(アニメ、映画、ゲーム関系)
20日 アフガニスタン下院選挙
20日 アリアン5(水星探査ペピ・コロンボ)打ち上げ(仏領ギアナ基地)

【来週の予定】
22日 プロトンM(気象衛星Elektro-L N3)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
22日か23日 ロシア1-8月貿易統計発表
22-25日 欧州議会本会議(ストラスブール)
23日か24日 ロシア9月雇用統計発表
24日 ベージュブック
24日 メキシコ9月雇用統計発表
24日 イタリア・コンテ首相がロシアを訪問
24-28日 Trade Expo Indonesia 2018
25日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
25日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
25日 黒海経済協力機構運輸相会議(アゼルバイジャン・バクー)
25-27日 フード・ジャパン2018(シンガポール)
26日 米国第3四半期GDP(速報値)発表
26日 メキシコ9月貿易統計発表
26日 ロシア中央銀行理事会
26日 アイルランド大統領及び国民選挙
27日 ガボン国民議会議員選挙決選投票
27日 朱雀一号(未来号衛星)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
28日 ジョージア大統領選挙
28日 ブラジル大統領選挙(決選投票)
28日 ドイツ・ヘッセン州議会選挙
28-29日 インド・モディ首相の訪日

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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