外交・安保カレンダー(6月5-11日)

今週筆者が最も注目したのは、日本が中央アジア5か国国民に対しビザ発給要件を緩和するという、地味ながら、実は極めて重要と考えるニュースだ。5月に開かれた第6回「中央アジア+日本」外相会合の際に発表したものだという。

対象はカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの一般旅券所持者で、5日から短期滞在ビザの発給要件を緩和するそうだ。以前から中央アジアが重要と主張してきた筆者はこれを高く評価する。

外務省HPによれば従来の商用、文化人・知識人への短期滞在数次ビザの発給対象者の範囲を拡大するとともに、最長有効期間を現行の3年から5年に延長。更に、自己負担渡航の短期滞在ビザも身元保証書等の提出書類を省略する。

中央アジアは今もロシアに近く、日本にとっては遠い国々だが、中国のウイグル自治区にも近く、日本が戦略的に押さえておくべき重要な地域だ。これで中央アジア諸国との人的交流が一層活発化されれば良いのだが・・・。

もう一つ気になるのはトランプ政権のパリ協定離脱の余波だ。この問題を考えていたら、1919年のベルサイユ講和条約に規定された国際連盟に米国が不参加表明したことを思い出した。

パリ協定と国際連盟は時代も国際環境も異なる事件だが、筆者は「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という英語の格言を思い出した。ちなみにこの言葉は米作家マーク・トウェインのものと言われるが、どうも違うらしい。

二つの事件での米政府の動きに歴史的な押韻はあるのか。理想主義的民主党大統領の国際主義的提案を、米国の伝統的孤立主義的思想の強い共和党政治家が葬り去る姿は、百年前と同じだ。詳しくは今週の産経コラムを読んでほしい。

とにかく、再びトランプ砲が炸裂してしまった。長年地球温暖化問題に取り組んできた欧州諸国から厳しい批判の声が上がり、米国内でも民主党関係者に加え、共和党の一部にすら反発が広がっている。

筆者の関心事は、米国のパリ協定離脱により、一世紀前の国際連盟不参加と同様、国際安全保障情勢が混乱・不安定化する恐れはないか、という点だ。今後米国の国際的信頼が風化し始めれば、70年間の国際的安定も風化しかねない。

〇欧州・ロシア
また英国で、今回はロンドンだが、再びテロ事件が起きた。英国でのテロは2005年以降静かだったが、最近凶悪テロ事件が二回続いた。英国もフランスやベルギーを笑えないだろう。6月8日には総選挙があるが、メイ首相はどうなるのだろうか。
英国も日本と同じ水際防御が容易な島国で、AK-47のような銃器の入手は難しいのかもしれない。だが、英国式の「イスラムとの共存」政策は破綻したと言っても良いだろう。欧州大陸と同様、国内の「イスラム教徒の海」の制御は難しいということか。

〇東アジア・大洋州
4-8日にベトナムのグエン・スアン・フック首相とラオスのトンルン首相が訪日する。これも地味な扱いだが、重要な訪問だ。ベトナムはインドシナ地域の最強国で対中関係が微妙。これに対し、ラオスは最貧国の一つで中国とはべったりの関係。こうした外交の積み重ねが何時か花咲くことを信じたい。

〇中東・アフリカ 
5日は第三次中東戦争開戦の50周年に当たる。第三次は「6日戦争」とも呼ばれ、イスラエルの不敗神話を作った戦争だったが、多くの若い人々は現在の中東和平問題の焦点であるイスラエルの西岸・ガザ占領がこの時始まったことを知らない。
当時国連安保理決議242と337が作られ、その後和平交渉が本格化したが、1993年のオスロ合意以降、交渉は停滞した。イスラエルは入植地拡大を止めず、パレスチナ側はファタハとハマスに分裂したからだ。今、決議242と337を言っても空しい。
サウジなど4か国がカタールと国交断絶したことで、一部の人はびっくりしている。筆者は、「よくあることで、驚かない」、子供が「君なんか嫌いだ、もう絶交だ」と喚くのと同じで、真に受ける必要はないと言っている。カタールの品行の悪さはいつものこと。

〇南北アメリカ
6日にコウミー元FBI長官が上院情報特別委員会の公聴会で議会証言するという。トランプ氏にとっては手強い相手、ホワイトハウスは証言阻止を企んでいるとも報じられたが、さすがにそれは難しいだろう。
この証言で何が飛び出しても、トランプ氏は無視を決め込むはずだ。まだ、トランプ対ワシントンの戦いは序盤戦。共和党の議員が中間選挙でトランプと共に戦うか、トランプ抜きで戦うか、のどちらが再選に有利と判断するかが焦点。全てはそれ次第だ。
現状ではそう簡単に大統領弾劾などの事態に至らないだろう。共和党議員は上下両院で多数派を占めている。トランプさえ静かにしてくれれば、かなりの法案を通すことができると考えるはずだからだ。ワシントン人のフラストは溜まるばかりだろう。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。


【6月5-11日】
2-7日 河井内閣総理大臣補佐官がシンガポール及びフィリピンを訪問
4-8日 ベトナムのグエン・スアン・フック首相が訪日
4-8日 ラオスのトンルン首相が訪日
4-8日 薗浦外務副大臣が米国及びフランスを訪問
5日 EUが多国籍企業に対する国別報告(CbCR)の加盟国内法の適用を開始
5日 ジョージア国民に対する訪日短期滞在ビザの発給要件緩和を開始
5日 中央アジア5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)国民に対する訪日短期滞在ビザの発給要件緩和を開始
5日 第1回地域の魅力発信セミナーの開催(東京)
5日 世耕弘成経済産業相とペリー米エネルギー長官が会談(経産省)
5日 第3次中東戦争開戦から50年
5-6日 メキシコ・ニエト大統領がグアテマラを訪問
5-6日 ティラーソン米国務長官がオーストラリアとニュージーランドを訪問
5-16日 第106回国際労働機関(ILO)総会(ジュネーブ)
5-23日 第211回国際民間航空機関(ICAO)Council Phase(モントリオール)
6日か7日 ロシア5月CPI発表
6-7日 OECDフォーラム(パリ)
6-7日 スペインのアルフォンソ・ダスティス外務・協力相がロシア訪問
6-8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6-8日 モルドバ首相がベラルーシを訪問
6-23日 第35回国連人権理事会(ジュネーブ)
7日 OECDが経済見通しを発表
7日 国連貿易開発会議(UNCTAD)が2017年版世界投資報告書発表
7日か8日 ロ米首脳会談(ドイツ・ハンブルク)
7-8日 カスピ海石油・ガス会議(アゼルバイジャン・バクー)
7-9日 米国・ヘイリー国連大使がイスラエル・パレスチナを訪問
8日 EU統計局(ユーロスタット)が第1四半期実質GDP成長率発表
8日 英国庶民院(下院)選挙
8日 中国5月貿易統計発表(中国税関総署)
8日 メキシコ5月CPI発表
8日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(エストニア・タリン)
8日 駐日各国大使等を対象とした福島県いわき市スタディーツアー
8日 5月の景気ウォッチャー調査(内閣府)
8日 4月の国際収支(日本・財務省)
8日 1~3月期GDP改定値(日本・内閣府)
8-9日 上海協力機構首脳会議(カザフスタン・アスタナ)
8-9日 EU司法・内務省理事会(ルクセンブルク)
8-9, 26日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ルクセンブルク)
9日 中国5月CPI発表(国家統計局)
9日 ブラジル5月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
9日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
9日 国際オリンピック委員会(IOC)臨時理事会(スイス・ローザンヌ)
10日 アスタナ国際博覧会開幕(カザフスタン・アスタナ)
11日 フランス国民議会(下院)選挙(第1回投票)
11-12日 G7環境相会合(イタリア・ボローニャ)

【来週の予定】
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
12-15日 欧州議会本会議(ストラスブール)
12-16日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
12-16日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会年次会合(ローマ)
13-16日 国連児童基金(UNICEF)執行理事会年次会合(ニューヨーク)
13日 ブラジル4月月間小売り調査発表
13-14日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)理事会(スイス・ジュネーブ)
13-14日 米国連邦公開市場委員会(FOMC)
14日 米国5月消費者物価指数(CPI)、小売売上高統計発表
14日 中国5月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14-17日 国際農業祭(ニュージーランド・ハミルトン)
15日 EU域内の一時的な越境移動に伴うローミング課金の廃止
15日 ユーログロープ(非公式ユーロ圏財務省会合)(ルクセンブルク)
15-18日 第31回国際旅行フェア(香港)
16日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ルクセンブルク)
16日 ロシア中央銀行理事会
16日 CIS経済理事会(モスクワ)
16日か19日 ロシア第1四半期経済活動別GDP、1~5月鉱工業生産指数発表
16日 ユーロスタット、5月CPI発表
16日 EU経済・財務省(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
16-18日 第2回アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会(韓国・済州)
16-18日 第15回エネルギー産業国際展示会(パキスタン・カラチ)
17日 国際労働機関(ILO)理事会および委員会(ジュネーブ)
18日 フランス国民議会(下院)選挙(決選投票)
18日 アルバニア議会選挙
18-19日 APEC持続可能な観光に関するハイレベル政策円卓会議、関連シンポジウム(ベトナム・ハロン)

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

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