外交・安保カレンダー(9月3-9日)

先週8月31日、トランプ政権が国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出の中止を表明した。昨年12月のエルサレムをイスラエルの首都と認定する決定、今年5月の米大使館のテルアビブからの移転に次ぐ、和平プロセスへの大打撃となることは間違いない。アラビストの筆者としては実に歯痒い思いがする。

日本メディアでの取り扱いは小さいが、欧米では大きなニュースだ。米国からの報道によれば、これを決めたのは先月行われた大統領の娘婿Jクシュナー氏とMポンペイオ国務長官との協議の席だったという。国務長官は支出金の急激な削減に難色を示したようだが、クシュナー氏はこうした反対論を押し切ったそうだ。

他の報道によれば、クシュナー氏は「我々の目標は現状維持ではあり得ない。時には目的達成のため戦略的に物事を破壊することも必要である"Our goal can't be to keep things stable and as they are," "Sometimes you have to strategically risk breaking things in order to get there."」とも述べたそうだ。事実なら大問題だろう。

これを日本語では「贔屓の引き倒し」という。親しく思う相手に良かれと思ってやったことが逆にその相手を窮地に陥れることもある。クシュナー氏の真の目的はパレスチナ自治政府や一般大衆に「難民の帰還権」なる幻想を抱かせないようにすることなのだろうが、こうした圧力でパレスチナ側が帰還権を断念するとは到底思えない。

欧米の報道は、失うものをまた一つなくしたパレスチナ側の米国やイスラエルに対する反発が更に高まると見ているようだが、それは結果に過ぎない。今回の米国の動きの最大の問題は、中東和平プロセスで「善意の仲介者」の役割を果たしてきた米国が、そうした役割を事実上放棄し、パレスチナ問題の解決を不可能にすることだ。

パレスチナがPLOとハマースに分裂し、交渉相手がいなくなったことは事実だろうが、それでこの問題を解決しなくて良いことにはならない。むしろ、問題解決が長引けば長引くほど、イスラエルの生存権が脅かされることになるだろう。そのことを正確に理解するイスラエル人は少なくないはず。中東和平プロセスは瀕死の状態だ。

〇欧州・ロシア
西欧は今週から本格的な活動再開かと思ったが、EU関連の閣僚会議がいくつかあるものの、本格的な外交活動をしているのはドイツ外相のトルコ訪問ぐらい。まだまだ、欧州のバケーションは続くのだろうか。それとも、今週は偶然大きな動きがないだけなのか。

〇中東・アフリカ
7日、シリア情勢についてロシア・トルコ・イラン首脳がイラン北西部のダブリーズで会合を開く。ロシアとイランは仕方ないとしても、トルコがこうして米国から距離を置きつつ、イランとロシアに接近する状況は隔世の観がある。トルコには他に選択肢がないのか。エルドアン大統領は自国の利益を益々害しているような気がするのだが。

〇東アジア・大洋州
米大統領は11月の米・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、東アジア・サミット、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席しないそうだ。代理でペンス副大統領が出席するらしいが、トランプ氏は昨年も、APECと米ASEANの両首脳会議には出席したものの、東アジアサミットは欠席している。実に困ったことだ。

〇南北アメリカ
故マケイン上院議員の葬儀にトランプ氏は招かれなかったが、イヴァンカ夫妻は参列していた。その間、トランプ氏はゴルフに出かけたという。これが現在の米国内政の実態かと思うと、ぞっとするではないか。失礼だが、中南米諸国じゃあるまいし、トランプ氏の米国の体たらくは救い難いレベルに達してるようだ。
一方、外交面でトランプ氏は、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を巡り、8月末までにカナダと合意できなかったとして、議会に対し、メキシコとの2国間協定を進める意向を通知したという。トランプ氏はカナダのトルドー氏が余程嫌いなのか、それとも何かカナダ側に別の理由があるのか。これが日本でなくて良かったとつくづく思う。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

7月30-9月14日 ジュネーブ軍縮会議 第3部(ジュネーブ)
8月27-9月7日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)第51回作業部会B及び作業部会AとBのジョイントミーティング(ウィーン)
28-9月6日 対日理解促進交流プログラム・日韓学術文化交流事業訪韓団(第1-2団)が訪韓
29-9月8日 第75回ベネチア国際映画祭(ベネチア)
31-9月4日 薗浦内閣総理大臣補佐官がエチオピア及びオマーンを訪問
31-9月9日 Media & Printing EXPO(ラオス)
2-4日 インド・コヴィンド大統領がキプロスを訪問
2-7日 河野外務大臣がコーカサス3か国及びドイツを訪問
2-8日 佐藤外務副大臣がパナマ及びボリビアを訪問
2-8日 日中植林・植樹国際連帯事業・清華大学学生訪日団が訪日
3日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会 若年担当相非公式会合(ウィーン)
3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3日 労働者の日で米市場休場
3日 ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害取材のロイター通信記者に判決
3-4日 第7回中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)(北京)
3-5日 国連クラスター弾に関する条約 第8回締約国会議(ジュネーブ)
3-6日 堀井外務大臣政務官がナウルを訪問し、太平洋諸島フォーラム(PIF)域外国対話に出席
3-7日 APEC女性と経済に関するハイレベル会合(大臣級)(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
3-8日 エクアドル・モレノ大統領が訪日
4日 米国連邦議会予備選挙(マサチューセッツ)
4日 カバノー米最高裁判事に対する指名承認公聴会(ワシントン)
4日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
4日 外務省主催「車座ふるさとトーク」開催(長野県飯山庁舎)
4-7日 UNDP/UNFPA/UNOPS 執行理事会 Second regular session(ニューヨーク)
4-9日 「パリ協定」の特別(国連気候変動枠組み条約)作業部会が開幕(バンコク)
4-13日 対日理解促進交流・日本の大学生等が韓国を訪問
5日 米国7月貿易統計発表
5日 カナダ中央銀行、政策金利発表
5日か6日 ロシア8月CPI発表
5-7日 G20教育相および雇用担当相合同会合(アルゼンチン・メンドーサ)
5-9日 山口公明党代表が中国を訪問
6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日 米国連邦議会予備選挙(デラウェア)
6日 ブラジル8月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
6日 カンボジア新内閣発足
6日 米印外務・国防閣僚協議(2プラス2)(ニューデリー)
6-10日 2018年ハノイ建設展「VIETBUILD」
7日 ユーログループ(ウィーン)
7日 米国8月雇用統計発表
7日 メキシコ8月CPI発表
7日 EU第2四半期実質GDP成長率発表
7日 シリア情勢についてロシア・トルコ・イラン首脳が会談(イラン北西部ダブリーズ)
7-8日 EU経済・財務相理事会 非公式会合(ウィーン)
8日 中国8月貿易統計発表
9日 スウェーデン議会総選挙
9日 ロシア・統一地方選
9日 北朝鮮建国70周年記念日
9日 ファルコン9(Telstar18 VANTAGE)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)

【来週の予定】
10日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
10日 中国8月CPI発表
10-11日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会 健康担当相非公式会合(ウィーン)
10-13日 欧州議会本会議(ストラスブール)
10-28日 国連人権理事会 第39回会合(ジュネーブ)
10日か11日 ロシア第2四半期経済活動別GDP発表
10-11日 UN-WOMEN 執行理事会 Second regular session(ニューヨーク)
10-14日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
10-15日 APEC中小企業相会合および関連会議(ポートモレスビー)
11日 米国連邦議会予備選挙(ニューハンプシャー)
11日 英国労働市場統計(5-7月)発表
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 H-IIBロケット7号機(宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機)打ち上げ(種子島宇宙センター)
11-13日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)
11-16日 枝野立憲民主党代表が訪米
12日 米国連邦議会予備選挙(ロードアイランド)
12日 ベージュブック(FRB)
12-13日 国際農業開発基金(IFAD)執行理事会 第124回会合(ローマ)
12-14日 UNICEF執行理事会 Second regular session(ニューヨーク)
13日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
13日 米国8月消費者物価指数(CPI)発表
13日 ブラジル7月月間小売り調査発表
13日 ジャパン・ハウスロンドンのグランドオープニング式典を開催
14日 米国8月小売売上高統計発表
14日 EU外相理事会 外相非公式会合(開発)(ブリュッセル)
14日 中国8月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 ロシア中央銀行理事会
14-15日 G20貿易・投資相会合(アルゼンチン・マルデルプラタ)
15日 デルタII最終号機(ICESat-2)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
15日 PSLV(SSTL S1-4, NovaSAR-1他)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
15-23日 IMPORT&EXPORT FAIR(ラオス)
16-18日 フランシス法王がエストニア、ラトヴィア、リトアニアを訪問

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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