外交・安保カレンダー(3月5-11日)

5日、中国の全人代は国家主席の三選を禁止する中国憲法の改正案を上程し、同憲法第79条第3項の「2期を超えて連続して就任することはできない」とする規定を削除して任期上限を廃止するための審議を始めた。習近平氏は「文革時代の毛沢東」を目指しているとの分析も一部で散見されるが、これは必ずしも正確ではない。

文革前に権力基盤が弱体化していた毛沢東は、紅衛兵などを使いながら権力の再奪取を目指し文化大革命を始めた、というのが通説だ。これに対し、習氏は毛沢東の如く政治的に追い詰められていた訳ではない。彼は権力集中を国家経済改革を断行するための必要条件と考えたのだろう。問題はそれが十分条件ではないことだ。

今回の憲法改正で習近平氏の権力基盤は一時的に強化されるが、そのような絶対的権力は何時まで続くのか。権力を集中しても、それに繋がる特定産業や国有企業で構造改革が実現しなければ、習氏が描いた「中国の夢」も絵に描いた餅となる。絶対的な権力集中と中国式「中所得国の罠」からの脱却、この二つどう両立させるのか。

今週筆者が最も関心を持つのは4日のイタリア総選挙の結果だ。ベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合が下院で248-268議席、右派ポピュリズム政党「五つ星運動」が216-236議席、レンツィ前首相率いる中道左派連合が107-127議席を獲得する見込みとされ、3陣営のいずれもが過半数に届かない状況となった。

さすがはイタリアだ。翌日になっても最終結果は出ない。それはともかく、要するに結果は、レンツィの中道左派が後退し、ベルルスコーニらの中道右派と反EUの右派が主導権を握るということか。それにしても、「五つ星運動」の伸びは注目に値する。一部には英国のEU離脱やトランプ現象に匹敵する事件とする報道もある。

イタリアは過去70年で70近い内閣を生んできた。今回の結果を如何に分析すべきか。イタリアで歴史が完全に繰り返されることはないだろうが、それでも歴史は押韻する。再びムソリーニが出てくるとは言わないが、イタリア総選挙後の連立議論は大いに要注意だ。

トランプ氏が実施を公言した鉄鋼・アルミ輸入品に対する関税問題も深刻だ。通商製造業政策局長から大統領補佐官への昇格が噂されるPナバロ氏は「対象国に例外を設けないことを大統領は決断した」と述べた。元来の対象は中国であったはずだが、国内政治上の理由でトランプ氏は強硬策を選択したのだろう。驚くべきことだ。

WTO協定を読めば一目瞭然だが、同協定上の「安全保障条項」は一種の禁じ手だ。拡大通商法232条を使うとは、実に姑息である。これが通るなら、何でも有だ。当然各国はWTO紛争解決手続きに則り、パネルに訴えるだろう。ここで米国が勝てるとは到底思えない。遂にトランプ政権はその最も暗いダークサイドを発揮し始めたようだ。

〇欧州・ロシア
欧州では重要政治イベントが続く。イタリア総選挙については冒頭述べた通りだが、ドイツではSPD党員投票でCDUとの大連立案が承認された。これでメルケル首相は一応求心力を回復した形だが、一体いつまで続くのか。イタリアで「五つ星運動」が躍進すれば、EU内でのメルケル首相やドイツ政府の立場は増々難しくなるだろう。

〇東アジア・大洋州
5日からは第13期全人代第1回会議が始まるが、国家主席任期上限廃止問題については既に述べた通り。韓国ではオリンピックが終わり、朝鮮半島の緊張緩和と米朝対話準備の一環として、5-6日に国家安全保障室室長と国家情報院院長ら特使10人を北朝鮮に派遣する。壮大な時間の無駄が始まるが、誰にも止めようがない。
5日から米空母がベトナムに寄港する。1960-70年代を知る者にとっては隔世の観がある。8日にはTPP11の署名式もある。こうした動きを見ていると、冷戦終了後に米国が唯一の超大国として圧倒的影響力を行使していた時代が不思議に思えてくる。米国のエリートが堕落したのか、それとも、米国のダークサイドが覚醒したのか。

〇中東・アフリカ
5日にイスラエル首相が訪米する。今週の中東も静かだ。最近気になるのはシリア等でのイラン革命防衛隊部隊の駐留が、シリアに介入するための一時的なものから、イスラエルに対抗するための恒久的なものに変わりつつあることだ。イスラエルにとっては由々しき事態である。

〇南北アメリカ
トランプ政権のごたごたは相変わらずだ。鉄鋼・アルミに対する関税発動問題だけでなく、トランプ氏の娘婿が最高機密の取り扱い権限を剥奪されたり、トランプ氏の銃規制に関する発言が二転三転したり、冗談とはいえ、習近平終身国家主席を賞賛したり、もう滅茶苦茶だ。やはり彼はTVのトークショーホスト程度がお似合いである。

〇インド亜大陸
9日から仏大統領が訪印する。今週はこのくらいにしておこう。

25-3月5日 北米自由貿易協定(NAFTA)第7回交渉
27-3月6日 対日理解促進交流プログラム・米国のビジネススクールの学生らが来日
3-9日 平成29年度日豪若手政治家交流プログラム・オーストラリア議員団が訪日
3-10日 ファブリツィオ・ホスチャイルド国連戦略調整担当事務次長補が来日
3-10日 在米日系人リーダー一行が来日
4-11日 対日理解促進交流プログラム・米国の大学生等が来日
5日 中国第13期全国人民代表大会第1回全体会議開幕(北京)
5日 米・トランプ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相が会談(ワシントン)
5日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
5日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
5日 フランス外相がイランを訪問
5-9日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
5-9日 米空母がベトナムに戦後初の寄港
5-23日 国際海底機構 法律・技術委員会(キングストン)
6日 米国連邦議会予備選挙(テキサス州)
6日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
6日 EU外相理事会(ブリュッセル)
6日か7日 ロシア2月CPI発表
6-13日 米・ティラーソン国務長官がアフリカ歴訪
6-14日 対日理解促進交流プログラム・「日ASEAN青少年スポーツ交流(サッカー)」を実施
7日 シエラレオネ大統領選
7日 中南米知的財産担当官会議を開催(在メキシコ大使館)
7日 EU第4四半期実質GDP成長率発表
7日 ベージュブック(FRB)
7日 米国1月貿易統計発表
7日 カナダ中央銀行、政策金利発表
7日 ソユーズST-B(通信衛星O3b F4)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
7-8日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
8日 環太平洋連携協定(TPP)の新協定「TPP11」署名式(チリ・サンティアゴ)
8日 英国商工会議所(BCC)年次総会(ロンドン)
8日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
8日 中国2月貿易統計発表
8日 メキシコ2月CPI発表
8-9日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
8-18日 ジュネーブ国際モーターショー(一般公開)
9日 中国2月CPI、PPI発表
9日 米国2月雇用統計発表
9日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
9-12日 フランス・マクロン大統領がインドを訪問
9-18日 第12回冬季パラリンピック大会(韓国・平昌)
11日 チリ大統領就任式(サンティアゴ)
11日 コロンビア上下両院議員選挙
11日 キューバ人民権力全国議会選挙
11日 香港立法会補欠選挙
11日 東日本大震災から7年
11日 石川県知事選挙
11日 米国が夏時間(サマータイム)適用開始
11-17日 ベルギー国王夫妻がカナダを訪問

<3月12-18日>
12日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
12-13日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
12-13日 国際労働機関(ILO)理事会及び委員会 第122回会合(ジュネーブ)
12-15日 スリランカ・シリセーナ大統領が来日
12-15日 欧州議会本会議(ストラスブール)
12-16日 国際商取引法(UNCITRAL)作業部会I(中小企業)第30回会合(ニューヨーク)
12-4月6日 自由権規約人権委員会(ジュネーブ)
13日 米国2月消費者物価指数(CPI)発表
13日 ブラジル1月月間小売り調査発表
13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
13日 EU経済・財務省(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
13-15日 世界経済フォーラム・ラテンアメリカ会合(ブラジル・サンパウロ)
14日 米国2月小売売上高統計発表
14日 中国2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14-16日 第1回ベトナム国際園芸・花生産・加工技術展「HortEx Vietnam 2018」(ホーチミン)
14-16日 ベトナム農業技術および農業機械・設備展「AGRI MACHINERY & TECH VIETNAM EXPO 2018」(ホーチミン)
15日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ブリュッセル)
15日 長征3B(亜太6C)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
16日 EU2月CPI発表
18日 ロシア大統領選挙
18日 インド1月鉱工業生産指数発表

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

« 外交・安保カレンダー(2月26-3月4日) | トップページ | 外交・安保カレンダー(3月12-18日) »

« 外交・安保カレンダー(2月26-3月4日) | トップページ | 外交・安保カレンダー(3月12-18日) »

アーカイブ