外交・安保カレンダー(8月21-27日)

8月18日、遂にスティーブ・バノン首席戦略官が公式にホワイトハウスを去った。バノン氏は既に事実上辞職していたが、12日のバージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義団体と反対派の衝突のため発表が遅れたという。これは日本にとって、世界にとって朗報なのか。筆者の見立てはこうだ。

まずは日本のメディアの論調だが、率直に言ってちょっと的が外れている。大見出しは「陰の大統領、バノン氏孤立の末」「トランプ氏最側近更迭」「外交安保娘婿らと衝突、政権にリスク」「トランプ主義支柱退場」等だったが、筆者はバノン氏だけに焦点を当てた分析では不十分だと考える。

そもそも、バノン氏は7日に既に職務を離れている。されば12日にトランプ氏が、「各方面の憎悪、偏見、暴力」を非難しつつ、白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチを名指しで批判しなかったことにバノン氏が関与したとは思えない。問題の本質はもっと別のところにあるはずだ。

勿論、バノン氏が極端な民族主義者であり、既得権層や中国のような外国を敵視する極右系の人物であることは事実だ。だが、彼は「陰の大統領」ではなかったし、最近急に「孤立」するようになった訳でもない。彼は昔から自らのイデオロギーに忠実な思想家・革命家であったし、これからもそうだろう。

問題はバノン氏ではない。ケリー首席補佐官や、娘婿クシュナー氏、コーン経済安全保障補佐官でもない。真の、かつ最大の問題はトランプ氏自身なのである。ケリー補佐官にバノン更迭を認めたのはトランプ氏だろうが、この事実こそトランプ氏がトランプ政権を自ら統制できていない証拠である。

〇欧州・ロシア
欧州大陸は今週も開店休業だが、21日にフランス政府関係者は労働組合と労働市場改革について協議を行う。なぜ、夏のバカンスの真っ最中なのか。本気で議論する気があるのかは疑問だが・・・。23-25日には仏大統領がオーストリア、ブルガリア、ルーマニアを歴訪する。少なくとも仏大統領は働いている。

〇東アジア・大洋州 
21日から米韓合同演習が始まるが、今回は規模をやや縮小したものの、基本的には机上演習だ。北朝鮮が大騒ぎするぐらいでビビってはいけない。北朝鮮は米韓演習のタイミングでミサイルを撃つのではない。1994年以来、核兵器搭載ICBMを完成させるための既存の計画に従い粛々と実験をしているだけだ。
誤解を恐れずに言えば、今回打つか、打たないかは大きな問題ではない。問題は日本列島越えのICBMを、グアムではなく、太平洋の真ん中に打ち込み、大気圏再突入の本格的実験に成功するか否かである。更に言えば、ミサイル防衛と同様、北のミサイルも本当に1万キロ飛ぶかどうかは二次的問題だ。
まずは、それらの能力を持つと相手に対し示すこと、そして、その相手国をして、そのような能力を敵が持っていると確信させることが大事だ。これこそが抑止力の本質である。勿論、本当に当たるかどうか、届くかどうかは重要だが、抑止論という観点からはそれは別の問題なのである。

〇南北アメリカ
ついでに言うと、バノン氏の誤算は少なくとも三つある。第一は、思想的に波長の合うトランプ氏がバノン氏ほどイデオロギー的ではなかったこと、第二に、バノン氏の独善的全能感により他の人間が馬鹿に見えて仕方がなかったこと、第三に娘夫婦がトランプ氏よりも遥かに賢く、現実主義者だったことだ。
いずれにせよ、バノン氏の更迭はトランプ政権の「終わり」の始まりとなるだろう。但し、「終わり」の「終わり」が何時になるかはまだ分からない。バノン氏は今後もトランプ氏を非難しつつ、支援し続ける。この二人は切っても切れない関係だ。次にホワイトハウスを去るのはケリー首席補佐官かもしれない。

〇中東・アフリカ 
この暑い中を米国の中東和平チームがイスラエルとパレスチナを訪問する。ヘッドが誰かは知らないが、本来ならトランプ氏の娘婿となってもおかしくないのだが。恐らく、彼はそれどころではないだろう。同チームはその後、サウジ、UAE、ヨルダン、カタルを訪問する予定だそうだ。

〇インド亜大陸
15日のインド独立記念日に際し、中国人民解放軍部隊がインド軍部隊と衝突し、投石騒ぎになったと報じられた。手を出したのは中国側だというが、それにしても懲りない連中だと思う。今週はこのくらいにしておこう。

18-30日 APEC第3回高級実務者会合(ベトナム・ホーチミン)
19-30日 第29回夏季ユニバーシアード競技大会(台北)
20-23日 ウズベキスタン・カミーロフ外相がインドを訪問
21日 色丹島、国後島及び択捉島から患者の受け入れ
21日 OPEC・非OPEC主要産油国が合同専門委員会会合
21日 米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリダームガーディアン」開始
21日 約1世紀ぶりの全米横断皆既日食
21-24日 自動車部品関連展示会「アフトメカニカ」(モスクワ) 
21-25日 中根外務副大臣がカザフスタン、タイ及びフィリピンを訪問
21-31日 国連包括的核実験禁止機関 準備委員会作業部会B及び非公式・専門家会議第49回会期(ウィーン)
22日 メキシコ第2四半期GDP発表
23日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
23日 ロシア第1四半期対内外直接投資統計発表
23日 全国高校野球選手権大会決勝(甲子園球場)
23日 アンゴラ大統領選挙・国民議会選挙
23日か24日 ロシア上半期貿易統計、7月雇用統計発表
23-26日 自動車部品関連展示会「インテルアフト」(モスクワ)
23-27日 ネパール・デウバ首相がインドを訪問
24-25日 フランス・マクロン大統領がルーマニア及びブルガリアを訪問
24-25日 第19回日中韓3カ国環境大臣会合(TEMM19)開催(韓国・水原)
24-25日 第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)閣僚級フォローアップ会合(モザンビーク・マプト)
25日 メキシコ7月雇用統計発表
25日 タイ・インラック前首相に対する最高裁判決
25日 ファルコン9(地球観測衛星Formosat5およびSherpa小型衛星搭載機構)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
26-27日 ベネズエラで全国規模の軍事演習
27日 茨城県知事選挙

【来週の予定】
28日 PSLV-XL(インド航法測位衛星IRNSS-1H)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
28日 メキシコ7月貿易統計発表
28-29日 日伯経済合同委員会(ブラジル・クリチバ)
28-31日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28日-9月1日 中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委(韓国・釜山)
29-30日 APEC第3回高級実務者会合(SOM3)(ベトナム・ホーチミン)
29-30日 国連ウィメン執行委員会(ニューヨーク)
30日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
30日-9月1日 英・メイ首相が訪日
31日 インド第1四半期GDP発表
31日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
31日 ユーロスタットが7月失業率発表
31日 7月の米個人所得・支出発表(商務省)
31日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
8月中 インド6月鉱工業生産指数発表
8月中 南スーダン・サルヴァ・キール大統領がスーダンを訪問
8月中旬 スーダン・アル・バシール大統領がロシアを訪問
9月1日 EU、掃除機に関する新たなエコデザイン要件とエネルギーラベル指令の適用開始
1日 米国8月雇用統計発表
1日 ブラジル第2四半期GDP発表
1日 アリアン5(インテルサット37eとBSAT 4a)(仏領ギアナ基地)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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