外交・安保カレンダー(7月9-15日)

今週は先週訪朝したポンペイオ米国務長官の話を取り上げる。正直なところ、筆者はこの本来保守強硬派ながら、北朝鮮の理不尽な態度に席を立つことも出来ない哀れな国務長官に深い同情を禁じ得ない。トランプ氏の信頼は厚いだろうが、所詮彼は中間選挙まで対北交渉継続を最重視する大統領の「使い走り」でしかないからだ。

同長官は訪朝を「極めて生産的だった」と評価、「北は完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」とまで言い切った。これに対し、北朝鮮外務省報道官は「実に遺憾だった」と強く反発しただけでなく、「一方的でギャングのような非核化要求だった」とまで述べた。およそ「訪朝成功」とはいえないだろう。

これまで北朝鮮と米側の間で如何なるやりとりがあったのだろうか。色々調べている内に、2年前ではあるが興味深い公式声明を見付けた。といっても、元韓国大統領府国家安全保障室次長、駐豪大使、外務第1次官、六者協議の韓国首席代表でもあった趙太庸氏(現在慶応大学)に教えてもらったことなのだが、これが意外に面白い。

この文書、日付は2016年7月6日、(北)朝鮮政府代弁人の発表だ。この中で北朝鮮は自国が「主張する非核化は朝鮮半島全域の非核化であり、これには南の核廃棄と南朝鮮周辺の非核化が含まれている」と述べつつ、「朝鮮半島の非核化」を実現するための諸条件につき次の通り述べている。(参考まで【】内に筆者のコメントを付す。)
●米国と南朝鮮当局が朝鮮半島の非核化に一抹の関心でもあるなら、次のようなわれわれの原則的要求から受け入れるべきだ。【これは2016年7月の話だから、恐らく今回も北朝鮮は米国に似たような要求をしている可能性が高いだろう】
●第一に、南朝鮮に引き入れて是認も否認もしない米国の核兵器からすべて公開すべきである。【北朝鮮は米国が韓国に核兵器を隠し持っていると思っているらしい】
●第二に、南朝鮮からすべての核兵器とその基地を撤廃し、世界の前で検証を受けなければならない。【ありもしない韓国内の米核兵器を検証せよとまで言っている】
●第三に、米国が朝鮮半島とその周辺に随時展開する核打撃手段を二度と引き込まないという保証をしなければならない。【B52戦略爆撃機やSLBM搭載原潜などを朝鮮半島に持ち込むなと言っている】
●第四に、いかなる場合にも核で、核が動員される戦争行為でわれわれを威嚇、恐喝したり、わが共和国に反対して核を使用しないということを確約しなければならない。【北の核兵器放棄前に米国による対北朝鮮核兵器不使用を確約せよと言っているのだから、余程米国の核兵器が怖いのだろう】
●第五に、南朝鮮で核の使用権を握っている米軍の撤退を宣布しなければならない。
【更に、在韓米軍の撤退にまで言及しているのだから、誠に恐れ入る】
●このような安全保証が実際に遂げられるなら、われわれもやはりそれ相応の措置を取ることになるであろうし、朝鮮半島非核化の実現において画期的な突破口が開かれるであろう。【米韓がこれだけのことをしても、北朝鮮は「それ相応の措置」しかとらない、つまり北朝鮮は核兵器廃棄について最後までコミットしていないのだ】

ポンペイオ長官からすれば、フザケルナという話だろうが、それを言ってしまえば交渉は決裂する。そうなればトランプ氏は躊躇なくポンペイオ氏を外すだろう。大統領にとっては少なくとも中間選挙まで北朝鮮との交渉は進展している必要があるからだ。読者はこんな国務長官をやってみたいと思うだろうか。筆者はまっぴらご免である。

〇欧州・ロシア
日本ではポンペイオ訪朝の話ばかりが注目されたが、今週の欧米の関心事はトランプ氏が出席する11-12日のNATO首脳会議と13日の米英首脳会議だ。更に、来週16日にはヘルシンキで米露首脳会談も予定されている。これ以上、米欧州関係が悪化すると取り返しが付かなくなるという声が欧州には少なくないので要注意だ。
そんな中で、11日に日・EUのFTAが署名される予定だった。ところが、日本での記録的豪雨災害を受け、安倍首相はベルギー、フランス、サウジアラビア、エジプト訪問を取りやめたそうだ。残念ではあるが、災害規模の大きさを考えると、致し方ないというべきだろう。

〇中東・アフリカ
9日に米国務長官がアラブ首長国連邦を訪問する。14日から海上自衛隊の訓練船がサウジアラビアを訪問するが、それに合わせてか、日本の首相は予定していた15日のサウジ・エジプト訪問をキャンセルした。残念だが、折角準備をしても、上手く行かない時は上手く行かない。関係者の苦労を思うと胸が痛む。

〇東アジア・大洋州
北朝鮮以外にも東アジアでは動きが少なくない。米国の国務長官は訪朝後、日本、ベトナム、UAEからブラッセルに抜けるそうだ。何と忙しい人だろう。11日には日本の海上保安庁艦船がインドネシアと南シナ海で海賊対策の合同パトロールを行う。これも目立たないが、極めて重要な仕事である。

〇南北アメリカ
9日にトランプ氏が引退する最高裁判所判事の後任を指名する予定だ。引退するのは保守系の判事だから、トランプ氏にとっては絶好のチャンスだろうが、保守なら誰でも良いという訳ではない。議会共和党も一枚岩ではないので、後任がすんなりと決まる保証などないのかもしれない。

〇インド亜大陸
11日に韓国大統領が訪印する。今週はこのくらいにしておこう。

25-7月13日 国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)第51回会合(ニューヨーク)
2-15日 テニス・ウィンブルドン選手権(英・ウィンブルドン)
2-27日 自由権規約人権委員会 第123回会合(ジュネーブ)
4-11日 対日理解促進交流プログラム・ジャパンボウル大会成績優秀者の訪日
8-9日 米・ポンペイオ国務長官がベトナムを訪問
8-12日 シンガポール国際水週間「SIWW」
8-12日 クリーン・エンバイロ・サミット・シンガポール「CESS」
8-13日 韓国・文大統領がインド及びシンガポールを訪問
9日 トルコ大統領就任式
9日 メキシコ6月CPI発表
9日 南スーダン共和国大統領及び総選挙
9日 長征2C(パキスタンのリモートセンシング衛星等)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
9-12日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
9-12日 産業総合博覧会「イノプロム2018」開催(ロシア・エカテリンブルク)
9-12日 香港ファッション・ウィーク(春/夏)
9-13日 国連経済社会理事会主催・SDGsに関するハイレベル政治フォーラム(ニューヨーク)
9-13日 国連人権理事会 第11回先住民族の権利に関する専門家機構(ジュネーブ)
10-13日 化学兵器禁止機関 第88回執行理事会(ハーグ)
10日 中国6月CPI、PPI発表
10日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS9)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
10日 サッカーW杯ロシア大会準決勝(サンクトペテルブルク)
10-16日 米・トランプ大統領が欧州歴訪
11日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策、フランクフルト)
11日 サッカーW杯ロシア大会準決勝(サンクトペテルブルク)
11-12日 NATO首脳会議(ブリュッセル)
11-12日 第536回欧州経済社会評議会(EESC)本会議(ブリュッセル)
11-13日 日・トルコ経済連携協定交渉第10回会合の開催(アンカラ)
11-18日 安倍首相がベルギー、フランス、サウジアラビア及びエジプトを歴訪
12日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
12日 台湾・連元副総統が訪中
12日 米国6月消費者物価指数(CPI)発表
12日 インド5月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル5月月間小売り調査発表
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12日 欧州委員会、夏季経済予測発表
12日 パリで日本博「ジャポニスム2018」開会式(パリ)
12-13日 EU司法・内務相理事会 非公式会合(オーストリア・インスブルック)
13日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
13日 米・トランプ大統領が訪英
13日 米・ポンペイオ国務長官がメキシコ次期大統領と会談
13日 中国第2四半期貿易統計発表
15日 サッカーW杯ロシア大会決勝(サンクトペテルブルク)

【来週の予定】
16日 EU外相理事会(ブリュッセル)
16日 米露首脳会談(ヘルシンキ)
16日 米国6月小売売上高統計発表
16日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
16日 中国第2四半期経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会小売品販売総額など)発表
16日か17日 ロシア上半期鉱工業生産指数発表
16-17日 EU競争担当相理事会 非公式会合
16-17日 オバマ元大統領がケニアを訪問
17日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
18日 ユーロスタット、6月CPI発表
18日 ベージュブック(FRB)
18-20日 ハンガリー首相がイスラエルを訪問
18-21日 第11回ベトナム国際電気技術・設備展(VIETNAM ETE 2018)
19日 長征3A(航法測位衛星第二世代北斗Ⅰ7)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
19-20日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会 雇用・社会政策担当相非公式会合(ウィーン)
20日 ファルコン9(イリジウム・ネクスト10機)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
21-22日 G20財務相・中央銀行総裁会合(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
22日 ファルコン9(Telstar 19V)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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